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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
15/109

15〔鈴木明日香の絵〕

明神男坂のぼりたい


15〔鈴木明日香の絵〕    





 ―― 君の絵が描けた ――


 うそ!?



 トースト食べながらメールをチェックしていたら、馬場先輩のメッセが入ってたのでビックリした。


 ここんとこ、毎朝十五分だけ絵のモデルをやりに美術室に足を運んでる。


 まだ一週間ほどで、昨日の出来は八分ぐらいだったから、完成は来週ぐらいかと思っていたので、ビックリした。



「うわー、これがわたしですか!?」


 イーゼルのキャンパスには、自分のような自分でないような女の子が息づいていた。


「昨日すごくいい表情してたんで、昨日は残って一気に仕上げたんだ。タイトルも決まった」


「なんてタイトルですか?」


「『オーシッ!』って付けた」


「『オーシ!』……ですか?」


「いや、『オーシッ!』 ほら、これからなんかやるぞって時に拳握って力入れるだろ」


「あ……ああ!」


 拳握って思い出した、無意識にやってるよ。


「うん。もともと明日香は、なにか求めてるような顔をしていた、野性的って言っていいかな。動物園に入れられたばかりの野生動物みたいだった」


 あたしは、高崎山の猿を想像して、打ち消した。


 小学校の頃のあだ名は、そのものズバリ「猿」だった(^_^;)。


 ジャングルジムやらウンテイやら、とにかく上れる高いとこを見つけては挑戦してた。


 最後は四年のときに、遠足で木に上って、校長先生にどえらく怒られた。


「ハハ、そんなことしてたんだ。でも……いや、それと通じるかもしれないなあ。木登りは、それ以来やってないだろ?」


「はい、親まで呼ばれて怒られましたから。それに木には興味無くなったし」


「でも、なにかしたくて、ウズウズしてるんだ。そういうとこが明日香の魅力だ。こないだまでは、それが何なのか分からない不安やいら立ちみたいなものが見えたけど。昨日はスッキリした憧れの顔になってた。それまでは『渇望』ってタイトル考えていた」



 思い出した。



 一昨日の帰り道、女優の梅田はるかさんに会って、東亜学園まで案内したことを。


 あたしは、梅田はるかに憧れたんだ。それが、そのまま残った気持ちで、昨日はモデルになった。


「あたし、今でも、こんな顔してます?」


「う~ん……消えかけだけど、まだ残ってるよ」


「消えかけ……?」


「心配しなくても、この憧れは明日香の心の中に潜ってるよ。また、なんかのきっかけで飛び出してくるかもしれない」


「うん。描いてもらって良かったです。あたしの中に、こんな気持ちが残ってるのが再発見できました!」


「オレもそうさ。増田って子も良かったけど……」


「けど、なんですか?」


「あの子のは自信なんだ。それも珍しい部類だけどね。満ち足りた顔より、なにか届かないものに憧れている顔の方がいいと、今は思う」


 理屈から言うと、増田さんの方が自信タップリでいいけど、馬場さんの言い方のせいか、あたしの方がグッドに思えた。


「これ、卒業式の時に明日香にあげるよ」


「え、ほんとですか!?」


「ああ、絵の具が完全に乾くのにそれくらい時間がかかるし、この絵を描いたモチベーションで次のモチーフ捜したいんだ」


 フワア~(#^0^#)


 あたしは、高校に入って、一番幸せな気持ちになれた。


 梅田はるかといい、馬場先輩といい、短期間に素敵な人に巡り会えた。


 この気分は、放課後まで残って、気持ちを小学四年に戻らせてしまった。



「こらあ、アスカ! パンツ丸見えにして、どこ上っとるんじゃあ!」


「あ、ちゃんとミセパン穿いてますから」

 

 稽古前になにかやりたくなってグラウンドへ。


 で、十年ぶりに気に登りたくなった!


 でも、うちのグラウンドはコンクリート。


 頭を巡らせると玄関外の楠が思い浮かんだ。


 よし!


 初めて男坂を見上げた時のような高揚感!


 で……


「もうすぐ本番だって言うのに、怪我したらどうすんの!」


 上ったところを顧問の東風先生に怒られてしまった。



※ 主な登場人物


 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生

 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問

 香里奈          部活の仲間

 お父さん

 お母さん

 関根先輩         中学の先輩

 美保先輩         田辺美保

 馬場先輩         イケメンの美術部

 佐渡くん         不登校ぎみの同級生


 

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