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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
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12〔てへぺろ(๑´ڡ`๑)〕

明神男坂のぼりたい


12〔てへぺろ(๑´ڡ`๑)〕  


     


 

 ジリリリリ! ジリリリリ!



 え、なんで目覚ましが!?


 頭が休日モードになってるんで、しばらく理解できなかった。



 そうだ、今日はドコモ文化ホールで、裏方の打ち合わせ兼ねてリハーサルだったんだ!


 朝のいろいろやって……女の子の朝ていろいろとしか言えません。


 こないだリアルに書いたら自己嫌悪だったしね。



「明日香、タクシーで行け!」



 五千円札出してお父さんが言ってくれる。


「ううん、電車で行く!」


 まだ、ギリ間に合うって気持ちと、タクシーだったら日課の男坂とは逆方向の昌平橋通りに出なきゃならない。


 大事な日に明神様をスルーするわけにはいかない!



 で、いつものように男坂駆け上がる。



 キャ!


 神田明神男坂門の標柱曲がったところで巫女さんと鉢合わせ!


 申し訳ないことに、タタラを踏んで巫女さんの胸を掴んでしまった(#'∀'#)!


「す、すみません! 急いでたもんで!」


「え、あ、うん、大丈夫、気にしないで(^_^;)」


 寛容な笑顔に、もう一度ペコリと頭を下げて、そのまま随神門から出てしまい――しまった!――と気が付いたときには鳥居を出てしまって、明神様にあいさつできなかった。


 とっさに振り返って最敬礼!


 もっかい回れ右して駆けだそうと思ったら、だんご屋のおばちゃんと目が合う。


 申し訳ないけど、アハハとてへぺろ(๑´ڡ`๑)して駅に向かう。


 まあ、おばちゃんも笑ってたんで、いいや。



 で、けっきょく早く着きすぎて、ホールの前で待つ。


 

 やがて、東風先生と美咲先輩がいっしょに来た。



「お早うございます」


「お早う、明日香」


 と、先生。


「なんだ、まだ開いてないの?」


 挨拶も返さないで美咲先輩はぷーたれる。



 すると、玄関のガラスの中から小山内先生が、しきりに指さしてるのに気が付いた。



「え……」


「ああ、横の関係者の入り口から行けるみたい」



 美咲先輩が言う。こういうことを読むのは上手い。


―― ほんとうは、美咲先輩の芝居だったんですよ! ――


 思っていても、顔には出ません出しません。



 ちょっと広めの楽屋をとってもらってるんで、直ぐに稽古。



 台詞も動きもバッチリ……なんだけど、小山内先生は「まだまだ」と言う。



「エロキューションが今イチ。それに言った通り動いてるけど、形だけだ。舞台の動きは、みんな目的か理由がある。女子高生の主人公が、昔の思い出見つけるために丘に駆け上がってくるんだ。十年ぶり、期待と不安。そして発見したときの喜び。そして、そのハイテンションのまま台詞!」


「はい」


 ほんとうは、よく分かっていない。


 でも、返事はきちんと真面目に。


 稽古場の空気は、まず自分から作らなくっちゃ。



 稽古が落ち込んで損するのは、結局のとこ役者。


 そして、今回は役者はあたし一人。



 よーし、いくぞ!



 美咲先輩は気楽にスクリプター。


 まあ、がんばってダメ書いてください。書いてもらって出来るほど上手い役者じゃないですけど。


 もう、本番二週間前だから、十一時までの二時間で、ミッチリ二回の通し稽古。



「もうじき裏の打ち合わせだから、ダメは学校に戻ってから言う」



 小山内先生の言葉で舞台へ。


 南風先生はこの芸文祭の理事という小間使いもやってる。ガチ袋にインカム姿も凛々しく、応援の放送部員の子らにも指示をとばす。


 本番通りの照明あかり作って、シュートのテスト。


「はい、サスの三番まで決まり。バミって……バカ、それ四番だろが! 仕込み図よく見なさい!」


 東風先生の檄が飛ぶ。


 放送部の助っ人はピリピリ。


 美咲先輩はのんびり。



 美咲先輩、本番は音響のオペ。で、今日は、まだ音が出来てないから、やること無し。


 正直言て、迷惑するのは舞台に立つあたしなんだけど、学年上だし……ああ、あたしも盲腸になりたい。


「それじゃ、役者入ってもらってけっこうです」


 舞台のチーフの先生がOKサイン。


「はい、じゃ、主役が観客席走って舞台上がって、最初の台詞までやりましょ。明日香いくぞ!」


「はい、スタンバってます!」


 一応舞台は山の上いう設定なんで、程よく息切らすのに走り込むことに演出変えになった。


「……5,4,3,2,1,ドン決まり!」


 あたしは、それから二拍数えて駆け出す。


 階段こけないように気をつけながら、自分の中に湧いてくるテンション高めながら、走って、走って、舞台に上がって一周り。



「今日こそ、今夜こそあえるような気がする……!」



 ああ、さっきまでと全然違う。


 こんなにエキサイティングになったのは初めて! いつもより足が広がってる! 背中が伸びてる! 声が広がっていく!


「よっし、明日香。その声、そのテンション、忘れんなよ! 舞台の神さまに感謝!」


 小山内先生は、舞台には神さまが居るって、よく言う。


 ただ、気まぐれな神さまなので、誰にでも微笑んではくれない。



―― あと二週間、微笑んでいてください ――



 心の中でお願いした。


 さあ、昼ご飯食べたら、学校で五時まで稽古。


 がんばるぞ!


 気を引き締めて、観客席見ると美咲先輩が見事な大あくび。


 カチン!


「もう、あなたの毛は生えたのだろうか!?」


 美咲先輩めがけてアドリブを、宝塚の男役風にかます。


 さすがにムッとした顔……舞台のチーフの先生が。


―― え、なんで? ――


「あの先生はアデランスなんだよ、バカ!」


 東風先生に怒られてしまう。


 てへぺろ(๑´ڡ`๑)


 …………


 ああ、スベッテしまった(╥﹏╥)。




※ 主な登場人物


 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生

 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問

 香里奈          部活の仲間

 お父さん

 お母さん

 関根先輩         中学の先輩

 美保先輩         田辺美保

 馬場先輩         イケメンの美術部

 佐渡くん         不登校ぎみの同級生


 


 


 

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