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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
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11〔今日から絵のモデルだ!〕

明神男坂のぼりたい


11〔今日から絵のモデルだ!〕  






 二つ目の目覚ましで目が覚めた。


 そだ、今日から絵のモデルだ!



 フリースだけ羽織って台所に。とりあえず牛乳だけ飲む。



「ちょっと、朝ご飯は!?」



 顔を洗いにいこうとした背中に、お母さんの声が被さる。



「ラップに包んどいて、学校で食べる!」



 そのまま洗面へ。とりあえず歯を磨く。


 ガシガシ


「ウンコはしていけよ。便秘は肌荒れの元、最高のコンディションでな」


 一階で、もう本書きの仕事を始めてるお父さんのデリカシーのない声が聞こえる。


「もう、分かってるよ。本書きが、そんな生な言葉使うんじゃありません!」



 そう反撃して、お父さんの仕事部屋と廊下の戸が閉まってるのを確認してトイレに入る……。



 しかし、三十分早いだけで、出るもんが出ない……仕方ないから、水だけ流してごまかす。


 ジャーーゴボゴボ


「ああ、すっきり!」


 してないけど、部屋に戻って、制服に着替える。いつもは手櫛のところをブラッシングして紺色のシュシュでポニーテール。


 ポニーテールは、顎と耳を結んだ延長線上にスィートスポット。いちばんハツラツカワイイになる。



「行ってきま……ウ(;'∀')」



 と、玄関で言ったとこで、牛乳のがぶ飲みが効いてきた。



 二階のトイレはお母さんが入ってる。しかたないので一階へ。



 用を足してドアを開けると、お父さんが立ってた。


 ムッとして玄関へ行ことしたら、嫌みったらしくファブリーズのスプレーの音。




 タタタタタと男坂を駆け上がり、拝殿の前でペコリ。


 タタタタタ、再び駆け出して境内を横断、西に向かって学校を目指す。



 三十分早いと、ご通行のみなさんの密度も顔ぶれちがう。


 途中、知らないOL風の人に笑顔を向けられる。条件反射の笑顔で返したけど、だれだろう?


 クチュン!


 くしゃみが出たところで思い出した。


 あれは巫女さんだ!


 はじめて巫女服でない巫女さんを見た。


 なんだか、神さまの正体見たようで愉快。


 じゃ、明神さまの正体って……妄想しかけたところで、学校の正門が見えてくる。




 学校の玄関の姿見で、もっかいチェック。よしよし……!



 美術室が近くなると、心臓ドキドキ、去年のコンクールを思い出す。思い出したら、また浦島太郎の審査を思い出す。


 ダメダメ、笑顔笑顔。


「お早うございま……」


「そのまま!」


 馬場先輩は、制服の上に、あちこち絵の具が付いた白衣を着て、立ったままのあたしのスケッチを始めた。で、このスケッチがメッチャ早い。三十秒ほどで一枚仕上げてる。


「めちゃ、早いですね!」


「ああ、これはクロッキーって言うんだ。写真で言えば、スナップだね。マフラーとって座ってくれる」


「はい」



 で、二枚ほどクロッキー。



「わるい、そのシュシュとってくれる。そして……ちょっとごめん」


 馬場先輩は、自慢のポニテをクシャっと崩した。あんなにブラッシングしたのに。


「うん、この感じ、いいなあ」


 十分ちょっとで、二十枚ほどのクロッキーが出来てた。なんかジブリのキャラになったみたい。


「うん、やっぱ、このラフなのがいいね。じゃ、明日からデッサン。よろしく」



 で、おしまい。



 三十分の予定が十五分ほどで終わる。そのまま教室に行くのはもったいないと思っていたら、なんと馬場先輩の方から、いろいろ話しかけてくれる。


 話ながら、クロッキーになんやら描きたしてる。あたしは本物のモデルみたいな気になった。


 その日の稽古は、とても気持ちよくできた。


 

 小山内先生が難しい顔しているのにも気がつかないほどに。




※ 主な登場人物


 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生

 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問

 香里奈          部活の仲間

 お父さん

 お母さん

 関根先輩         中学の先輩

 美保先輩         田辺美保

 馬場先輩         イケメンの美術部

 佐渡くん         不登校ぎみの同級生

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