108〔救急車に載せられて〕
明神男坂のぼりたい
108〔救急車に載せられて〕
救急車のサイレンが聞こえて、途絶えた意識が切れ切れに戻って来る。
三階でひっくり返ったもんだから、どうやって担架もってくるんだろう……?
苦しいけど、そんなこと思った。
佐渡君の時は路上だったから、すぐにストレッチャーに載せられて、そのまま救急車まで運ばれた。
「だいじょうぶ、ゆっくり行くからねえ……」
救急隊員のお兄さんは、とっても口調が優しい。保育所の先生か生協のお兄さんみたいな感じ。
ガンダムがこんな感じだったら……気持ち悪い。
宇賀先生だったらステキ、東風先生……ありえねえ。
イチ ニ サン
掛け声と共にハンモックみたいなのに載せられて、三人がかりで階段を下ろしていく。
玄関の階段を降りると、ハンモックごとストレッチャーに載せられ、ゴロゴロと振動が伝わって来る。
あ……谷底だ。
上向きの視界に入って来るのは、四角い空。
男坂と両側の建物に区切られた景色は谷底のイメージ、家の前で、こんな真上を向いたことなかったもんね。
風の谷のアスカ……なんてね。
苦しいんだけど、ちょっと感動。
視界の端に、ご近所の人たち。明神さまにお参りする人もチラホラ。
あ、だんご屋のおばちゃん……巫女さん……巫女さんの笑顔以外の表情初めて見た。
ガッシャン
ハッチバックからストレッチャーごと載せられる。
その瞬間、心配顔のお母さんの後ろに佐渡君が見えたような……。
バタム
ハッチバックが閉められて、発作みたいに救急車のサイレンが鳴り始める。
ピーポーピーポーピーポーピーポー
救急隊のお兄さんが無線で連絡して……搬送する病院をあたってる。
「だいじょうぶ、こんな可愛いお嬢さんだから、手を挙げる病院はいっぱいあります(^▽^)」
心配するお母さんに、救急隊員のお兄さんはやさしい。
お母さん、ジャージのまま……え?
首から上はさつき?
「明日香、お母さん付いてるからね」
声はお母さん。
え?
不思議に思ってると、お母さんの顔……え、あたしの顔?
手を握ってくれて……これって、佐渡君を救急車に載せた時のあたし?
あたしは……あたしは……
そこで再び意識が……途絶え……た……。




