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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
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101〔The Summer Vacation・8〕

明神男坂のぼりたい


101〔The Summer Vacation・8〕 


         



 ハワイロケは忙しかった。


 ワイキキビーチからダイヤモンドヘッド、アラモアナ・ショッピングセンター、ハナウマ湾、カラカウア通り、モアナルア・ガーデン、クアロア牧場、記念艦ミズーリ、と二日間かけて、撮影許可が下りるとこでは全部撮った。


 親会社のユニオシ興行のやることに無駄はありません。


 あたしたちはリカちゃん人形みたく行く先々で着替えて、水着からアロハの短パン。支給された私服(?)なんかに着替え、3台のカメラで、延べ40時間分ほどの撮影。



 なんせ、曲が1950年代のアメリカンポップスの代表『VACATION!』


 あ、そうそう。帰ってから曲のタイトル『VACATION』にビックリマーク『!』が付くようになるんだって。


 マイナーチェンジ? 


 とにかく、微妙な変化を付けて差別化を図り、オタクの心をくすぐって、売り上げを伸ばそうってユニオシの魂胆。


 年寄りから若者まで、アメリカ人も日本の観光客もノリノリでノーギャラのエキストラに付き合ってくれる。むろん、あたしたちが可愛くって、イケてるからなんだけど(≧∇≦)市川ディレクターと夏木インストラクターのやることはインスピレーションに溢れてて、ミズーリの前では、どこで調達してきたのか、水兵さんのセーラー服を着て『碇上げて』を即興の振り付けでやらされました。


 夜は、泊まってるホテルの要請で急きょミニライブ。これで宿泊代が三割引き。ほんとにうちのプロダクションは……!


 そんなふうな過密スケジュールで、さすがに線が切れかかったあたしたちに、なんと半日の自由時間。メンバー22人は4、5人ずつのグループに分かれて、ちょっとの間VACATION。ただ、ビデオカメラを持たされて、とにかく撮りまくることが条件。


 これはアイデアだったよ(^▽^)。


 プロのカメラマンじゃなくて、素人のあたしたちが、好き勝手に撮るんだから、いろんなビデオが撮れます。あとは編集するだけで、経費も手間もかかりません。


 ほとんどの子は、いわゆる名所を回ったけど、あたしは、ちょっと勇気出してアリゾナ記念館に行った。


 アリゾナ記念館は、真珠湾攻撃で日本海軍がボコボコにして沈めた戦艦アリゾナの上にある。いわゆる日本の『スネークアタック』と呼ばれる、アメリカ人には忘れられない歴史記念物。日本人観光客は、あんまり行きません。


 あえて、ここを選んだのは、アメリカ人の生の反応が知りたかったから。


 入館は無料。


 沈んだままのアリゾナの真上を交差するように浮桟橋みたいな仕掛けで記念館がある。56メートルの「潰れた牛乳パック」と言われる白い箱みたいな記念館。


「中央部はたしかにたるんでいるが、両端はしっかりと持ち上がっており、これは最初の敗北と最終的な勝利を表している。大きなテーマは平静であり、人々の心の最も奥にある悲しみの表現は、その人それぞれに感じ取るものでありデザインでは省略した」んだそうです。


 亡くなった乗組員の銘板と、英文の説明文があった。


 さぞかし日本の悪口が書いてあるんだろうと単語を拾うようにして読んでたら、いかついアメリカ人のオッチャンが寄ってきた。一瞬ビビったけど、オッチャンはにこやかに握手を求めてきた。


「AKR47のメンバーだね」


 きれいな日本語。聞くとアメリカ海軍の退役軍人さん。で、あたしたちが読みあぐねてた文章を、ていねいに日本語に訳してくれた。


「アメリカ人には悲劇だけども、これは君たちのひいおじいさんたちが、どんなに勇敢に高い技術で戦ったかを書いてある。あの開戦は当時の情報技術では、悲劇的な行き違いだったけど、アメリカ人も日本人も死力を尽くした。そのことが書いてある。ここから何を読み取るかは、それぞれの人の心の問題だ」


 なんか、アメリカに一本取られたような気がした。


 そのあと、オッチャンは当たり前のアメリカ人に戻って、いっしょに記念撮影。Tシャツにサインしてあげたらムッチャ喜んでくれた。


―― なかなか粋なオッサンだ ―― 


 さつきの声がした……ような気がした。


 さつきは、明神さま(親父の将門さん)から海外に出る許可がおりなかった。


 だんご屋が忙しいというのが理由だったけど、カヨちゃんの後ろには出雲阿国が付いて来ている気配。


 きっと大人の事情てか、神さまの事情。


 まあ、お土産買って帰って、お話いっぱいしてやろう。

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