10〔なんだか よく分からない〕
明神男坂のぼりたい
10〔なんだか よく分からない〕
一昨日と昨日はクラブの稽古。
休日の二日連続の稽古はきつい。
だけど、来月の一日が本番だから、仕方ない。
美咲先輩、恨むよ。
健康上の理由には違いないけど、結果的には盲腸だった。
盲腸なんか、三センチほど切って、絆創膏みたいなの貼っておしまいなんだって。
三日で退院してきて「大晦日は自分の家で『ガキの使い』ながらミカンの皮剥いてた」と、気楽におっしゃる。
「あそこの毛って剃ったんですか?」
と聞いてウサバラシするのがやっと。
今さら役替わってもらえないし、東風先生も替える気ないし。
まあ、あたしもいっぺん引き受けて台詞まで覚えた芝居だしね。
だけど、指導に来てるオッサン……ウットーシイ!
ウットーシイなんて言ったら、バチがあたる。
小山内カオルいう演劇の偉い先生。
うちのお父さんとも付き合いがあるけど、東風先生は、小山内先生の弱みを握ってる(と、あたしは思ってる!)ようで、熱心に指導はしてくれる。
「明日香クン、エロキューション(発声と滑舌)が、イマイチ。とくに鼻濁音ができてない。学校の〔が〕と小学校の〔が〕は違う」
先生は見本に言ってくれるけど、違いがよく分からない。
字で書くと学校の〔 が 〕は、そのまんまだけど、小学校のは〔 カ゜〕と書く。国語的には半濁音というらしい。
「まあ、できてなくても通じるか……」
あたしが、十分たっても理解できてないと、そう言って諦めてくれた。
問題は、その次。
「明日香クン、君の志穂は、敏夫に対する愛情が感じられないなあ……」
あたしは、好きな人には「好き」いう顔ができない。
言葉にもできない。
関根先輩に第二ボタンもらうときも、正直言って、むりやりブッチギッた言う方が正しい。
関根先輩が、後輩たちにモミクチャにされてる隙にブッチギってきた。
だから、関根先輩自身はモミクチャにされてるうちに無くなったもんで、あたしに「やった」つもりはカケラもない。
第一回目では見栄はりましたぁ!
すんませんm(__)m。
あと半月で、TGH高校演劇部として恥ずかしくない作品にしなくちゃならない。
ああ、プレッシャー!
S……佐渡君が学校に来た。びっくりした!
きっと、毒島先生が手ぇまわしたんだろ。
いっしゅん石神井の十日戎で会って、鏑矢あげたこと思い出したけど、あれじゃない。
あんな戸惑った……いや、迷惑そうな顔してあげたって嬉しいはず無い。
毒島先生が「最後の可能性に賭けてみよ!」とかなんとか。生徒を切るときの常套手段だということは、お父さん見てきたから、よく分かってる(後日談だけど、ほんとはよく分かってなかった)。
「本当に描かせてくれないか?」
食堂で、食器を載せたトレーを持っていく時に、馬場さんが、思いがけん近くで言う。
ガッチャーン
ビックリして、トレーごとひっくり返してしまった。
チャーハンの空の皿だったんで、悲惨なことにはあらなかったけど。
「は、はひ(#°д°#)!」
悲鳴のような返事をしてしまった。
なんで、あたしが……なんだか、よく分からない。
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生




