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花を摘むひと  作者: 樹歩
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第27章・悶える鳥その15


 私はもしかして視野が恐ろしく狭い人間なのかもしれない。

どうして那智以外の男性は浮かばないのだろう。どうして那智じゃなければいけないのか。

那智は私の男じゃなかったのに。もしかしてそうなんだろうかと、ふたりでいた頃から思っていた。それを思い浮かべては消し、いつか心の底に封印させていても、いつもそれを意識していたと思う。

那智に私よりも優先する存在があるだろうこと。私だけの那智になる日は来ないだろうこと。それを・・思い知らされる日がいづれは来るであろうということ。


あの人をあの人をあの人を・・・もう1度だけでいい、私の腕に抱けたら。そして叶うなら

あの人があの人があの人が・・・もう1度だけでいい、私の名を呼んでくれたら。 




 そして今私はこうして2度目の夜行列車の座席に座っている。まだ2度目なのに数回乗ったかのような感覚がある。外は暗い。身体は重く、動ける範囲の決められた狭いベンチと空間で、私の身のあちこちが軋んでいる心地だった。それはまるで走る電車の軋みと重なっているようだ。

 痛い。ひたすら痛い。文字通り身も心も。どうして私はこんなにつらい思いをしてまであの土地へ行くのだろう。那智は私を待っていない。待つどころか私の存在さえないのに。あのココという少女も結局あれから一度も現れない。すべて、すべてが私を不在(いな)いものにしてゆく。私は此処にいるのに。確かにいるのに。だからこそこんなに痛いのに。

 だったら行かなければいいのだ。もっと楽に生きようとすればいい。それができない。那智がおそらく永遠に私だけの那智にならないと思い知らされた今でも、私は那智を求めている。那智と過ごした時間をただ過ぎ去っただけの思い出だけにしたくない気持ちが強すぎる。

 その一方で私はわかっている。もうあの日々は戻ってこない。戻ってこないし繰り返されることもない。新たにあんな蜜月を紡げるはずはない。それはもう()うにわかっていたこと。あの日、那智が私とのあまねく日々と別れる決心をした時に決まったことなのだ・・・。私は何度も天秤にかけていた。もし、また那智が私とともに生きていく気持ちになったら。ふたりでこの列車に肩寄せ合って乗ることができたら。あの女性と少女よりも私を選んでくれたら。いや、那智が家族(だと思う)に捨てられることだってあるかもしれない。あの人たちが私と那智の間柄を知ったら。そしたら・・・そしたらもう一度。もう一度あの日々が来ることもないとは言えないのかもしれない。そんなことわからない。

 でもどんなにかすかな可能性を考えてみても、私の不等号は孤独な結末の方が(まさ)っていた。那智ともうお互いの身体を温めあうことのない確信をえていた。きっとこうなってもならなくても私は那智とは一緒にいられなかった。

 私は窓の外を見る。暗い暗い暗い夜の果てを。トンネルも外も見えるものは変わらない気がした。硝子には虚ろな眼をした女の顔があるだけ。


 ねえ、心澪。私は何処へ行くの?いつになったら本当の「そと」へ行けるの?どうやったら行けるんだろうね?・・・多分それを見つける為にこうしてるんだよね?那智に言ってもらいたくて。


「もうミレイのことは要らないよ」って言ってもらいたくて。

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