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吸血鬼な薬屋さん  作者: Gotsu
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第1話

「ただいま~!」


 怪しい色の瓶や大きな釜、得体のしれないものが所せましと置かれた部屋に似合わない鈴のような美しい声が響く。


「今日はトマトが安くてよかった!」


 声の主の少女は黒い厚手のローブの中からトマトがいくつか入ったバスケットを取り出し、手近な机の上に置く。そしてそのうちの一つを齧る。


「うん、おいしい!」


 大きなトマトをあっという間に平らげ、幸せそうな顔で言った。


「さて、学校も終わったし、お仕事お仕事!」


 そう言って黒い大きな三角帽子を脱ぐ、そしてローブの中にしまわれた長い髪を後ろでぎゅっと結んで仕事に備える。


「えっと、今日の納品は……。」


 黒い板に白い文字で、[ギルドに納品するもの!]書かれたカレンダーをアクアマリンのように澄んだ海色の目が真剣に見つめる。


「赤色の回復薬と……毒消しが2個ね。」

「あとは、このお薬の出来は……うん、いい感じ!」


 棚から赤色の液体の入った瓶2つを手近な袋に入れたあと、大きな釜の蓋を開け、満足そうに目を細める。そして鍋の中の液体を手際よく空き瓶に入れていく。液体を入れ終わった瓶2つをさっきの袋に手に入れて店舗の入り口兼玄関を開けた。


「日が暮れる前に持っていこうっと!」


 勢いよく家を飛び出した少女だったが……。


「わわっ!帽子忘れちゃった!」


 勢いよく戻ってきたのだった。




 彼女の名前はリリル・アナトリス、城壁に囲まれたコストゥーラの町に住む12歳の女の子、祖母と一緒に薬屋さんを営んでいたが、数年前に祖母が失踪してからは一人で薬屋さんを切り盛りしている。 

つい最近、魔力があることがわかり、半ば強制的に魔法学校に通わされるようになった。学校に通うことになり、本業のお店は学校が終わってからでなければ開けられなくなってしまっていた。そして、その分お店での稼ぎが減っている。リリルはその埋め合わせをするために、最近は町の冒険者ギルドへ薬を納品して生活費の一部を稼いでいる。



 家と店舗の入り口を兼ねた扉を出たリリルは、冒険者ギルドへ続く少し太い道を歩く。町の中心にある冒険者ギルドに近づくにつれ、人通りが増え、通りの両側では夕方の買い物をする人が溢れていた。

 リリルはその中でも真っ黒な装いで、大きな三角帽子をかぶっていたので、他の通行人よりちょっとばかり目立っていた。


「おっ、リリルちゃん、今日も納品かい?」

「はい、おじさん。この間いただいたお肉、すごく美味しかったです!」


 肉屋の少し小太りな中年のおじさんに話しかけられたリリルは笑顔で答える。


「そうかい、納品帰りに気が向いたら寄ってくれよ、安くしとくぜ!」

「うぅ、すみません、今日はお金が……。」


 今日の薬の納品はたったの4個、お肉を買ってしまったら明日の朝とお昼のご飯のお金が厳しくなってしまう。そう思ったリリルは少し申し訳なさそうに肉屋のおじさんに言った。


「リリルちゃんしっかりしてるねぇ、ウチの息子にも見習わせてぇ!!ほら、これ持っていきな!」

「あっあの!」

「いいってことよ、だいぶ前にもらった薬のお礼さ!」


 強引に渡された包みと肉屋のおじさんの顔を交互に見て、リリルはしぶしぶといったふうに包みを受け取った。


「あの!ありがとうございます!」


 そうして笑顔で肉屋のおじさんにお礼を言ってペコリと頭を下げる。そして再び道を歩き出した。


「おや、リリルちゃんじゃないか、元気にやってるかい?」

「はい、おばさん!」


 通りを歩いているリリルはしばしばお店の人に声をかけられる。

 数年前、祖母が失踪してから幼いながらも一人でお店を守ろうと奔走した。それを見た周囲の人は最初は周囲の目は冷ややかだった。だが、彼女が一生懸命に薬を売ろうとする姿や、なんとか薬の材料を集めようと奮闘する姿にしだいに心を動かされていった。

 そして、何より彼女が作る薬の効き目がいい、という事も大きな要因になっていた。町で使う薬は腹痛を治す物やちょっとした切り傷、擦り傷を治す物、熱を下げるものなどが主なのだが、彼女が作る薬はとてもよく効くと評判だった。

 そして、今では黒いローブに大きな帽子という風貌もあいまって、近所ではほんの少し名の知れた薬屋さんになっていた。




 様々な人に声をかけられながら、しばらく道を歩いたリリルは一つの立派な建物の前に到着した。入り口の上にある看板には[コストゥーラ冒険者ギルド]と書いてあり、建物の中では沢山の人が依頼が書かれてある掲示板を見たり、ギルドの職員と話し合っていた。


「うぅ…いつ来ても緊張する……」


 リリルは緊張した面持ちで開けっ放しの大きなドアをくぐる。入った所でちょっとだけ視線がリリルに集まる。


「はぁ……。」


 リリルはため息をつく。

 つい最近冒険者ギルドに登録したばかりで、周りから見ると場違いに見えるのは自覚しているが、この空気にはまだ慣れない、視線を気にしないように、気を取り直していついもの窓口に並ぶ。

 前に並ぶ何人かの冒険者が用件を済ませ、次はいよいよリリルの番だ。

 リリルは納品する薬の入った袋を無意識に握り締めた。


「リリルちゃん、こんにちわ。」


 受付の女性はリリルを見て笑顔を作る。


「こんにちは、ミーナさん!あ、あの、納品に来ました!」


 リリルはそう言って緊張気味に薬の入った茶色の皮袋を渡した。ミーナと呼ばれた受付のお姉さんはその袋を開けて中を確認する。

 ミーナはリリルが初めて冒険者ギルドに来た時に受付をしてもらった人だ。最初に登録でとまどっている所を呼び止められ、右も左もわからないリリルに色んな事を教えてくれて、それから何かと世話をやいてくれる。 

 それ以来、リリルはミーナがいる日をねらってギルドに行くようにしている。


「はい、赤色回復薬と毒消しを二個、確かに頂きました。」


 そしてミーナは薬のかわりに茶色い銅貨をいくつかリリルに渡す。


「今回の報酬よ、あと何か依頼を受けるんでしょう?」

「はい、お願いします!」


 お金をもらってもまだ緊張気味に返事をするリリルを見てミーナは温かく微笑む、そして、リリルが出来そうな依頼をいくつか選んでいく。


「次は……そうね、これなんかどうかしら?」


 ミーナが選んだ次の依頼は、今回の依頼よりも難しい水色の回復薬の依頼だった。


「う~ん、水色の回復薬、家に作り方あったかなぁ……。」

「出来なくても大丈夫よ、この依頼、罰則は決められていないみたいだから。」


 しばらく考え込むリリルにミーナは言った。


「えぇっ、そんな依頼があるんですか?」


 リリルは驚く、通常の依頼は期限が定められていたり、達成できなかった時に罰金を払うなどの罰則が定められているのが普通なのだ。


「ええ、どうも訳ありの依頼みたいなんだけど、罰則がないなんて珍しいわよね、でもやってみる価値はあると思わない?」


 ミーナにそう言われたリリルは二つ返事で依頼を了解した。そして自分の身分証になるギルドカードを渡して手続きをする。


「はい、じゃあお願いね。」

「はい、ミーナさん、またよろしくお願いします。」


 手続きが終わって、ギルドカードを返されたリリルは丁寧におじぎをしてお金とカードを忘れないように袋にしまう。そしてギルドを後にした。




「ミーナ、ちょっといい?」


 リリルを見送ってしばらくして、受付が少し暇になった所でミーナは同僚に呼びとめられる。


「薬の依頼で罰則がない、なんて、誰の依頼なの?それにFランクのあの子が水色回復薬なんて作れる訳ないじゃない。」


 同僚が言ったのももっともだった。回復薬は冒険者が出発前に必ず準備しなければいけないもので、冒険者として仕事をするための必需品だ。だからこそギルドは在庫を切らさないように定期的に依頼を出すし、薬の依頼には特に厳しい期限が設定されてる。そして期限を破ってしまった場合の罰則が納品系の依頼にしては少し重いのが普通だ。


「ああ、この依頼は私が出したのよ。」

「……呆れた、どうしてそこまであの子に肩入れするの?」


 ミーナの同僚は肩をすくめて言った。ギルドの職員は冒険者に対して公正でなければならない、個人に合った仕事を斡旋はするが、よほどの事がない限り誰かを特別扱いはしないのだ。ミーナがリリルに斡旋した仕事はそう言う意味ではグレーゾーンだった。


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!」


 ミーナは待ってましたと言わんばかりに胸を張って、なぜかリリルとの出会いから話始めた。

もしよければ、ブックマークや評価などして頂けると嬉しいです。


ちなみに作者は豆腐メンタルです、よろしくお願いします。

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