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吸血鬼な薬屋さん  作者: Gotsu
18/44

第17話

「ふわぁああぁぁ~」


 町の鐘が鳴ったのを聞いて目を覚ますリリル、寝ているうちに1日が過ぎてしまったようだ。

「ふわぁ~~、あれ?メルちゃん?」

 あくびをした後に昨日の出来事を思い出してメルセデスを探す。

「いない、でも……お腹も痛くないし、治ってる?」

 起きてすぐに、あれだけ痛かった腹痛は治っていることに気づく。それどころかいつもより体の調子がいい気がする。

 リリルは屋根裏部屋を降りてメルセデスを探す。


「メルちゃん?」


 探してみると、メルセデスが机に突っ伏して寝ているのを見つけた。



「メルちゃん、こんなところでどうしたの?」

「んん?ああ、考え事してたらちょっとね……」


 目に隈を作っているメルセデスを見て、きっとメルセデスが寝ずに看病してくれたんだと思って嬉しくなる。


「メルちゃん、昨日はありがとう、お腹が痛いのも治っちゃった。」

「そう、よかったわね……」


 あまり嬉しそうじゃないメルセデスを見てリリルは不思議に思う。


「メルちゃん、どうしたの?もしかして私の病気が移っちゃった?」

「そんな事ないわよ、ちょっと考え事してただけよ、朝ごはん作ってくるわ。」



「メルちゃん、どうしたんだろう……」

 すっと立ち上がって台所に消えていくメルセデスを見て不安になる。

「あと、一昨日の領主様の屋敷で働く話、受けようと思ってるから。」

「ええっ、受けないって……」

「気が変わったのよ、アラン様に言っておいてくれる?」

「うん……わかった……」

 メルセデスの急な申し出にさみしそうに答える、確かに領主様に雇われれば安泰だし、借金も早く返せる。リリルが止められるような理由はなかった。

 メルセデスに用意された朝食を無言で食べる、おいしく感じた朝食も、またいつもの味に戻ってしまったようだった。




◆ ◆ ◆ ◆




 朝のできごとがあって暗い気持ちで学校に着くと、教室のみんなひそひそ話をしているようだった。

 リリルはそれにも気づかず、無言で自分の席に座った。

「おい。」

「おい!」

「はい!?」

 前の席から声がかかって2回目でようやく気が付く、心は今朝の出来事で上の空だった。

「昨日はどうして休んだんだ?」

「えっ!?あの、あの、お腹が痛くって……」

 おどおどして話すその姿を見て、周囲のひそひそ話がさらに大きくなる。

「そうか……」

「あの、メルちゃんが領主様のところで働くお話し、やっぱりお受けしますって……」


 その言葉を聞いたアランは以外そうな顔をした。


「わかった、何があったか知らんが、父上に話しておく。」


 アランはそう言うと、いつものように話は終わったとばかりに前を向いた。


(リリルちゃん、昨日休んでから元気ないよ……お茶会で何かあったのかな……?)


 お茶会に行った次の日に学校を休んでしまっては、よからぬ噂がたつのもしかたのない事だった。

 いつも元気にふるまっているリリルがこんなふうに思い詰めている姿を見るのはミアには耐えられなかった。



「リリルちゃん!」



 後ろで様子を見ていたミアは立ち上がってリリルを教室の外へ引っ張って行く。


「ふぇ、ミアちゃん!?」


 ミアはこの間のように驚くリリルの手を引いて部屋の外に出る。


「ミアちゃん、どこ行くの、もう授業始まっちゃうよぉ!」

「今日は学校は休みなの!」

「ええっ?」

「私がそう決めたの!」


 状況が呑み込めないままのリリルを引っ張って、ミアは学校の外へ飛び出した。

 


◆ ◆ ◆ ◆



 ミアはリリルの手をひいて町を歩く、到着したのは北の町の中心にある広場だ。


「ミアちゃん、どこまで行くの?」

「そうね、今日は学校は休み、ここで遊びましょう!」


 不思議そうに聞くリリルに答える。


「遊ぶって……。」

「そうそう、ここのお店のりんごタルト、安くて美味しいんだよ!」

「ええっ!でもお金ないよ…。」

「いいのいいの!」


 ミアはリリルの手をひいてお店に入る。


「いらっしゃいませ。」


 店員らしい女性がお店に入って来た2人に声をかける。


「りんごのタルトと紅茶を2人分おねがいします。」

「承りましました、奥の席へどうぞ。」


 あれよあれよという間に2人分の注文をしてしまったミア。


「あの、ミアちゃん……」

「いいの、学校を連れ出しちゃったお詫びよ。」


 ミアは悪戯そうに舌を出して言う。

 

「お待たせしました。」


 すぐにミアとリリルの前に先ほど注文したタルトが運ばれてくる。


「さあ、リリルちゃん、今度は何があったのか話してくれる?」


 タルトを一口食べたミアは本題に入った。


「うん、ミアちゃん今日の朝ね……」


 リリルは今日の朝の出来事を話す。




◆ ◆ ◆ ◆



「そう、そのエルフの子がやっぱり領主様のところで働きたいって言いだしたの……」

「そうなの、メルちゃんって領主様の前では働きませんって言っておいて、ひどいよね。」


 今朝の事をまた思い出してしょんぼりする。


「リリルちゃん、どうして気が変わったのか聞いてみた?」

「ううん、でもお金を早く払いたくなったんじゃないかなあ?」


 リリルの予想は当たっていた。探し人が見つかったメルセデスは一日でも早く森に帰る事を考え始めていたのだ。


「そう、でもそうにしたってやっぱり理由を聞いて話し合わないとダメだよ。」

「でも、私に止める権利なんてないよ……」

「権利なんて話じゃないよ、リリルちゃんはそのメルちゃんにどうして欲しいの?」

「えっと、えっと、一緒に暮らして欲しい……です………。」


 消え入りそうな声で言う、こんな風に友人を悩ませるメルセデスって子は一度分からせてあげないといけないと決心するミア


「そう、だったら伝えるしかないんじゃない?」


 ミアは真剣な目でリリルを見据える。


「伝える?」

「そう、メルちゃんと一緒に暮らしたいから領主様の仕事は断って欲しいって。」

「ええっ、そんな事、できないよぉ……」

「じゃあメルちゃんが領主の家に働きに出て二度と帰ってこなくてもいいの?エルフの女の子ならさっさと囲われちゃうかもしれないよ?」


「それは……嫌だよぅ……」


 泣きそうな声で答えるリリル。


「じゃあ答えは決まっているんじゃない、リリルちゃん、勇気を出して!」

「うん、わかった……」

「さあ、湿っぽいお話はおしまい、話は決まったんだし、行きましょうか。」

 

 紅茶を飲み干してミアは席を立った。リリルもつられて席を立つ。

 


「ミアちゃん、少しだけ手を握ってもらっていい?」

「うん、いいけど?」


 ミアは差し出された細い手を取った。


(リリルちゃんの手、小さくてすべすべだぁ…)

「ちょっとだけ勇気を分けてほしいなって……」


 ミアの手をきゅっと握るリリルの手は、ほんの少し震えていた。だが、それは本当に勇気をもらったかのように止まっていく。




「ありがとう、ミアちゃん!私、メルちゃんのところに行ってくる!」


 リリルはそう言って自分の家の方向に走り出した。。




「勇気をもらってるのは私のほうだよ……」

 残されたミアは呟く。

 ミアは魔法学校が終わって数年もすれば、別の町の商人のもとに嫁がなければいけない。決まったのは魔法学校に入学するほんの数か月前で、決して自分が望んだものではなかった。だから、勝手に結婚相手を決めた親を恨んだりもした。

 ちょうどその頃、魔力があることがわかり、ミアは気持ちを少しでも紛らわすために勉強に打ち込もうと、自らの意志で学校に通う事にした。

 そこで偶然リリルと出会うことになった。最初は同じ平民同士で仲良くできればいいいなと思っただけだったし、リリルもきっとどこかの商人か何かの娘だと思っていた。なぜなら、外見だけならミアよりよほど良家の出に見えたからだ。

 だが、ほんの少し話しただけで、ミアの予想は裏切られた。両親はおらず、世話をしていた祖母も数年前に失踪し、一人で生活しているのだという。そんな大変な思いをしているのに、彼女はおもしろいほどたくさんの表情を見せてくれる。そこからミア自身、何度勇気をもらったかわからない。不幸を比べる訳ではないが、彼女に比べれば親が結婚相手を決めた事など、ほんの些細な事に思えてきたのだ。

 だから彼女が寂しそうに俯く姿は見たくないし、いつだって笑っていてほしい。そんな思いから柄にもなく学校の授業をほっぽり出して一緒に遊びに行こうとしたのだ。

 学校では一緒に勉強をして、笑いあう仲になったが、あの子はメルというエルフと同じように自分と離れ離れになる時に、一緒にいてほしいと言ってくれるのだろうか。



「なんだか、ちょっと妬けちゃうな、メルちゃんって子に……」


 その呟きは誰にも聞かれることなく、町の中に溶けていった。。




◆ ◆ ◆ ◆




 家の前まで戻ってきたリリルは、ミアの手の感触を思い出し、勇気を振り絞って扉を開けた。


「あの!あの!メルちゃん!!!」


 息も絶え絶えにお店に帰ってきたリリルを不思議そうに見るメルセデス。


「どうしたのよ、それにあなた、学校は?」

「そばにいてください!!」





「……はぁ?」


「あっ、あっ、こ、これは、あの、ちがくて………」


 領主様の家に働きに行かないで、一緒に暮らして欲しいと言おうとしたところ、緊張してとんでもない事を口走ってしまったと気づき、あわあわと訂正しようとする。それを見てあきれ顔のメルセデスが言う。


「はいはい、わかったわよ、あんたみたいな甘えんぼさんを今更一人にさせられる訳ないものね。」


「えっ、じゃあ!」

「領主の家に働きに行くのはやめにするわ、これでいいんでしょ?」

「やったぁ!メルちゃん、私メルちゃんが出て行かないように頑張る!」


(昨日のことはあるけど、この子が世界樹をどうにかするなんて考えすぎかもしれないし、もう少し様子を見てからでいっか。)


 走ってきたのか、辛そうに息をはくリリルを見て、恩人が吸血鬼であることに気づき悩んでいた自分がばかばかしくなってきたメルセデス。



「そんなふうに引き留めるなら領主の家ほどではないにしろ、稼がせてくれるんでしょうね?」


 メルセデスに言われてリリルは思い出したように手を叩く。


「そうだ、マンドラゴラがあればもっとお金を稼げるようになるんだ!」 

「へえ、そうなの、特に珍しくもない物ね。」

「でも、手に入れるためには町の外に出かけないといけないんだ、川のそばに生えてるんだよ。」


 メルセデスを見つけたのもマンドラゴラを見つけて新しい薬を作り、がっぽり稼げるようになるためだった。



「マンドラゴラならあるわよ。」

「ふぇ?」



 メルセデスはそう言うと、ポケットから布袋を出して中身を見せる。中には様々な色の植物の種が入っていた。



「マンドラゴラの種よ、土に埋めて水と魔力をしっかり与えれば1日でできるわ。」

「ええっ、ほんとに!?」



 マンドラゴラは種からできる、図鑑にも書いていない初めて聞く話だった。



「でも、抜くと叫んじゃうんでしょ?ウチじゃ育てられないよ……」

「あなた、何にも知らないのね。マンドラゴラは抜く前にちゃんと処理をすれば叫ばないのよ、それに叫ばれると美味しくなくなっちゃうじゃない。」

「ええっ、マンドラゴラって食べられるの!?」

「だから持ってるんじゃない、そんなに美味しくないけど旅の非常食よ非常食。」


 さらりととんでもない事を言うメルセデス、彼女が持っている種を素材にするだけでなく、食べることができれば少しは食糧事情がよくなりそうだ。


「メルちゃん、さっそくやってみようよ!」


 すぐにやる気になったリリルは栽培用の土を掘りに行く準備を始めるのだった。

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