魔王の真意
「…………」
「…………」
「…………」
誰も何も話さないで、空を飛んでいる。空を飛ぶっていうのは初めてだけど、別に何も感じない。ティアナは……怖いのかな? 目を瞑ってる。
「ティアナ、手、出して」
「え? こう?」
僕の方に出された手を、僕は握る。なんでこうしたのか、多分僕がしたかったんだろう。
「はい、これで大丈夫だよ」
「わぁ……、うん!」
「2人とも、逆の手はちゃんと俺を掴んでおけよ」
それは問題ない。僕は今ティアナと手を繋いでる。僕が落ちちゃったらティアナも一緒に落ちるから、絶対に落ちないようにしないと。
「2人とも、そろそろ着くぞ」
「はやいね」
まだ飛び始めてほとんど時間が経ってない。
と、大きな街とおっきい建物が見えてきた。
「あれが魔都、そして中央の城、あれが魔王城だ」
城? あれ城って言うんだね。あんなにおっきいけど、何か理由があるのかな? ……ん?
「おっきい……」
「ん? ナイア、どうした?」
「……うーん…………」
今何かに呼ばれたような……なんだろう? あっち?
「どうした?」
「……ううん、なんでもない」
「…………そうか」
まあ多分空耳ってやつだと思う。だってここに来た事ないのに、誰かが僕を呼ぶわけないもん。
「で、デルゾヴィア」
「なんだ? ていうか呼び捨てにするぐらいならディルにしてくれ」
「呼び……すて?」
何? それ、デルゾヴィアって言ってることのことかな? 確かにティアナはデルゾヴィア“さん”って言ってるけど……これを付けないのが呼び捨て?
「さんとか付けない呼び方の事だ」
「あ、やっぱりそうなんだ」
僕の考えはあってたんだね。へえ、呼び捨て、で……さんをつけるのは?
「さんをつける呼び方は敬語と言う」
「へえ、そうなんだ。じゃあディルっていうのは? 呼び捨て?」
「いや、それはあだ名だな。親しい人間同士が使う事が多い。親しくても呼び捨てしかしない奴もいるがな」
ふむふむ、ディルはあだ名なんだ。じゃあ、
「僕の“死神”はあだ名?」
「あだ名……に近いが、多くの人からの呼び方であれば二つ名、と言う」
「ふぅん、ティアナは何かあだ名ってあったの?」
「私? 私の“神子”はナイアと一緒でふたつな、なんでしょ? それ以外は…………モルモット?」
モルモット? 何それ? 変なのだね……でも、悪意は感じる。
「え? ナ、ナイア? どうしたの?」
「ん? なんでもないよ?」
どうしたんだろ? 僕なんか変だったかな?
「モルモット……だと? 巫山戯た表現を……!!」
「知ってるの?」
「ああ、だが…………口にしたくない」
そっか、やっぱり悪意のこもった言い方なんだね。
「ふ、2人とも、なんか怖いよ……?」
「ん? ああ、すまない」
「怖い? 怖いって、何が?」
怖いって、死ぬ時のやつだよね? 確か。ティアナは死なないんじゃ……あ、そっか
「ティアナ、大丈夫だよ。約束したでしょ?」
僕が守って、ティアナも守る。だからティアナは死なない体じゃなくなっても死なないし、僕も同じ。
「約束……うん!」
「なんというか……ズレてないか?」
ズレてる? 大丈夫でしょ、約束があればそれでいいんだもん。
「さ、長話は終わりだ。少し前から着いているからな」
「そうだね」
そう言って、ディルは|高くて細長い建物の一番上《塔の最上階》に入った。
「ここが? 住む場所? 冷たいね」
冷たい……うん、冷たい。これは、僕を利用しようとした人達と同じ感じ。
「ディル、これどういう事? ティアナに酷い事しないんじゃなかったの?」
「この部屋で、ナイアに酷いことするの?」
ディルは……この冷たいのを人形とかで隠そうとした部屋を作って、僕たちに何がしたいの?
「ま、待て、」
「早く、答えて」
僕の呪いが広がっていくのが、なんとなく分かる。同時に、僕から怒り以外の感情が消えていくのも。怒り……こういう感情なんだね。昔怒りは、どうしても納得のいかない、許されない事に向ける感情で、僕には縁がないものだって言われたけど……納得したよ。ディルは……デルゾヴィアは僕たちの呪いを利用する気なんだ。じゃあ、デルゾヴィアをどうにかして殺さなきゃ。
「……はぁ、すまなかった」
謝る? ああ、騙したことをって事?
「デルゾヴィアは悪い人なんだよね? じゃあ、殺すよ」
「待ってナイア! 殺しちゃダメ! デルゾヴィアさんはそんなつもりない!」
「ティアナ? でも、ティアナも言ってたでしょ?」
ボクに酷いことするんだって、僕だけじゃなくて、ティアナにも。だからこんな、冷たい部屋をそう見えないようにした。そんなの、意味ないのに。
「誤解だ。俺にそんなつもりはない」
「じゃあなんのつもり?」
「…………ここは元々は犯罪者を幽閉するために作られた。そして実際、何度か使われていた」
犯罪者? ああ、僕みたいな人殺しの事かな? そんな人を幽閉? 幽閉……閉じ込める?
「幽閉って?」
「閉じ込める事だ」
「ふーん、じゃあ僕達が悪い人だから、悪い人が閉じ込められるところに閉じ込めるんだ」
やっぱりそうなんだね
「待て待て! 元々そう使われていたが、今は違う! ここはお前達を保護するためにこういう風にしただけだ! だから落ち着け! それ以上お前の魔力を広げられると被害が出る!」
「じゃあただ昔そうだっただけな場所で、私達に何もしないって事?」
「ああ、俺はお前達に危害を加えない、そう約束したはずだ」
「だって、ナイア、落ち着いて、今とっても怖い顔してるよ」
…………ティアナがそう言うんなら。
「分かった。でも僕はティアナが危ないと思ったら呪いを使うよ」
「ダメ!」
「……むぅ」
「ナイア、人は傷つけちゃダメだよ。傷つくのはとっても辛いことなんだよ?」
「…………じゃあティアナは傷ついてもいいの?」
「私は死なないもん」
「じゃあ、じゃあ、…………」
なんで、ティアナは辛いって知ってるの? って言いたかった。けど、なんだか言っちゃいけない気がして……
「ナイア、私は大丈夫だよ? 約束があるから。でも、私を守るために誰かを傷つけないでほしいな」
「…………がんばる」
「うん!」
「お前達……一体どれだけ…………いや、いい。とりあえず今日はゆっくりしろ。呪いについては明日からだ」
「分かった。じゃあディル、水ちょうだい、洗うから」
「体をか?」
「うん。いっつも川か池でやってたけど、今ないから」
「なら風呂に行こうか。一応小さいがあるからな」
ふろ? なにそれ? 体を洗う所なのかな? 池みたいな?
「お風呂? わぁ、久しぶりだ!」
「ティアナは知ってるの?」
「うん! たまにお風呂に入れてくれたから!」
「楽しいの?」
「気持ちいいの!」
「??」
体洗うだけでしょ? 気持ちいいってなに? 結局おふろってなんなの……??