始まりの出会い
新作です。書き溜めは一切行っていない状態で出しているので不定期にはなりますが、なるべく週に一回は投稿できるようにするのでお待ちいただければ幸いです。
「…………」
この場所には誰もいない、何故なら僕が殺したから。ここは僕が生まれた街の近くの森らしい。らしいと言うのも、ここに僕を殺しにくる人がそう言っていたから。ここで生まれて、死をばら撒く僕を討伐しに来た。そう言って僕を殺しにくる。けど、僕は死ねないし、僕に近づいた人たちはみんな死んでいく。
「お前が死神か?」
そして今日もまた1人、復讐者が僕の前に殺意を持って現れる。きっとこの人の知り合いを僕が殺したんだろう。これまでそう言うことは何度もあった。みんなが「お前が殺した」と、そう言う。
けれど、別に僕も無意味に殺そうとも思っていないのだ。周りの生死なんてどうでもいいし、僕自身だって別にどうだっていい。ただ、僕の身に宿り、僕の身体から溢れている、僕の呪いと呼べるもの。それが僕の身体を傷つけさせず、僕を死に至らせることなく周りの人間を殺し尽くす。
だから、泣きそうな顔で僕に剣を振り下ろすこの人も、僕にその剣が触れる前に死んでしまうだろう。
「ごめんね、おじさん」
僕がそう言ったのとほぼ同時、男の人がネジが切れた様に、って言うんだったかな? まあ、僕に近づきすぎて死んだ。僕の呪いは人の体を傷つけたり、蝕んだりしないみたいだ。ただ一瞬で命を奪う。そういう呪い。
「死体、どうしよ?」
放っておいたら近くの肉を食べる動物が寄ってきて食べてしまうだろう。けど、死体がないと家族? だっけ? の人が大騒ぎしてまた死体が増えてしまう。だからどこかに運びたいんだけど…………
「今まで色々やったけどどれも食べられちゃったんだよね…………」
外の街は人が住んでないからもう動物たちいっぱいいるし、出てすぐの所もすぐに食べに来ちゃう。
「うーん…………まあいっか。僕が近づかなきゃめんどくさい事にはならないだろうし」
僕に向けられる目線って言うものはあんまり気持ちよくない。そんな目をされたいわけじゃないから、あんまり人の前にはいたくないんだよね。
「じゃあ、帰ろっと」
とりあえず適当な草むらの中に死体を放り込んだから、適当な獲物を狩って帰ろうとした時だった。
「助けて!!」
少し大きな木の後ろから、僕と同じくらいの身長の女の子が飛び出してきた。
女の子は僕を見て、何故か救いを得たかのような顔を浮かべ、僕に飛びついてきた。
咄嗟に避けようとした僕だったけど、思ったよりも女の子が速かったのと、女の子が飛び出してきた場所が近かったから僕は彼女に捕まってしまう
「!?!?」
え? なん……で? なんでこの子は死なないの?
もしかしてこの子が…………
「お願い! 助けて!」
「たす……ける? 何かに襲われているの?」
でもなんで死なないんだろ? こんなにも呪いがこの子を襲ってるのに……と、そんな事を考えてたら女の子が飛び出してきた方から男の人たちが出てきた。
「そいつを渡せ」
「この子? 怯えてるよ? おじさん達……女の子を怯えさせるのって悪い事じゃないの?」
おじさん達が本当に悪い人なら……殺していいよね? だって、悪い人は殺してもいいもんね?
「ふっ、いいかい僕、その子はね、人類に救済をもたらす神の子なんだ。その力を、人の為に使わせてもらうだけだよ」
「…………そうなの?」
このおじさんは嘘は言っていない。けど、そんなつまんない事に女の子を犠牲にしていいのかな? 僕は…………ダメだ。嫌だ。僕の呪いを受けてもなんともない初めての人だもん。僕と同じで化け物かもしれない。僕みたいな呪いを持ってるのかもしれない。けど、それでも、僕はこの子を悪い人に渡したくない!
「おじさん達、女の子をそんな事に使うんだ。悪い人なんだね。じゃあ、死んでね」
僕は自分の呪いをおじさんに叩きつける。そうしたら人は死ぬ。
「まず1人、で、ふた「まって!」……どうしたの?」
「何してるの!?」
「何って……殺してるだけだよ?」
だってこの人は悪い人で、君が助けてって言ったんでしょ? なら、何もおかしくないよね?
「ダメ! 人を殺すのはダメ!」
「なんで?」
「人を殺すのは悪い事だから!」
人を殺すのは悪い事? じゃあ殺してる僕は悪い人? 悪い人は殺さなきゃダメで…………僕は死ねない。じゃあ、じゃあ、僕は……
「どうしたらいいの?」
「私を逃がして欲しいの、そしたら誰も殺さないで済むから。私を逃してくれたら、それだけで、それだけで、いい、だから、お願い、一緒に逃げて……!」
そうしたらこの子は助かるのかな? それで、僕は悪い人にならないで済むのかな? でも、もう何人も殺したから……今更かな。
でも、この子はそうしたいって言ってる。だから、僕は逃げよう。この子と。
「じゃあね、おじさん達。追ってきたら、今度は殺すね」
じゃあ、とりあえず僕が住んでるとこに行こう。
「わっ」
僕はこの子を抱き上げて、木々の中へ飛び出した。この森に住んでる、確かマウンテンザルとか言う動物が逃げる時にする動き。すばしっこいのと木の枝とかのせいですぐに見失っちゃう。でも、自分が逃げる時にとっても使える。
「待て!」
追いかけてこようとしたけど、当然、僕に追いつけるわけもなく、僕……じゃなくて僕達は、その場から逃げ出すことができた。
「助けてくれてありがとう」
もう追ってこないと分かったから、 僕は一旦この子を下ろして話を聞く事にした。
「いいよ、なんで襲われてたの?」
「私が死ねないから」
死ねない、そっか、そうなんだ。僕と同じで、この子も怪物なんだね。だから、僕達は人じゃないから、どんな事をされてもいい。だって、死なないんだから。
「ねえねえ、お名前は? 私ティアナ」
名前? 名前……呼び方? 人が人を呼ぶ時のやつだよね?
「僕は……死神って呼ばれてるよ。それが名前かな?」
「そんなんじゃないの! それなら私は神子だよ!」
そういうのじゃない? ティアナ、みたいな?
ティアナ、ティアナ、ティアナ……これが名前?
「これは誰が考えたの?」
「お父さんとお母さんだよ。……もう死んじゃったけど」
そっか、普通は親につけてもらうんだね。じゃあ僕にはないのか。
「僕に名前はないよ。生まれた時にはお父さんとお母さんって呼ばれる人は死んでるはずだから」
「覚えてないの?」
そんな前の事、覚えてるわけないよ。でもきっと、多分だけど
「僕が殺したんだよ。この呪いでね」
「呪い? さっきのおじさんも、その呪いで殺したの?」
「そうだよ。人を殺して、僕は死なない。そんな呪い」
「私と同じで……死なないの?」
「そうだよ。僕ら、一緒だね」
僕はそう言って多分、微笑んだ。上手く微笑めたと思う。人間みたいに。
すると、ティアナは花みたいに微笑んだ。僕は、その顔から目が離せなかった。こういうの、なんていうんだろ。…………なんで、心臓がドクドク言ってるんだろう?
「え、ねえ、ねえ」
「ど、どうしたの?」
「名前、どうするの?」
「え? なくてもいいよ。困った事ないし」
今まで死神だけで通用したんだから、そんなの必要ないよ。名前って、人間が持ってるものなんでしょ? 動物に名前はないし、僕もそれと同じ。
「じゃあ私は君をなんて呼べばいいの?」
「死神でいいよ。みんなそうだし」
あ、でも別の呼び方で呼んでくれるならそれはいいかも。死神って呼ぶ人の目は好きじゃないから。
「じゃあじゃあじゃあ、えーっと、えーっと」
「? 何?」
「名前、決めよ?」
名前? 名前……名前…………ティアナ、ティアナ……ィアナ
「ナイア、がいい」
「ナイア? 分かった、ナイア、ナイア……いい名前!」
「ありがとう、っていうんだっけ? こういうときって」
確か人間はそんなことを言っていた気がする。確かあの時は動物の攻撃から庇ってもらってた時だったかな?
「そうそう、ナイアって何にも知らないんだね」
「何にも……ううん、知ってる事はあるよ」
「例えば?」
「ん? ティアナと一緒にいたいって事」
ティアナは初めて僕が触れて生きていられた人間だ。そんな僕が一緒に入れる人を離したいわけがない。そんな事、僕でも分かる。
「ねえティアナ、言ってたよね? 一緒に逃げてって。いいよ、僕、ティアナと一緒に行くよ。それでね、僕が守ってあげる。悪い人から。僕は君を、絶対に離さないよ」
「いいの? 一緒にいてくれるの?」
「うん」
僕はティアナと一緒にいたい。なんでって言われたら、僕と一緒にいられるのがティアナだけだからだと思う。でも、それだけじゃないような気もする。でもそんな事はどうでもいい。僕はティアナといたい。それだけで理由はじゅうぶんだ。
「じゃあ、じゃあね、私もナイアを守りたい。どうやってって言われたら分からないけど、それでも、ナイアが守ってくれるなら、私も……ダメ、かな?」
「ううん、いいよ。……じゃあ僕がティアナを守って、ティアナは僕を守る。だから、一緒にいよう?」
ティアナが僕を守る。そんな事、できるかなんてどうだっていい。僕はティアナと一緒にいたい、ティアナも僕と一緒にいたい。それが一番大切。そんな事僕でも分かる。
「じゃあ、約束しよ?」
約束? 約束ってなんだったかな? えーっと……
「約束、しよ?」
「約束って、言ったことを必ず守るって事だよね?」
「そうだよ。だから、」
「うん、じゃあ約束。僕はティアナを守る」
「私も、ナイアを守る。約束ね?」
この約束は口だけのものだけど、それでも、僕は絶対にこれを破らない。そう、自分に約束した。
ティアナとナイアの年齢ですが、共に9歳です
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