プロローグ
むかしむかしあるところに、ひとりの男の子がおりました。
その子はいつもひとりぼっちで、ちょっと寂しそうでした。たまに笑うと女の子みたいに可愛らしいその子とは、年長さんではじめて同じ組になりました。
わたしは最初、その子がなんでいつもひとりなのかわかりませんでした。ちょっと気弱だけれど、ほんとうに普通の男の子なのに、アヤちゃんもコウくんもその子を仲間外れにしていました。
どうして一緒に遊んであげないのと聞くと、みんな口をそろえてこういいました。
「あの子はへんな子だから一緒にあそんじゃだめなの」
どうして変なんだろう。だってあの子の言うことは全部ほんとうのことでしょう。
アヤちゃんのお友達がすぐに椅子をふりまわして暴れだす子だってことも、コウくんが好きなミっちゃんは隣の組のトモくんといつか結婚するんだって思っていることも。
ぜんぶぜんぶほんとうのことでしょう。
だれも口にはしないけど、ぜんぶ。
わたしは気がつきました。そうか、きっとあの子は少しだけ不器用なんだ。気がつかなくてもいいことに気がついて、言わなくてもいいことを言ってしまうだけなんだ、と。
ただしくてほんとうのことでも、たまには見ないふりをする方がきっともう少しうまくいく。わたしはあの子に、そう教えてあげようとしました。
わたしがしているように、なにもいわないで、ただ笑って、そうすればきっと大丈夫だって。
それなのにあの子は、わたしが一番知りたくなかったことを、
気づいていながら知らないふりをしていたことを、
あまりにもまっすぐに、
わたしの目を見て、
あまりにもじゅんすいに、
なんの悪意もなくことばにしたのです。
あの子は、なにひとつわかってなかった。わたしの気持ちは、なにひとつ伝わってなかった。
あの子が、わたしを「わたし」でいられなくしたのです。わたしの人生をこわしたのはあの子なのです。
だからわたしは言いました。
カズくんなんて、大嫌い。
カズくんなんて、死んじゃえって。