はじまり(マリア・シャレット)
★注意とお願い★
前編完結、という形で一旦締めさせて頂いているお話です。全編完結作ではない事をご理解頂いた上でお読み下さいますよう、お願い致します。
幼い頃、母はよく『血統種』について話してくれた。
太古の昔、世界中の神様達は人間との間にたくさん子供を作った。
その子孫が『血統種』。神様の血を引く人間。
彼らは祖先である神様の能力を使う事ができるため、いつの時代も畏怖され、重宝され、悪用されてきたのだと。
『だからね、ママは思うの。血統種を利用してきた悪い人達にはいつか……天罰が下るって――』
舞い飛ぶ煤に反射的に目を閉じた時、母の言葉が頭の中で響いた。
異物感のある目頭を指先で押さえながら、ゆっくりと目を開ける。
目の前に広がる火の海。
骨組みだけになっても燃え続け、次々と倒壊していく家屋。濃い色の炎と煙はうねりながら空高く登り、この大火災を禍々しく演出している。
私達『対天罰軍』が到着するほんの数時間前まで村であったこの土地に、人々の暮らしを思わせる要素はもう残っていなかった。
家も木も人も全て、『天罰』が焼き尽くしてしまった。
「姉ちゃん!こんな所で何してんの!」
聞きなれた声にふり返る。そこにいたのは私と同じ栗色の髪と瞳をした少年。
「ア、アルマン」
今この場で一番会いたくない人物。弟の登場に思わず後ずさる。
二の腕をつかまれ、引きずられるようにして連れて来られたのは、到着したばかりの給水馬車の裏側。現場にいる対天罰軍の全兵士が列を成しているバケツリレーのスタート地点。
「もー!なんで医務室勤務の姉ちゃんが天罰の現場に来てるわけ?どーせまた暇だから手伝いますとか言ったんだろーけど。危ないからそーゆーのよせって何度言ったら・・・」
「そこ!無駄口叩いてないで消火作業にあたれ!鎮火できないと生存者の捜索もできないぞ!」
弟の上官、衛生隊隊長の怒鳴り声。
かなり声を張り上げているのだろうけれど、現場の喧騒の中では単なる音の一つに過ぎない。
「生存者なんていないし、この大火事がバケツリレーでどうにかなるわけないだろ……」
うっとおしそうなため息を添えて呟く弟。
これが叱咤された部下の態度だろうか。母親代わりとして責任を感じる。
「なんて事言うの! 皆が一生懸命作業してるのに! それにまだ生きてる人だっているかもしれ」
「いないよ、だってそれが天罰でしょ」
返す言葉が無かった。情けない。弟を諫める所か反論され、押し黙るしかないなんて。
決して褒められた発言では無いけれど、アルマンの言う事はもっともだ。
おそらくすべての村人は既に息絶えている。根拠は火災の規模では無い。
これが『天罰』だから、だ。
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