オーク肉料理
狂った俺がオーク3体を倒したってことは身体能力が同じなんだから俺でも1体ずつなら安全に倒せるはずだ!
と、調子に乗った俺は一先ずレベル上げをするために森を歩き回った。
ゲームとかでは死んでもやり直しがきくからレベル上げなんてしないけど、たったの1階層違うだけで敵が最弱のスライムから武器持ちのオークに変わるダンジョンだ。
次の階層でドラゴンが出てきても不思議じゃない。とりあえずオークをワンパン出来るぐらいにはなりたい。
森の中を駆け回り、オークと何回か戦った。
狂った俺という完璧な見本があったため、割と簡単に倒せて拍子抜けした。
一撃でも攻撃を喰らえば即死しそうだから全く気は抜けないが、万が一の時は狂った俺が助けてくれるだろうと精神的な余裕が多少かったのが大きい。
3度目のレベルアップ時に発生する身体への熱を味わう頃には肉体と精神的な疲れを感じ始めたので時間を確認する。
「もう2時半か」
いつもなら、とっくに寝てる時間だ。
「ふぁああっ」
ダンジョン内にある太陽で時間感覚が麻痺していたが時間を確認した事で急激に眠気が襲ってきた。
「家に帰って寝るか」
スマホを動かし、ダンジョンから脱出した。
「あー気持ち悪い」
ダンジョン内ではアドレナリンのおかげか、あまり気にしていなかったがオークとの戦いで水球を多用したせいで服がビチョビチョに汚れている。
「とりあえずシャワーを浴びるか」
すぐに眠りたいが、この状態でベッドにダイブしたらベッドが汚れたらたり、風邪をひいてダンジョンに入れないのは嫌だ。
俺はフラフラと風呂に向かう。
「あっ、そういえば家の泥を掃除するの忘れてた……」
自分でやった事だ。
眠たいけど、寝る前に掃除だな。
○●○●○
「なんで1人で狩りにいくの!?あんな命知らずの戦い方をして!」
薄汚い宿屋の一室。
どことなく彩芽と似ている美女が怒りで顔を赤くして俺の胸ぐらを掴む。
そして俺の口からは勝手に言葉が出てくる。
これは……
「命知らず?俺の分析能力を舐めてもらっちゃ困る。攻撃は完璧に読み切れていた」
夢だ。
いつも狂った俺が見せる夢の登場人物の彩芽に似た勇者がいるけど、これは俺自身の夢だな。
狂った俺が見せる夢の中では、夢を見てる最中にこんな風に考え事出来ないからな。
こんな夢を見るのは俺がオーク相手に無茶したせいだろう。いや、無茶したのは狂った俺だけど。
「完全に読み切ってるなら傷つかないでよ!」
勇者は顔を赤くしながら説教をしてくる。
勇者の言葉から分かるように、俺の身体は擦り傷程度だが全身に傷がついている。
「こんなの傷のうちに入らないぞ?
低級ポーションでも飲めば全開するからな。
それと攻撃を全て避けるより短時間で確実に倒せるから敢えて最小のダメージで済むようにしたんだ」
やれやれといった感じで勇者に説明した俺は一拍置いて気怠げに口を開く。
「というわけでポーションくれよ」
「ーー!知らない!」
「ちょ、ポーション!置いてけよ!」
怒って部屋を出ていった勇者。
まあ、当然だな。
夢の俺は馬鹿だなあ。
「はあっ」
「お前ら何歳だよ。子供みたいに喧嘩しやがって、仮にも勇者と勇者の仲間なんだぞ?
子供達に幻滅されるようなことするな」
俺が溜息を吐いていると勇者と入れ替わりで騎士風な男がきた。
どことなく大樹に似てて笑えるな。
「はっ!これでも大人しくなったんだよ!ガキの頃は流血沙汰が当たり前だったぜ?
俺だけな!」
「威張ることじゃねぇよ。ほら、ポーション」
騎士風な男は呆れた顔をしながら緑色の液体が入った小瓶を俺に手渡した。
俺は感謝の言葉もなしに、それを飲み干すと身体の傷はみるみる塞がって綺麗に治った。
流石、夢。こんな薬があるなんて、まるでゲームだ。
「さて、中断されてた狩りを再開するか」
「……お前ってやつは」
「安心しろ。俺も馬鹿じゃない。
怪我だけは絶対しないようにするよ」
「そういう問題じゃっ!って、あーもう!」
そう言って俺は宿屋の窓から飛び降りて森へ向かっていった。
「俺だって、こんなこと性に合ーー」
そして、何かを呟いてる途中でーー俺の目が覚めた。
「夢の中の俺、身勝手すぎるだろ」
夢の俺にツッコミを入れ、ベッドから出る。
時計を見ると6時半。
いつもより、少し早いな。
「寝るのが遅かったせいか?
睡眠時間少ないけど、体調はむしろ良いな」
頭は完全に冴えてるし、眠気もない。
「念のために武器は常に携帯しておくか」
銃刀法があるけど、チュートリアルで武器を持った人が多いから自衛のために持っていた方が安全だろう。
登校中に襲われたら敵わない。
「よし、朝食作ろ」
短剣をポケットにしまって、昨日の夜決めた通り生姜焼きを作る。
肉はもちろんオーク肉だ。
彩芽はまだ熱があるだろうし、ガッツリ肉類はキツイよな。薄く切って冷しゃぶサラダにでもするか。
「うん、美味そうだ」
素焼きでも十分に美味いオーク肉だから絶対美味い。
「何笑ってるの?」
「うぉお!?いたのか!」
「ふふっ」
いつのまにか隣にいた彩芽がオーク肉料理の出来に満足していた俺に話しかけてきた。
そして昨日の透け透け事件を思い出し、若干硬直する。
彩芽は寝惚けてた時の記憶が残ってないのか、驚き固まった俺を見て楽しそうに笑った。
「体調は大丈夫なのか?」
「ぐっすり寝たから大丈夫!
昨日はゴメンね?寝惚けてあんま記憶ないけど、うどん美味しかったよ!」
「美味しいのは当然だろ?朝飯も丁度出来たし食卓へ持っていってくれ」
「はーい」
寝惚けでた時の記憶がないのと昨日の体調不良が嘘のように元気で少し安心する。空元気感も否めないが嘘をつく時に出る髪をいじる癖が無かったし大丈夫だろう。
「「頂きます」」
オーク肉の生姜焼きを米と一緒に食べ……
あれ?米がないぞ?えっ?肉も消えてる?
何これホラー?
何故か彩芽がジト目で俺を見てる。
「な、なあ。俺の生姜焼きどこいった?米は?」
「全部ハジメの胃の中」
「え?」
「ハジメの胃の中」
彩芽の嘘をつく時の癖、髪をいじっていないから彩芽の言葉に嘘はない。
つまり、俺は味わう間もなくオーク肉の生姜焼きを食べ切ってしまったようだ。
こんなの初めてだ。
最悪だ。俺の馬鹿。
「はぁっ。昔っから好物を食べる時、一心不乱になって味わう事を忘れる癖は変わらないね。ほら、ゆっくり味わいなさい」
「あ、ありがと」
彩芽が俺に生姜焼きを少しくれた。
ゴクリッと、喉がなる。
いかんいかん。
このままでは!さっきの二の舞になってしまう!一旦冷しゃぶサラダを食おう!
冷しゃぶサラダに手を伸ばした時だった。
俺は違和感を感じた。
そして気づいた。
「あれ?昔っからって、こんな風に一心不乱になって何かを食べたことないぞ?」
うん、過去を振り返ってみても記憶にーー
「ハジメが記憶喪失になる前は何度かあったのよ」
「あ、そうなのか」
「そうなの」
そういえば、俺は5歳までの記憶がないんだった。いや、それぐらいの年齢の記憶なんて普通ないに決まっているけど。
俺の場合は少し特殊で、川に飛び込んで流れてきた木に頭をぶつけて記憶喪失になったらしい。我ながら馬鹿馬鹿しい話だ。
俺は納得して冷しゃぶサラダを食べた。
この時、彩芽は髪をいじっていたのだが、オーク肉に夢中で気付かなかった。
狂った人格に頼らない主人公の戦闘描写は未だ未だ先のお楽しみです!
(戦闘描写を書いてる途中に主人公がイキリすぎて考えてた展開とは違うものになりそうだったから消してしまったなんて言えない…)