ラッキースケベとオーク
この話ではラッキースケベとオークの因果関係はありません。
階段を降りた先は何故か太陽が照りつける森の中だった。
「階段を降りてきたはずだよな?えっ?」
後ろを振り返って階段を確認するも、そこに階段は無く、巨大な木がそびえ立っていた。
「ダンジョンだし、こんな非現実的なことで驚いてたら駄目だよな。うん」
とりあえず、2階層の敵を確認したい気持ちをグッと抑えてスマホを操作する。
ーー
・メインメニュー
名称:214番ダンジョン
危険度:☆2
階層:7
ダンジョンから脱出しますか?
【YES】
参加人数:1
ーー
「イエスっと」
YESを選択した瞬間、ダンジョンにワープした時と同じ浮遊感が起こり、辺りが一変。
俺は彩芽の家のリビングに戻ってきた。
「んあっ!やべえ!」
自身の身体が泥だらけというのを忘れていた。
「……彩芽に気付かれる前に一旦家に帰って着替えて証拠隠滅しなければ」
そうと決まれば行動は早かった。
リビングから最短ルートで外に出て、自宅に戻り裸になり泥をすぐに落とすため勢いのある水のシャワーを我慢して浴びる。
「あああ!冷たい冷たい!」
泥を落とし終えたら直ぐに身体をタオルで拭き、ここまで来る時に汚れてしまった床を踏まないように自室へ行き服を着替えて、タオルとゴミ袋。
それと洗剤や消臭スプレーなどを持って彩芽の家に戻り、証拠隠滅を図ること30分。
とりあえず泥は全て撤去出来たし、若干洗剤と消臭スプレー臭はするものの臭いも大丈夫だ。
「ふぅ、なんとか夕食の時間に間に合ったな」
体調不良の彩芽用に食べやすいうどんを作った。熱もそこまで出てないから大丈夫だと思うが、うどんも食べられない時用に寒天ゼリーも作っておいた。
元気ならデザートとして食べれるしな。
さっそく出来た食事を持って彩芽の部屋に直行する。
「おーい、無事かー?料理作ってきたぞー」
部屋の前で尋ねるが返事がない。
「彩芽ー?」
やはり返事がない。ただのしかばね……じゃねえな。多分寝てるんだろ。
「開けるぞ?」
「すーすー」
扉を開けると、予想通り彩芽は寝ていた。
うん、顔色も良くなってるし気持ち良さそうに寝てるから体調は回復傾向にあるのかな?
まあ気持ち良く寝てるところ可愛そうだが、起こして飯を食わせないとな。
「彩芽、おきろー」
「んー」
「流石に声かけだけじゃ起きないか」
肩を揺さぶろうと布団をめくっーー戻した。
なんでノーブラなんだよ!?
いや!違うそこじゃない!体調不良だし、そもそも寝るんだから不思議じゃない!
不思議じゃないけど!それなら透け透けの服を着せるなよ!
汗で張り付いて丸見えじゃねぇの!
服を着替えさせた玲奈様ありがとうございます!
「ふぅ、落ち着け俺」
事故であれ透けてるところを見てしまった事実がバレたら殺される。だからこそ、眺めていたい気持ちを恐怖が上回って布団を戻したしな。
昔、彩芽の下着姿を事故で見てしまった時ですら死にかけたのに……今回は間違いなく殺される!
「あ、なんか冷静になってきた。
身体は震え出したけど」
さあ、考えろ。考えろ俺!
部屋の中で何か使えそうなものとかないか!?
「あった!」
「んんっ」
や、やばい!
せっかく見えた一筋の光明が!
ここで起きられたらおしまいだ!
「すーすー」
アッブネェエ!
直ぐに作戦を実行せねば!
俺はうどんを回収して物音を出さないように細心の注意を払いながら部屋から出た。
「ふぅ」
なんとか起こさず厨房に避難出来た俺は一息ついてスマホを動かし、彩芽に電話をかける。
彩芽のスマホは枕の近くにあったから電話の振動で気付けるはずだ。気付いて起きてくれ!
「ん、なぁにぃ?」
よし!起きた!
先程、少し起きかけていたのだろう、割とすぐに電話に出てくれた。
ホッとしつつも、ゾッとした。
「体調はどうだ?
もうすぐ飯が出来るが食べれそうか?」
「んー食べられそう」
「他に何かいるか?
ほら、あ、汗とか掻いてタオルとか」
うっ、声がどもってしまった!
「あー確かにタオル欲しいなあ」
良かった!まだ寝惚けてるのか声について不審がられていない!
いつもなら探偵ばりに追求されるから本当に良かった。
「じゃあタオル持って今からうどん持ってくからな!」
「わかったよぉ」
うし!これで大丈夫だろう!
タオルを持って彩芽の部屋の前へ行く。
念のためにノックと声掛けも忘れない。
「おーい!ご飯持ってきたぞー!」
「うん、ありがと。今ドアを開けるね」
「んんっ!?」
返事と共にガチャっとドアが開かれ、目の前に寝惚けた顔の彩芽が出てきた。
当然、服は汗でくっついたまま、ピンク色の山頂部が透けて……終わった。
いや!まだ諦めちゃダメだ!
狂った俺!いざという時は、あのスライムを倒した時のように攻撃を捌いてくれよ!
「タオルもありがとー」
彩芽は特に気にした様子もなく俺を部屋に招きいれ目をこすりながらベッドの上に座った。
ん?まさか寝惚けていて正常な判断が出来ていない?チャンスだ!今のうちに逃げるぞ!
「んじゃっ!俺は腹痛いから家帰るわ!」
「んんっ?わかったよー」
よし!逃げられた!
俺は彩芽の意識が覚醒する前に急いで自分の家に戻った。
○●○●○
「意外と情報が少ないな」
修羅場を潜り抜けた俺はダンジョン関連の情報を調べていた。
しかし、あまり情報はない。
危険度☆1,2のダンジョンは一階層目がスライムしかいないことと、ドロップするスライムの抜け殻がスポーツゼリーの味と食感で美味しいぐらいの情報しかない。
他にめぼしいものは危険度☆3の一階層で武器を所持したゴブリンが現れて海外の生配信していたやつが死んだ事でダンジョン攻略を生配信することが禁止されたぐらいだ。
それでも、配信してるやつはいる。
今の承認欲求に溢れた世界じゃ無理もない。
「んー映像は残ってないか」
怖いもの見たさでSNSとかにゴブリンにやられた人の動画がないか確認するが、動画は見つからなかった。
なんでだろう?
まあ、いいや。
「テレビでも見るか」
少し残念に思いながらテレビをつけると、ダンジョン関連のニュース番組しかやっていなかった。
数は少ないがゴブリンに殺された生配信者のように世界中で文字通り帰らぬ人となった人がいるようでダンジョンは危険なため挑戦しないようにとの呼びかけが多い。
このダンジョン騒動は今のところ、自らの意思で挑戦しない限り危険性はないため放置……というわけにもいかない。
重要文化財の建造物などがダンジョン化していたりするため、国同士での会談も緊急で近日中に行うことが決まったらしい。
某国ではダンジョンにミサイルを撃ち込む準備を進めているらしい。
他にもある国が既に軍隊を大量投入したという情報もある。
日本では完全に規制させようという方針が今のところ最大の勢力となっている。
「けど、このマップの範囲なら家にいてもダンジョンへ行けるんだから制限しても無駄だよな」
俺はスマホを動かし、本日2度目となるダンジョンへ挑戦する。太陽の照りつける森へとワープした。
「凄え怖いけど、今のところ2階層へ行ったって情報はなかったし……何よりワクワクするから止められない!」
2階層へ続く階段を見つけ降りたっていう書き込みとかはいくつかあったけど、2階層へ続く階段はボスを倒さないと出て来ないからガセ情報しかない。
しかも、1階層と同じ洞窟のような場所とかいう書き込みを見た時は笑ってしまった。
実際は地下のはずなのに太陽がある不思議空間だからなあ。
多分、今のところ2階層へ進めたのは俺だけ。この優越感に更に浸りたい。
そんな思いもあって俺は眠くなるまで、もしくは寝ずにダンジョン攻略を進めようと心に決めた。
「お?早速敵……まじか」
敵の姿を確認して思わず木の後ろへ隠れた。
俺が見つけた敵は豚面の巨漢、オークだ。
その手には槍が握られている。
「おいおい、スライムの次が武器を持ったオークってレベル上がりすぎなんじゃねぇの?」
震えた声で弱腰な事を言いつつも、俺は炎纏の短剣と水球の短剣。2つを構え、息を潜めオークの隙を探った。
「ブホブホ」
鼻息荒いな。そんな感想を抱いた瞬間、オークは俺の方を向き槍を投げてきた。
「なっ!?」
予備動作を確認出来ていた俺は何とか避けるが、隠れていた俺の体よりデカイ木は槍が当たったところはえぐり取られている。
「やっぱ急にレベル上がりすぎだろ!
逃げなきゃ!」
「ブフッ!」
バック走な理由はオークの足が遅いのと、オークが近くの石を拾いながら投げてきたからだ。
石は流石に槍のように木を抉ることはないが、それでも木にめり込む程の威力がある。
しかし石を拾う行為のおかげで、徐々に距離は離れていく。もう少し離れたら振り返って逃げよう。
「よし!いまだ!
ああ!?こんな時に!?」
ある程度距離も離れたので振り返って逃げることに徹しようとした時、身体の主導権が奪われた。
狂った俺は水球の短剣でオークの顔に照準を合わせ、MPを目一杯消費して水球を発射した。
「ブピィイ!?ブボバッ!」
「まじかっ!?」
水球はオークを包み込む程の大きさで地面をえぐりながら猛スピードでオークにぶつかった。
そしてオークの身体はバラバラに吹き飛び煙化。
水球は木々をなぎ倒して5mほど進んだ。
残ったのは水溜りと煙が晴れて出てきたオークのドロップアイテムの肉塊だけだった。
その結果に俺は唖然として、しばらく固まった。
ボススライムを倒した時より少し弱い熱を体全体で感じながら……
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