狂った俺の戦い方
ようやくダンジョンでの戦闘です。
突然だが、RPG系のゲームでは大まかに分けて3通りの遊び方があると思う。
1つ目はマップを隅から隅まで調べ、間にあるサブストーリーなんかも進めながらメインストーリーを進めるタイプ。
2つ目は探索もそこそこに道中の敵も避けるだけ避け、サブストーリーも進めずメインストーリーを低レベルで進めていくタイプ。
3つ目は最初の街で出来る限りレベルや装備を上げて後のストーリーを楽に進めるタイプ。
細分化すると未だ未だ遊び方はあるが、やはり大まかにはこの3つだろう。
そんな3つの中で俺の遊び方は2つ目。
道中の敵を無視してガンガン進めるものだ。
ん?何が言いたいのかって?
そんなの、決まってるだろ?
「クソが!邪魔だ!邪魔だあああ!」
RPGの進め方が2つ目のタイプである俺は道中のスライムを無視して次の階層を目指そうとした。
短剣は背の低いスライムには使い辛いということもあり、道を塞ぐスライムは踏み潰しながら走っていた。
スライム達は核を踏み抜けば簡単に死ぬから楽勝だ。
そう思っていたのだが……スライムの核を潰せなければ足に纏わりつかれ動きが阻害され、時間を無駄に消費される。
その上スライムからのドロップアイテムであるスライムの抜け殻が見た目スライムのまんまで核っぽい石もあるため、スライムと見間違えて攻撃してまう。
抜け殻は核っぽい石を潰しても、その場に残り続けるため馬鹿にされてる気分になる。
更にダンジョン内は迷路のような構造となっており、頭の中で作っていたマップも直ぐにわけが分からなくなり何度も同じ道を往復している気分になる。
いや、実際に倒したスライムのドロップアイテムを攻撃してしまってることから同じ道を往復してるのは確かだ。
くそ!早く2階層へ行きたいのに!
こうなったら叫んでやる!
わけがわからなくなってきた俺はストレス解消のためにも大きく口を開いた。
「んがああああ!」
「ビギィイイイ!」
「んあ?」
俺の咆哮に呼応するようにダンジョンの天井と同じぐらい……5mぐらいありそうな巨大なスライムが濁点のついたような声を上げながら近付いてきた。
運が悪いことに、今いる場所は学校の教室ほどのスペースはあるものの一本道で隠れる事も出来ない。
「流石にこれは無理じゃね?」
冷汗を掻きつつ、自分の頰が釣りあがっていくのが分かる。
流石にこの巨体は未だ早すぎる。
「いやいや無理無理」
足に力を入れる。
勿論、逃げるためにーーではない。
俺は身体の主導権を狂った俺に奪われていた。
狂った俺はスライムに攻める気だ。
「逃げてレベル上げてからの方が良いって!
これはゲームじゃないんだから!」
何故か口だけは主導権が握れているので、狂った俺を宥める。しかし俺の目はスライムの隙を伺い、隙を付けるように刃先を核に向けて短剣を構える。
「プギィ?ブバッ!」
「やべえ!」
スライムが口から水球を吐き出した。
と、同時に俺の足はスライムへ向かって動き出した。
なんでだよ!?
普通後ろにひいて逃げるとこだろ!
何、前に出ちゃってるの!?
そして短剣をチラリと見て刀身に炎を纏わせ核を狙い腕を振るった。
ちなみに、レアチケットで出たこの短剣は炎纏の短剣といい。名前の通り、その効果はMPを1消費すると刀身に炎を1分間纏わせることが出来る。
MP消費なしで1分経つ前に炎を消すことも可能。MPを更に消費したところで炎が出ている時間を伸ばすだけだ。
他に出来る事はないという微妙な短剣だ。
閑話休題。
短剣がスライムに触れた。
「プギュィイイ!」
「うわあああ!使えねえ!?」
刀身の触れた部分は少しだけ蒸発させる事が出来たが、ジュッという音と共に速攻でスライムの体液に短剣の炎は消火されてしまった。
しかも蒸発部分もすぐに塞がり俺の腕に絡みつこうとしてきた。
流石の狂った俺も危険だと判断したのか後ろにジャンプして退く。
するとスライムが俺にのしかかろうと全身を動かしてきたのを察知して更に後ろへ退く狂った俺。
「少し体積が減ったように見えるから何回かやれば蒸発させて倒せそうだけど、流石に時間がかかる。やっぱ今は逃げた方がーー」
口では色々と弱音を吐きながらも、俺の目は冷静にスライムを捉え、頭ではどう倒すかのシミュレーションが繰り広げられているのが分かる。狂った俺は思考の主導権まで握り始めている。
そして短剣を構え再びスライムへ駆け出した。
くそ!こうなりゃヤケだ!
身体は動かせないし、思考も少しだけ奪われ始めたが、口は未だ動かせる!
気合い入れてやらあ!
「喰らえええええええ!」
「ブギュウウウウ!」
「ちっ!」
狂った俺を鼓舞する雄叫びに驚いたのか、スライムは水球を連射してきた。
避けるのは容易いが、量がかなりのもので近付けない。
一旦、狂った俺も距離を置くと、スライムも水球を発射するのをやめた。
射程範囲外だからだろうか?
スライムはジッと俺の動きを観察している。
「ん?あれ?」
そこで俺は気付いた。気付いてしまった。
その巨大な体積が減っている事にーー
「このまま避け続けたら、短剣で蒸発させるよりも早く自滅するんじゃないか?」
狂った俺との思考が合致した瞬間だった。
「ブギュウウウウ!」
「って、おいおい!確かに気合いを入れたりはしたけどさ!流石に体力もたないだろ!」
迷いなくスライムの射程範囲に入る狂った俺に、先ほどの意気込みを忘れたように俺は弱音を吐き出した。
だってコイツ、当たったら死ぬであろう避けゲーに生身で挑もうとしてるんだよ?
頭おかしいよ本当。
「うおおおおおおお!?」
どれだけ否定しても、スライムと狂った俺は待ってくれず水球の弾幕を避け続ける。スライムの核に短剣が届くまで体積を削らせるまでーー
避けた水球が地面を濡らし出来た泥濘みに足を取られぬよう、細心の注意を払いながら……
「はあっはあっ。もうっ良いっだろ!
体力もっ!限界っだろ!」
「ブギィイイイイ!」
酸欠で頭が痛くなり思考が鈍りそうになる。
スライムを見ると最初よりもかなり小さくなっており、俺と同じぐらいの大きさだ。
そろそろ短剣も核を貫けるだろう。
というか早く貫いて!
狂った俺!俺はもう分かってるんだぞ!
結構前から核を貫けるってことはよ!
あれか!?ワザと体力減らして俺を苦しませて楽しんでるんだろ!?
お前も俺だから疲れてるって意思と楽しいって意思が少し伝わってきてるんだよ!
馬鹿か!?馬鹿だろ!?
何、自分自身虐めて楽しんでんだよ!
もう決着つけろよ!
あっ!てめ!今やれやれとか思ったな!?
「プギュァアッ」
狂った俺は仕方ないという感じで炎纏の短剣に炎を纏わせスライムに近付き核を貫いた。
あれ?そういえば、初めて意思疎通が出来たな。
いや、今はどうでもいいや。
それよりもスライムだ。
巨大だったスライムも核を潰せば簡単に倒せたようで無事に煙となって消えると、そこには青色の短剣と地下へと続く階段があった。
短剣の方はボスドロップか?
「っ!」
身体全体が一瞬熱くなった。
気のせい?それとも動き過ぎたせいで身体が悲鳴をあげた?
うん、考えてもわからないな。
一先ず考えるのをやめる。
疲労で何かを考えることすら辛い。
「ああ!終わったあ!」
俺は泥で服が汚れるのを気にせず、その場で大の字になって寝転がる。
疲れて足が重くて立ってられない。
って、あれ?身体の主導権が元に戻ってる。
このまま戻れないかと思ったが、良かった。
俺は安堵と共にしばらく、その場で休憩した。
「さてドロップアイテムを拾うか、うっ」
スライムの落とした短剣を拾うと頭に短剣の情報が流れてきた。
炎纏の短剣の時も思ったが、気持ち悪い感覚だな。慣れそうにない。
さてドロップアイテムだが名前は水球の短剣、☆1だがMPを1消費して手のひらサイズの水球を放てる。MP消費量を増やせば威力が上がる上に、おいしい。
「いや、おいしさ関係ないだろ!」
……狂った俺のせいでツッコミやすくなってるな。
ダンジョンに俺の声が木霊して少し恥ずかしくなる。
とりあえず試し撃ちをしてみるか。
MPを1消費すると短剣の剣先からオモチャの水鉄砲程度の威力の水球が飛び出した。
「☆1だからあまり期待してなかったけど、これは流石に武器にならんぞ」
呆れながら俺はスマホを取り出し時間を確認する。
「5時半か。スライムの足止めにかなり時間を取られたな」
そろそろ帰って夕食の準備をしないとな。
服も着替えたいし……
「誰だよ泥にダイブしたの!くそ!狂った俺じゃなくて、俺自身だよ!」
自分自身にノリツッコミをしたが反応がないから虚しい。狂った俺もいつも通り反応してくれない。
うん、一旦落ち着こう。
とりあえず2階層へは行っておきたいな。
ダンジョンに再挑戦する時は前回の到達点から階層からって謎結晶のトピックスにあったけど、階段が消えでもしたら、あのスライムともう一度戦わないといけないだろう。そんなのは嫌だ。
俺は休んだおかげか、先ほどまでの疲れで立つことも嫌になるほど重かった足は少し軽くなっていた。
おかげで楽に微妙に長い階段を労せず降りられた。
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