新たな職業と武器
チュートリアルという非現実的な体験と、これまた非現実的な学校がダンジョンと化したパニックは一先ず生徒を一時帰宅させる事で沈静化が図られた。
「まさかダンジョンが……」
顔を青ざめ震えながら家へと向かう彩芽。
教室で感じたように調子が悪かったようで、チュートリアルなどの突拍子も無い出来事で完全に体調が崩れてしまったらしい。
「彩芽、大丈「彩芽様!お気を確かに!」
俺の声と被せて彩芽を心配する声をあげたのは、彩芽の親友の玲奈だ。
玲奈は何故か彩芽の事を様付けし、犬のような忠誠心を感じさせる女だ。そして極度の男嫌いで、彩芽と過ごすことが多いせいか俺に対しては更にそれが顕著に現れる。
小学校から高校まで一緒の学校なんだから、もう少し態度を軟化させてくれても良いのにな。
そんな玲奈は忠誠心を示すようにフラフラしながら歩く彩芽を支えながら家へ帰るのを手伝っている。
ちなみに大樹も小学校からずっと一緒で、玲奈と同じく彩芽を心配して家とは方向が違うのに彩芽と玲奈の荷物を両方持って着いてきてくれてる。
「悪いな大樹」
「いいってことよ!困ってる時はお互い様だろ?荷物のおかげで俺の筋肉も鍛えられて一石二鳥だ!」
大樹はその2m近くある体躯と屈強な肉体で誤解されやすいが、本当に良いやつだ。
欠点をあえて挙げるなら筋肉史上主義ってことぐらいだ。
「そういえばネットじゃ大騒ぎだな。
SNSやダンジョン関連のサイトは鯖落ちしてるぞ」
「こんな非現実的な事が現実に起きたわけだしな」
「鯖落ち前に何とか確認出来た情報だと、世界中の高校や大学とかがダンジョン化したっぽい。他にも何もないところにダンジョンが現れてたりもするらしい」
「何が目的なんだろうな」
「人類の進化のためとか?現代人の多くは筋肉が足りてないからなあ」
何故、学校がダンジョン化したかなどの話し合いをしていると家に着いた。
とりあえず、彩芽を着替えさせベッドで寝かせるよう玲奈に頼んだ。
なんか、玲奈の目が怪しく光っていたが気のせいだろう。彩芽への忠誠心が振り切れてる玲奈に限って変な事はしない……はず。
しばらくすると玲奈が2階の彩芽の部屋から降りてきた。
「ここまで、ありがとう2人とも」
「いいってことよ!」
「彩芽様に何か変な事をしたら殺すからね?
はあっ仕事さえなければ看病出来たのに」
玲奈は憂鬱そうに呟いた。
仕事というのはドラマの撮影だ。
玲奈は親の意向で読者モデルをしたところ人気が出て現在タレントとして活動中。
いくつかドラマにも出ていたりする。男嫌いはテレビの中でも健在で男性への当たりが強過ぎる気もするが、逆に男ファンの心を掴んで最近人気が出てきている。
難儀なものだ。
そんな忙しそうな玲奈と何故かウサギ跳びで移動する大樹が帰るのを見送った後、2階の彩芽の部屋に入る。
言っておくが看病だからな!
か・ん・びょ・う!
「体温計何度だった?」
「37度ちょうど」
「微熱か。微熱にしては体調悪そうだが」
「ごめんね?」
「謝ることじゃねぇだろ。
何かあれば電話かメールでもしてくれ。
一応夜飯まではリビングにいるからよ」
「うん」
なんか、しおらしくてムズムズするな。
いつもの元気はどうしたよ。
そんなことを思いながらも口にはせず部屋から出ようとした。
「あ、待って」
「ん?」
「ダンジョンには絶対1人でいかないでね。
1人じゃ絶対に危ないと思うから」
「……大丈夫だよ」
それだけいって部屋を出た。
ごめん、彩芽。
その約束は守れそうにない。
1階に降りてリビングで少しくつろぐ。
テレビではやはりダンジョン関連のニュースばかりだ。
大樹が言っていた通り、世界中の学校が全てダンジョンになってしまったという。
ただ、それも不思議なことに高校と大学だけで中学校や小学校、幼稚園なんかはそのままで、更にいうと中学生以下の子供達にはチュートリアルの現象は起こらなかったという。
他にも一部の歴史的な建造物もダンジョン化しているなんてことも言っていた。
動画サイトでは早速、生放送でダンジョンに挑戦している人達が出てきている。
その手には無骨な大剣やハンマーなど、チケットから出てきた武器が握られている。
1階層の敵は全てスライムなのか、どのチャンネルもスライムとしかいない。
あまり、面白いとは言えない動画だが、それをみてドクンと鼓動が脈を打つ。
俺も早くダンジョンに挑戦したい。
動画サイトで生放送出来てるし、電波は届くのだろう。彩芽の電話やメールには気付けるはずだ。
「よし、まずは職業だ!」
ダンジョンに挑戦する前にポケットからレアチケットを取り出す。レアチケットでの戦力強化は必須だろう。チュートリアル中に出た職業は☆1だったしな。
「最低でも☆2!出てこい!」
そう願いながら職業チケットを破いた。
すると、緑色の光と温かさが身体を覆う。
「さて、確認だ」
アプリを開いて職業を見る。
ーー
・メインメニュー
現在職業:狩人(☆1)……lv1
選択可能職業:高校生(☆1)……lv1
アナリスト(☆2)……lv1
ーー
「うーん」
微妙。☆2だけど、アナリストって確か分析家とかそんな意味だろ?非戦闘職かよ。
狂った俺に暗記させられたトピックスの中には非戦闘職でダンジョンに挑むのは注意とかあったから、非戦闘職よりも狩人の方が戦えるだろう。
「仕方ない。武器の方に期待しよう」
そう言いながら武器チケットを破くと煙が上がってカランと何かが落ちる音がした。
煙が晴れて見てみると、そこには赤い刀身の短剣が落ちていた。
とりあえず拾ってみるか。
「うっ」
拾った瞬間に、短剣についての情報が頭に直接流れてきた。
「それなりに当たりなんだろうけど」
短剣は☆2の武器だった。やっぱり☆3が欲しかったためガッカリしたが、そのことよりも高揚感の方が増していたため、あまり落ち込まずにスマホを操作した。
ーー
・メインメニュー
名称:214番ダンジョン
危険度:☆2
階層:7
ダンジョンへ挑戦しますか?
【YES】
参加人数:1
ーー
「当然、イエスだ!」
【YES】を押した瞬間、一瞬浮遊感に襲われたと思ったら視界が一変し洞窟、いや、ダンジョンの中にいた。
○●○●○
ハジメがダンジョンに挑戦する少し前。
彩芽の家から出た大樹と玲奈は家の方向も同じということもあり、並んで歩いていた。
ウサギ跳びは少し前に暑苦しいからと玲奈に止めさせられたので大樹も普通に歩いている。
「で、どうするの?」
「どうするも何も俺達で頑張るしかないだろ。せっかく平和な世界にきたアイツらを再び戦わせるわけにはいかねぇよ。
それに今の2人は平和ボケしていて足手纏いになりそうだ。特にハジメはな……」
「そうね。せっかく彩芽様が求めていた平和な世界での生活を脅かすなんて!
何者かは知らないけどーー彩芽様を傷つけるやつは神でも万死に値するわ!
アイツはどうでもいいけど!」
玲奈がシャドーボクシングしながら話してるのを見て大樹は少し笑いながら手を差し出した。
「よし、決まりだな?」
「ん?何よ、その手?」
「チュートリアル聞いてなかったのか?
手を握らないと一緒にダンジョンへ行けないぞ?流石に今の状態じゃ前世の記憶がある俺達も1人じゃ危険だ。
ダンジョンで鍛えるために仕事なんて嘘をついて看病を諦めたんだろ?
手を繋ぐくらいーー」
「嫌よ!手を繋ぐくらいなら1人でいくわ!」
スマホを素早く操作すると玲奈が、その場から消えた。
「あっちょ!流石に1人は!って、はぁ。
行っちまったよ。アイツの男嫌いには相変わらず困るが、仕方ねぇか」
大樹は呆れながらスマホを操作し、ダンジョンへ向かった。
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次話からようやくダンジョンです。
明日は多分、昼と夜の2回更新です。