チュートリアル
急用で12時に投稿出来ませんでした…
学校に着くと生徒達はどこか楽しそうにアノ事件のことを話していた。
「いよいよ今日か」
「ダンジョンなんてゲームとかだけの存在を本気にしてんのか?馬鹿だなあ」
「お前は夢がないんだよ」
隣の県で約2万人も殺されてしまってるというのに呑気なものだ。
中には「隣の県だよ?やばくない?」とか話してるやつもいるが、実害がないせいだろう。彼らは不謹慎にも話のネタとしてしか見ていない。
いや、この2年で感覚が狂わされたんだろう。
元々世界のどこかで1日十数万人の人が命を絶っていた。アノ事件の被害者達もそんな1日で亡くなる人々の1部で、不幸な日常の1コマというふうに認識が歪んでしまった。
もしくは死ぬ時は死ぬという多少諦めのような覚悟を知らず知らずのうちにされてしまったのだろう。
そんな事を考えながら教室に入ると、やはり教室でも同じような話題で溢れていた。
自分の席に着き、鞄を置いて1時間目の教科書を探していると身長2m弱の巨漢が近付いてきた。
「おっすハジメ!今日も夫婦揃って登校か!羨ましいなあ」
「違うから」
隣の席の巨漢、大樹の冷やかしにすぐに反論する。
「ちょっ!早えよ!」
「そら何度も挨拶がわりに同じ事を言われ続ければ反応も早くなるさ」
このやり取りはもはや朝のルーティーンみたいなものですらある。
「まあ、いいやそんな事より今日のニュース見たか?」
「ん、まあな途中でテレビ消されたけど」
「ははっチャンネル争いに負けたか」
少し非難するような目で若菜を見る。
あれ?なんか顔が少し赤いな。風邪か?
朝飯の時は特に体調悪そうとかなかったけど……少し心配になるが大樹と向き合い会話に戻る。
「しかし本当に今日の14時からダンジョンなんて出現するんかな?」
「普通に考えてあり得ねぇだろ」
「んまな。けど、もしダンジョンが現れたら俺はこの筋肉でダンジョン制覇してやるぜ!」
まるで子供のように顔を輝かせながら服の袖をまくり力こぶを見せつけてきた。
正直、男の筋肉なんて見ていたくない。
顔を背けると丁度先生が教室に入ってきた。
「おーい、そろそろST始めるぞー」
その言葉を聞いて大樹は自分の席に戻っていった。
○●○●○
時刻は13時58分。
いつもなら昼食を食べた後の授業ということで眠気に襲われてる生徒もいるのだが、今日は皆しっかり起きている。大量殺人鬼のメッセージ、ダンジョンオープンのことが気になるからだろう。
隠れてスマホを見てるやつまでいる。
「みんな時間が気になるようだな。
先生も気になるから授業は一旦休止、カウントダウンでもするか?」
「「「賛成ー!」」」
先生の申し出にみんなザワつきだした。
「こら!他のクラスの邪魔になるからカウントダウンも静かにするぞ?」
「「「はーい」」」
先生がザワつきだしたみんなを収め、少しの静寂が教室を包んだ。
そして教室の時計は14時の5秒前となった。
「「「5、4、3、2、1、0」」」
しかし、当然といえば当然なのだが、何も起きなかった。
「やっぱりな」と、教室中の誰もが心の中で呟いたであろう、その瞬間だった。
「「「きゃー!?」」」
「「「うおぉお!?」」」
突如、地震が起きたかと思うとーー辺りが一変し、俺は何故か1人で真っ白で何もない空間にいた。
「どこだここ?」
「ヤッホー!ダンジョンオープンを記念してチュートリアルを始めるよ!」
「!?」
何もない空間に響く少年のような声。
あたりを見渡すが誰もいない。
「おい!誰だ!?ここはどこなんだ!?」
「ダンジョンに出てくるモンスター!
こいつらに地球産の武器は効かないぞ!
頼れるのは自身の肉体とダンジョン産の武器だ!」
俺の言葉が届いてないのか、それとも無視してるのか少年声によるチュートリアルは進んでいく。
「おっと?早速モンスターが出てきたぞ?
気をつけろ!僕が助けてあげる!」
少年声の言葉と同時に、某RPGで見るような愛らしいフォルムの半透明な青いスライムが現れた。
スライムはプルプルと震えて、その場に留まっている。
「って、なんだぁ。単体最弱のスライムじゃないか。これなら、武器がない君でも倒せるはずだ!さあ!スライムの弱点は身体の中心に見えるアノ石、通称核だ!やっつけてやれ!」
「うお!?」
少年の言葉を合図にスライムが飛びかかってきたのを後ろにジャンプして避ける。
わけがわからないけど襲ってくるのは危険だ!
俺は勢い良く蹴りを放った。
「おら!って、はあ!?」
「ピギィイイ」
俺の蹴りはスライムに届いたが、ズボッという音と共にスライムの身体の中に埋まってしまった。
一応痛みがあるのかスライムは泣いているが……
「とりあえず!は!な!れ!ろ!」
「ピギィイイ!」
足をブンブン振ってみるが、全く抜ける気がしない。
「なら!これだ!」
「プギィイイ!?」
引いてダメなら押してみろ。
スライムの弱点は身体の中心にある核だと少年声は言っていた。
俺は地面でスライムを固定して思いっきり踏み抜いた。
「もう少し!よし!」
「ピッピギュィ!」
足が核に届く、想像以上に脆いな。
核は足が触れただけでパキンという音を出し簡単に割れた。
そして割れると同時にスライムは煙となり、煙が晴れると1枚のチケットが落ちてきた。
「おお!?おめでとう!
スライムからレアチケットが落ちたぞ!
レアチケットはモンスターの強さと関係なく1京分の1の確率でドロップする名前の通りレアなアイテムだ!運が良いな!」
俺は少年の声を聞き流しながらチケットを手に取って見てみた。
そこには職業☆1〜3と書かれていた。
「レアチケットは破った瞬間にチケットに書かれたモノがランダムで1つ手に入るよ!
そのチケットの場合は☆(レア度)1〜3の職業が手に入るよ!早速使ってみよう!」
人間、予想外のことばかり起きると考えるのをやめてしまうのか、戸惑いながらも少年声の指示に従いチケットを破くと身体を緑色の光が包んだ。
なんだか温かいな。
「さて、早速どんな職業が手に入ったか確認しよう!君のスマホを出してみて!」
言われたままスマホを出すと、インストールした記憶のない【ダン攻】というアプリがあることに気付く。
次の指示は、どうせコレが関係してるのだろうと思い開いてみると文字だけの簡素な画面へと切り替わった。
ーー
メインメニュー
・ステータス確認
・ダンジョン
・職業設定
・レベル10で解放
・レベル15で解放
・レベル20で解放
ーー
「ダンジョン攻略アプリ、略して【ダン攻】は名前の通りダンジョン攻略に対する様々な機能満載なアプリだ!
といっても!最初から機能全開だとヌルゲーになってしまうからレベルで機能を制限してるよ!
さて、早速いま使える機能を使おう!
職業設定をタップしてみて!」
ーー
・メインメニュー
現在職業:高校生(☆1)……lv.1
選択可能職業:狩人(☆1)……lv.1
ーー
言われたままに開くと、やはり画面には文字だけだった。
そして選択可能職業のとこにある狩人(☆1)をみて最低レアリティかと少しガッカリしながら、チュートリアルの説明を待った。
「選択可能職業から変更したい職業をタップすればそれだけで職業が変更可能だから忘れないでね!」
とりあえず狩人をタップすると、選択可能職業にあった狩人と現在職業にあった高校生が入れ替わった。
てか、高校生って職業なのか?
そんな俺の疑問を無視してチュートリアルは進む。
「続いてステータスを確認してみよう!メインメニューに戻ってからステータス確認をタップしてみよう!」
言われたまま押してみる。
ーー
・メインメニュー
職業:狩人....lv.1
称号:
状態:異常なし
MP:10/10
スキル:【視力強化】
ーー
「これだけ?」
ゲーム感が強いからステータスも攻撃力とか色々あるものだと思っていたが、メインメニューと同じで手抜きすぎない?このアプリ。
少し呆気に取られていると、それを見透かしたようにチュートリアルが進む。
「おや?不満かな?
攻撃力とかの数値が欲しかったかい?
けどさ、人って体調や精神状態とかで出せる力はかなり変わるし、数値なんかみてもイマイチ実感しにくいから必要ないと思うんだ!」
確かに、インフルエンザの酷い時とかは小さい子供にすら力で負けそうなぐらいになるし、数字で言われたところであまり意味はないのかな。
ステータス確認は状態を確認するためだけのモノになりそうだ。
「さて、チュートリアルもそろそろ終わるよ!メインメニューへ戻ってダンジョンをタップだ!」
指示に従うと、某Gマップに近い地図が開かれた。
マップには恐らく自身の居場所に▽の記号が、そして学校の中心にピンの絵が描かれていた。
「ピンに触ってみて!」
ピンをタップすると画面が切り替わる。
ーー
・メインメニュー
名称:214番ダンジョン
危険度:☆2
階層:7
ダンジョンへ挑戦しますか?
【YES】
参加人数:1
ーー
「これでYESをタップするとダンジョンにワープするから気を付けてね!
5人までなら手を繋いだ状態で代表者がYESを押せば一緒にダンジョンへワープするから協力プレイも出来るよ!ダンジョンを出る時もダンジョンをタップすれば似たような操作でワープして戻る事が可能だよ!」
なんだか、本当にゲームみたいだな。
「それと実際に足を運んでダンジョンに入れば制限人数もなくみんなでダンジョンに挑戦出来るけど、当然帰りはワープ出来ないから自分の足でダンジョンから脱出しないといけないよ!
これにてチュートリアル終了!
後は実際に活動しながら覚えていってね!
チュートリアル終了報酬としてレアチケットの職業☆1〜3と武器☆1〜3をポケットの中に入れておいたぞ!武器はセット中の職業に適したものが出やすいから気をつけてね!」
ブツン!という電子音と共に視界が暗転したかと思うと、何故か学校の外にいた。
なんで謎空間に行く前にいた教室でなく学校の外なんだろう?
その疑問のおおよその答えは目の前にあった。
学校があった場所には巨大なTHE洞窟ダンジョンの姿があり、学校の面影が一切なくなっていた。
俺や他の生徒は勿論、先生達も非現実的な光景や体験に暫く固まることしか出来なかった。
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