情報規制
4階層も洞窟のような構造というのを確認して、俺達は家に帰った。
説教を受けながら昼食を作り、食事中は一旦中止となり、食後1時間ほど説教が続いて精神的な疲労が凄い。
「今日はもうダンジョンに入っちゃダメだからね!」
「そんな元気もうありませんよ」
「なら、よし!じゃあ6時には帰るから!」
彩芽は俺に念を押して家から出て行った。
玲奈と遊びに行くらしい。
ダンジョンで結構動いていたのに元気なものだ。流石、勇者見習いってとこか?
「テレビでも見るか」
ソファに倒れながらテレビの電源を付けた。
丁度、昼の情報番組ではダンジョン関連の話をしていた。
「世間を騒がせているダンジョンですが、各国の代表者が集まり会談する事が決まりました。会談の日程は驚くことに今から約14時間後、日本時刻でいうと明日の夜明け前3時です。
交通の関係で直接参加出来ない国はテレビ通話での参加が認められるそうです。
ダンジョンへの関心の強さが伺えますね」
「うーん、確かに関心の強さが伺えますが流石に対応が早すぎるような気がしますね。
現段階では危険度☆3未満のダンジョンでの被害者はほぼ0ですしーー」
司会に話を振られた元政治家のタレントは陰謀論を仄めかし笑いを取っていた。
いや、司会者が面白くしただけで本人の目は至って真面目だ。
それが余計に面白い。
「他に何か新しい情報とかないかな?」
○●○●○
「ふぁあっ。もうこんな時間か」
情報収集の途中で寝落ちしていたようだ。
時計を見ると5時半、そろそろ彩芽が帰ってくる時間だ。
「にしても有益な情報は少なかったな」
今のところ☆3未満のダンジョンはスライムとの遊び場状態で、攻略しようとしてる人は全くいない。
中には攻略組とか呼ばれてるやつらが☆1のダンジョンをネットで情報交換しながら攻略中で現在は3階層まで到達しているらしい。
チュートリアル時に得た強力な武器のおかげでモンスターの討伐は容易で、今のところは安全にマッピングしながら進んでいる。
この攻略組の情報はそれなりに有益なものがあった。
例えば、ダンジョンは一度退出してから再び挑戦する際は前回の同じ場所からというのは俺も体験している。
そこで攻略組は今後パワーレベリングすることを考えある実験を行なった。
それは個人(仮にaとする)で、ある程度距離を進めてからaが退出してaの【ダン攻】から複数人で挑戦するというもので、結果は1階層の初期位置からのスタートとなった。
これも俺は体験済みだ。
有益な情報はその次の実験だ。
その次に攻略組は複数人で、そのままある程度、距離を進めてから退出し、aが挑戦する。
するとaは個人で進んだ場所からスタートになったらしい。
更に実験は進み、メンバーを替えて複数人で挑戦する場合、人数さえ変わらなければ主体となったaが複数人で到達した場所からのスタートが可能で、パワーレベリングは可能という結論に至った。
まあ、人数が変われば1階層からのリスタートだから少し面倒だけど。
他にもレベルアップによって、微弱だが身体能力の向上が確認されている。
といっても、レベル5でレベル1の時より握力が約1.1倍、100m走のタイムが約0.1秒縮まった程度だ。
まあ、陸上の世界では0.1秒の差は大きいが実感は湧かないだろうし誤差の範囲とも言える。
レベルが10になった俺も全く違和感を感じないし、ドアノブを力を入れすぎて壊すとかもないから日常生活に支障はない。
このように文字通り攻略するための集団で実験ばかりしているため☆1ダンジョン3階層までしか到達出来ていないのだろう。
2階層のドロップアイテムが拳サイズの鉄で、3階層は拳サイズの銅だったらしく、最下層である5階層ではプラチナや金が取れるんじゃないかという話題で盛り上がってるが……
正直、そんな既存の金属よりも☆2のドロップアイテムの方が余程価値があると思う。
だからこそ不思議だ。
攻略組以外にダンジョンに挑んでるやつはもっといるだろうし、そいつらの中で☆2の2階層以降に到達してるやつも少なくないはずだ。
最初は俺や彩芽以外に☆2の1階層を突破してるやつがいないと思ったが、流石にダンジョン発生から24時間以上経ってるし、初期装備でもイモムシとかは勝てるはず。
「情報が制限されてる?」
眠ってる間に、纏まった思考が導き出した答えを確かめたくてスマホに手が伸びる。
適当な匿名掲示板を探して書き込みをする。
「危険度☆2のダンジョンで出た毛糸の塊便利すぎっと」
特に当たり障りの無いことを画面に打ち込み、送信を押ーー
「うぉお!?」
送信を押そうとした瞬間に【ダン攻】のアプリが開いた。
ーー
危険度☆2以上のダンジョンに対する電子機器を介した情報の開示は1階層のみ可能となっています。
危険度☆2以上かつ2階層以降の情報交換をしたい場合は直接会話をするか、レベル15で解放される機能で行なってください。
書き込みデータを削除しました。
ーー
「びっくりした」
というか、本当に情報を規制していたとは……
昨日までの俺は少し自惚れていたようだ。