諦めてる日常
さて、ここから本編です
神様とは無情なものだ
自分の余命は二年と言われていたのに気がつけば五年の月日が過ぎていた―――
そんなことを思うなど贅沢だと思う
別に死に急ぎたい訳でもない
だけど俺の心の中は日々を楽しいとも、嬉しいとも思わなくなっていた
幼かった俺にとって、死ぬという宣告は重すぎたのだ
「大樹さん 検温の時間ですよ」
昼食を食べ終わった頃、いつもの看護師さんがやってきて、慣れた手つきで検温を済ましチェックを入れる
「今日は体調がいいのね 朝の診察も問題なかったそうよ」
看護師さんはにっこりと笑ってくれるけど、その台詞は昨日も聞いた
一昨日も聞いた
その前も……
同じ日々、同じ行動、同じ言動、同じ顔
何も変わらない
けれど母さん達はそれで喜んでいる
でも、それは本当にいいことなのだろうか
「ちょっと散歩してもいいですか?」
看護師に尋ねると少し黙ってから、「病棟内ならね」と許可が出た
看護師が出ていった後、俺はゆっくりとベッドから出る
ほぼ寝たきりなので筋肉は弱り、ゆっくりとしか動けない
心臓の病気と知るまでは普通に生活していたのに……
俺は唇を噛んだ
散歩と言っても廊下を端から端までただ歩くだけ
何の楽しみもない
でも今日は何となく違う所へ行きたいと思った
何故そう思ったのかはわからない
本当にただの気まぐれだった
俺は案内図を見て入院中の患者が集まるフロアへと向う
正直に言おう
五年間入院しているのにそのフロアへ来るのは初めてだったりする
フロアに着いて辺りを見ると無駄に椅子が多い。
いや、これほ流石病院だというべきかもしれない
そしてお年寄りが多いのは時間のせいだ
そうに違いない。
「……」
やっぱり引き返そう
ここへ来ても知り合いもいない
そう思ったけど婆さん二人と目が合ってしまった
何も無かったように会釈をして過ぎ去ろうとしたけれど、二人はこっちにおいでと手招きをしている
これは逃げられそうにない
まあ、急いて病室へ帰ったところでやることも特にないのだけれど……
俺は軽く息を吐き婆さん達の所へ向かった
空いている椅子へ座るように促される
これは、話に付き合えと言うことだろうか?
俺が椅子に座ったのを確認してから婆さん達は話しかけてきた
「兄ちゃんは、一人でお散歩かい?」
「ええ、まあ」
「いい男だねぇ。私が後五十年若かったらデートに誘うんだけどねぇ」
「バカだねあんた。もっと若い子がいいに決まってるだろ!」
「そうかい?」
「大体、あんたが五十年若くても三十だろ?この兄ちゃんには釣り合わんて。なぁ、兄ちゃん?」
「はははは……」
俺は笑って誤魔化す
この場合の正しい返し方を俺は知らないからだ
「兄ちゃんは年いくつね」
「今16です」
「わっかいのぉ」
「見ない顔だけど兄ちゃんは入ったばっかりかい?」
「いえ、五年になります」
「五年?私らもここは長いけど、見かけた事がないってことは、ここか?」
そう言って婆さんは俺の胸の辺りを指した
俺は黙って頷く
「ここを悪くすると年に関係なく引きこもる者が多いからねぇ」
どういう意味だ
「兄ちゃんくらい若いと、やりたいことも沢山あるやろにねぇ」
「……、そうでもないですよ」
俺は視線を婆さん達から外し、窓の方へ運んだ
桜の花びらがヒラヒラと舞っている
「今では親以外に面会はありませんし、毎日暇をもて余してますよ」
「そんなもんかねぇ?」
婆さん達は顔を見合わせた
入院したばかりの時は学校の友達も色んな人が見舞いに来てくれた
だが五年立った今、お見舞いに来てくれる友達は誰もいない
我ながら悲しい交友関係である
「学校とかは行きたいと思わんのかい?」
「別に…」
「そうか、やっぱり学校とかに行きたいわなぁ……」
婆さんは俺を完全に無視して言う
違う
そのたった一言が詰まって出てこない
やはりここには来なければよかった
俺は激しく後悔した
婆さん達の言葉は別に方言とかではないです
わざと変な語尾にしたりしていますが、入れ歯で滑舌が悪いと思ってください




