第九十六話 最高の幸せ
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本日で、本編終了ですっ!
それでは、どうぞ!
暖かい風が吹く竜珠殿。見頃を迎えた花々に囲まれて、私は……なぜか、アルムの膝の上に居る。
「シェイラ」
「ひゃいっ!」
いわゆる膝抱っこの状態で、後ろから抱き締められている私は、耳元で囁かれたせいで心臓がバクバクのドキドキだ。
「あぁ、可愛いな、シェイラ」
あまりにも甘く告げられたそれに、私はしばし思考停止状態に陥る。
「まだ、色々と準備はあるが……それが整ったら、改めて、ボクの話を聞いてほしい」
準備というのは、最近、なぜか悪魔に家事の指導を受けていることと関係があるのだろうか、と思いながら、私は何とかうなずいてみせる。
お姉様から、アルムは私のことを想っているのだとは聞いていたが、実際のところ、それを完全に信じることはできなかった。何せ、お姉様と私では、容姿も性格も、随分と違う。お姉様に恋をしていたアルムが、私に恋をしたなんて、信じられなかった。しかし……。
(信じても、良い、ですか?)
言葉にできないその思いを、私はお腹に回された腕をギュッと握ることでやり過ごす。
「お、お待ち、しています」
私達は、先日、お姉様とルティアスの結婚式に参加していた。そこで、セルグは初めてお姉様の結婚を知ったらしく、かなり狼狽えていたのが印象的ではあったが……私は、アルムにエスコートしてもらって、お姉様の幸せそうな姿をしっかりと見てきていた。そして、だからこそ、今はアルムのことが余計に気になるわけで……。
(っ……これ、また立てなくなるパターンでは……?)
スキンシップの多いアルムを前に、私は何度も腰を抜かすはめになっていた。そして、少し前まで問題視されていた悪魔はといえば……。
「あーっ、もうっ、甘いっ! 甘ったるいっ! 砂吐きそうっ!」
「チッ、邪魔をするな」
「んなわけにはいかないでしょうっ! 僕の精神状態を少しはおもんばかってほしいところなんですが!?」
「知るか! それより、消化はできたのか?」
「あぁ、それはもうばっちりと……今は、色んな意味で口直しがほしいところです」
「厨房にでも行ってろ」
「いや、特訓しますからね!?」
この悪魔……仮の名前としてガイと名付けられた彼は、バルファ商会会長達の妹が召喚した悪魔を食らったそうだ。何でも、悪魔は下級の者を食らって強くなることが可能なのだとか……ただし、凄まじく不味いため、それをする者はほとんど居ないとのことだった。
アルムと舌戦を繰り広げるガイは、現在、アルムの側近としての地位を手に入れて、アルムにビシバシと家事を仕込んでいる。ついでに、騎士団や影を鍛えていたりもするらしく、案外この竜珠殿に溶け込んでいた。
本人に言えば、『まぁ、それくらいできなきゃ悪魔としてやっていけないしなぁ』と言っていたが、そういうものなのだろうか?
「くっ、せめてあと五分!」
「子供かっ! ほら、さっさと行くよ!」
絶妙な力加減で、ギュウギュウと私を抱き締めるアルムは、必死に駄々をこねて、ガイの言葉に撃沈していた。
「えっと、お仕事、頑張ってくださいね?」
「ほら、未来の嫁が言ってるんだ。行くよっ」
「よ、嫁!?」
「……分かった。シェイラは、ここでゆっくりしていると良い」
ガイの爆弾発言も何のそので、アルムは私の頬にチュッと音を立てて……。
(キ、キス、されました!?)
もう、私の頭の中はパンク状態だった。
「あー、うん。もう、目に毒……」
死んだ魚の目をしたガイに気づくこともなく、私は顔の熱を何とか逃がそうとする。
「待っていてくれ、シェイラ。ボクは、必ず――――」
アルムは何かを言おうとしたらしいが、ガイに急かされて、名残惜しそうにしながらも立ち去っていく。
「……シェイラ様。立てます?」
「……無理」
アルムが居なくなったその場所で、ベラがゆっくりと近づいて声をかけてきたが、足に力は入らない。
これから先、私は幾度も似たような経験を続け、最終的には、アルムから告白を受けることとなる。その瞬間、セルグの目が物騒なものになった気もするが……そこから三日くらいは、アルムが毎日ボロボロになっていて、半年後に、結婚をすることとなる。
「シェイラ、愛してる」
「はい、私も、です」
これから、どんな困難が訪れようと、アルムが隣に居てくれるなら大丈夫。そんな自信とともに、私は、最高の幸せを手に入れるのだった。
(完)
本編は終了ですが、明日、あと一話だけ付け足す予定です。
悪魔ことガイのお話をば(笑)
それでは、また!




