第八十七話 止められないもの
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前回はわりと悲惨だったので、今回はある意味コメディ回?(いや、護衛達、コメディしてたけど)
それでは、どうぞ!
魔法を解き終わり、あとはアルム達に任せようとその場を後にした私は、ちょうど良いからと竜珠殿を歩き回っていた。
(ほどよく、掃除はできたようですね)
ここに来た当初は、そこかしこで私に対する陰口が聞こえていたのだが、今はそんなことはない。多くの貴族の弱みを握り、暗躍してきた私という存在は、彼らにとって恐怖の対象なのだろう。とはいえ、彼らも私が強力な諜報部隊を有しているくらいの認識で、私自身が諜報活動を行っているとは思っていないようだが……。
「シェイラ様。少々よろしいでしょうか?」
しかし、その弊害というか、何というかが生まれてしまったのは、仕方ないとはいえ、頭が痛かった。
「何でしょうか?」
私を呼び止めて来たのは、とある伯爵家の当主である男だ。
「いえ、実は、我が家で近々娘の御披露目パーティーがございまして、よろしければ、来ていただけないかと」
確かに、伯爵の元には小さな娘が居るという話だ。しかし、目的はきっとそれではない。伯爵には、私と近い年頃の息子もおり、恐らくは、彼と引き合わせようという魂胆なのだろう。
そう、私の力を恐れた貴族達は、私に媚びて、取り入って、あわよくば利用しようと躍起になっているのだ。
「そういった判断は、陛下に任せておりますので、そちらにお願いします」
「し、しかし」
なおも食い下がる伯爵。しかし、そんなことに構ってやるつもりは毛頭ない。
「それでは、失礼します」
私が見たいのは、これではないのだ。と、いうより、私もあまり見たいものではないのだが、確認しなければならないことがあるため、それを見るために歩いているのだった。
「さて、と。このくらいで良さそうですね」
しばらく竜珠殿を歩き回った私は、人気がなくなったその場所で足を止める。
「部屋にお戻りになりますか?」
青ざめた顔から復活した護衛の一人に尋ねられて、私は首を横に振る。
「この後の護衛は必要ありません。私は、少し確認したいことがあるので、外しますね」
そう言うや否や、私は気配を消す。
「シェイラ様?」
「あなた達は別の任務に就けば良いですよ」
特殊な歩法で歩けば、護衛である彼らは、容易く私の姿を見失う。
目指すは、とある集会所。私の目的は、そこで行われることを止めることにある。
(頭が痛いですね……何が、『シェイラ様を見守り隊』ですか……)
残念ながら、その存在を知ったのは今日のことで、情報がほとんどない。誰が会員なのかも不明な状態だ。
(害はない、と思いたいですが……とにかくやめさせなければ)
いつの間にかできたファンクラブで勝手に讃えられるのは嫌だ。そう思いながら、会場となっている庭の奥まで来た瞬間、私は、後悔するのだった。
「シェイラ様が可愛いかーっ!」
「おぉぉぉおっ!」
「シェイラ様のモジモジ具合を見たいかーっ!」
「おぉぉぉぉぉおっ!!」
「ならばよし! では、本日のゲスト、ベラさんに話を伺いましょうっ!」
(何してるんですかっ! ベラ! それに、ギースっ!!)
案外身近な裏切り者が居たことにショックを受けながら、私は集まっている面々に覚えがあることに気づく。
(……全員、影? いえ、どこかの貴族も居ますね)
これは、一人では手に負えない。そう判断した私は、戦略的撤退を選ぼうとして……。
「シェイラお嬢様を最もお慕いしているのは私だ!」
「そんなわけないです! 私こそが、シェイラ様を最もお慕いしてますっ!」
いつの間にか、ベラのトークへセルグが乱入するという事態に頭を抱える。
(……害は、ない、ですね。……もう、見なかったことにしましょう)
これを止める手段など知らない。そのため、私は何もかもを見なかったことにして、スゴスゴと部屋へ引き返すのだった。
シェイラちゃん、愛されてるぅっ!
ちなみに、これ、きっとどんどんメンバーが増えていきますよ。
次回は、ちゃんと真面目です。
それでは、また!




