第六十三話 ルティアスの実家
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さてさて、今回からシェイラちゃんとアルムは離れ離れですよ~。
それでは、どうぞ!
ルティアスの実家があるヴァイラン魔国までは、お姉様の転移によって一瞬だった。普段ならば、さすがはお姉様、とでも思うところなのだが、今は、アルムと離れてしまったことでわりと落ち込んでしまい、それどころではない。
「さぁ、シェイラ。案内しますわ」
私に微笑みかけてくれるお姉様は、少し前までの恐ろしい雰囲気が完全に消えてしまっている。目の前に居るお姉様は、ただただ、私に優しい大好きなお姉様だ。
「はい、お願いします」
ルティアスの実家だという変わったお屋敷に案内され、靴を脱いで上がり込む。畳と呼ばれる、不思議な香りを発する植物の地面を歩き、座布団と呼ばれる四角く厚みのある綿を入れた布の上に座れば、緑色の液体が入ったカップらしきものを出された。
「それは、この国のお茶ですわ。気分が落ち着きますわよ」
「そう、なのですね」
普段、私が使うのはティーカップばかりで、こういったお茶はどう飲むのが正解なのか良く分からない。そっとお姉様を窺い見れば、お姉様はそのカップの側面に片手を添え、もう片方の手はカップの底へと当てて、ゴクリと飲むのが見える。
(なるほど、ああやって飲むものなのですね)
私も真似をしようとしてみれば、カップの側面はわりと熱い。そのため、少し上を持って、お姉様を真似して飲んでみると……確かに、ホッとする味だと感心する。
「さて、シェイラをここに呼んだのには、いくつか理由がありますわ」
お茶菓子として出された『かりんとう』なるものを、これもまた、お姉様を真似して食べていると、お姉様は真剣な表情で私を見つめていた。
「アルムに話したもの、以外でですか?」
恐らくは、そうなのだろうと思いながら問えば、お姉様は重々しくうなずく。
「えぇ、正直、あのままドラグニル竜国にシェイラを置いておけない理由は、誘拐されたからなんてものではありませんわ。それなら、わたくしがアルムを鍛え上げて守らせればすむだけの話ですもの」
何か、妙な副音声が聞こえたような気はしたものの、お姉様に限ってそんなことはないだろうと思い直し、お姉様としっかり向き合う。
「ここにシェイラを置く目的は、悪魔の目を掻い潜るため、そして、シェイラにかけられた魔法を解くためでもありますわ」
そういえば、元々、お姉様は私にかけられたであろう魔法を解くために、ドラグニル竜国へ来てくれたのだと思い出し、もう解けたものだと思っていた、あの正気を奪う魔法がまだかかっているのだと知って、戦慄する。
「軽く見たところでは、恐らく、この魔法はわたくしの手には負えませんわ。ですから、強力な助っ人を呼ぼうと思っていますの」
お姉様でも手に負えないなどという言葉に、私はさすがにショックを受ける。しかし、私を安心させるように微笑んだお姉様の姿に、ひとまずは心を落ち着けることに成功する。
「その助っ人は、もしかしてこの国の方なのですか?」
「えぇ、ただ、一人はちょっと身分の高い方で、気軽に協力を頼むことはできないのですが……まぁ、何とかなりますわ」
そう言ったお姉様は、私がかりんとうを気に入ったのを見抜いていたのか、残りのかりんとうを私にくださり、ニコニコと笑う。
「よ、よろしくお願いします」
きっと、問題が解決するまでは、アルムの元には戻れない。それを察して、私はいつの間にか、頑張ろうという気構えになっていた。
シェイラちゃんにかけられた魔法を解く協力者とはいったい……?
いや、他の作品読んでいたら予想できますけどね?
それでは、また!




