第五十五話 秘密の箱(リリス視点)
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今回は、絶対者こと、リリスちゃん視点ですよ~。
それでは、どうぞ!
シェイラが一度拐われたことは知っていた。それは、本人からも、アルムからも聞いていたことで、解決済みの出来事として、教えてもらっていた。しかし、シェイラが拐われてしまった事実に変わりはなく、本当なら、今日は、シェイラに新たな魔法具を渡して、常にシェイラの位置を私から確認できるようにしようと思っていたのに……。
「シェイラ……」
「リリス、あまり思い詰めたらダメだよ」
シェイラの魔力を辿れなかった。シェイラの居場所が分からなかった。その事実に打ちのめされていると、ルティアスがそっと寄り添ってくれる。
「シェイラさんは、強い人だ。何たって、リリスの妹なんだから。だから、リリスは落ち着いてことに当たらなきゃね」
それは、気休めだと分かっている。しかしそれでも、何も言われないよりは、落ち着きを取り戻すという観点ではありがたい言葉だった。
「そう、ですわね。わたくしが惑っていては、助けられるものも助けられませんわ」
本当は、ルティアスとの結婚式の報告をしようとも思っていたのだが、完全にそれどころではない。シェイラを助けるためには、知恵を絞らなければならない。
「アルムは……隠密に話を聞いているのでしたか?」
「うん、色々と調べてはいたみたいだからね。少しでも情報があれば良いけど……」
外は、すでに日が落ちて、暗闇に閉ざされている。今、シェイラがどうしているのか心配で堪らないが、もし、犯人の目的がアルムであるのならば、何かしらの要求が届く可能性もある。そのため、アルムは今、ここから動くことはできない。
「……ルティ、もう一度、シェイラの部屋に行きたいですわ」
「うん? なら、さっきの侍女を呼んでくるよ。少し待ってて」
シェイラの無事を祈ることしかできないなんて、そんなのは嫌だった。何がなんでも、シェイラを助けたい。そのためならば、悪魔だろうが何だろうが討ち滅ぼしてみせる。
ルティアスがベラという名の侍女と……真っ青な顔のセルグを連れてくる。
「っ、セルグ!?」
「っ!? リリスお嬢様!?」
まさか、セルグがここに居るとは思わず、わたくしは勢い良く立ち上がる。
「? リリス? この男と知り合いなの?」
「え、えぇ、わたくしがレイリン王国に居た頃、執事として仕えてくれていた者ですわ」
「申し訳ありませんっ。私がついていながら、シェイラお嬢様をお守りできませんでしたっ」
ガバリッと土下座してきたセルグに、わたくしは慌てて立ち上がるように告げる。そして、詳しく聞けば、セルグはシェイラが拐われる時、その場に一緒に居たらしい。そして、シェイラが拐われ、昏倒させられたセルグは、つい先ほど目覚めたばかりだとのことだ。
「……セルグなら、シェイラの『秘密の箱』がどこにあるか分かるのではなくて?」
セルグに会ったことで、わたくしは、一つだけ、シェイラの習性を思い出す。
「えぇ、それは、確かに心当たりはございますが……開けるのですか?」
「今は緊急時ですわ。何か手がかりがあるかもしれませんもの」
シェイラは、集めた情報の中でも個人的に気に入ったものを、小箱に隠す習性がある。昔、それを知ったわたくしは、シェイラの目を盗んでそれを開けてみたことがあるのだが……そこにあったのは、わたくしへの誕生日プレゼント案の数々で、そっと閉じたのは良い思い出……なのだろうか?
そんな出来事を知っているセルグは心配そうな表情になったものの、今は、藁にもすがる気持ちなのだ。シェイラにとっては、かなりのプライバシーの侵害になるとは思えるものの、もしかしたら、何か大切な情報が隠れているかもしれない。叱られるのは覚悟の上で、それでも開けることを決めたわたくしは、疑問符を浮かべるルティアスとベラを連れて、シェイラの部屋へと向かうのだった。
次回、シェイラちゃんのプライバシーがとっても侵害されることに!?
それでは、また!




