第五十話 問題発生(アルム視点)
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今回は、アルムがようやく異常を知ることに……?
それでは、どうぞ!
「私、シェイラお嬢様にかの国でお仕えしておりました、セルグと申します。シェイラお嬢様のことでお話したいことがあり参りました」
その言葉で、そういえば、最近人間の男が使用人として入ってきたのだったと思い出す。
「入れ」
入室を許可すれば、ビシッと執事服を着こなした男が入ってくる。その表情はにこやかなものではあったが……なぜか、目は笑っていない。
「シェイラの話とは?」
セルグは、シェイラに心酔していると聞く。そんな男が訪ねて来たことには、きっと意味がある。そう思って尋ねれば、セルグはニコニコしながら答える。
「えぇ、戻ってきてからのシェイラお嬢様の様子があまりにもおかしいので、原因を探ろうと思いまして」
「シェイラの様子が?」
ボクが会った時には、そんな様子は見受けられなかった。しかし、セルグにはそう見えたという。
釈然としないものを感じながら問いかければ、セルグはじっと感情を宿さない瞳でこちらを覗いてくる。
「……ふむ、陛下が原因ではないのですね? では、いったい何が……」
どうやら、ボクはこの使用人に疑いをかけられていたらしい。
(そういえば、この男、『シェイラお嬢様以外に仕える気はないっ』と断言して入ってきたのだったか……)
まさか、シェイラに仕えているとはいえ、竜王であるボクを疑ってかかるとは思ってもみなかった。そんなセルグの行いに、咎めるべきところではあるのだろうが、逆に感心してしまう。
「それで、シェイラの何がおかしい?」
ただ、今はシェイラだ。シェイラに何かあったというのであれば、そして、それが好ましくない事態であるならば、何としてでも解決してみせねばなるまい。
「単刀直入に申しますと、失恋したはずなのにその事実を忘れているように見受けられるのです」
「し、失恋!?」
いったい、どこのどいつに心を寄せていたのだとか、そんな素振りは全くなかったぞとか、様々な思いが巡る中、セルグは大きくうなずく。
「さようです。あぁ、もちろん、お相手に関する情報は控えさせていただきます。シェイラお嬢様をしっかり見ていたのであれば、一目瞭然ですしね」
「一目、瞭然……」
そんなに分かりやすい反応をしているシェイラなど、見た覚えがない。竜人の女性ならば、感情が高まると人化が解けたり、瞳孔が開いたり、力加減がおかしくなって、ものを壊したりするものだが、シェイラにはどれも当てはまらない。となると、ボクが知らないところで、シェイラは誰かに想いを寄せていたということになり……胸の中には、何とも言えないどす黒い感情が渦巻く。
「まぁ、その話は良いのです。問題は、シェイラお嬢様がその事実を忘れてしまっているということです。何か、心当たりはございませんか?」
「いや、ない」
心当たりと聞かれても、ボクは答えられない。そもそも、そういうのはシェイラの失恋した相手が一番に疑われるもののような気もするが……この男なら、すでにその人物に接触していてもおかしくはなかった。
「失恋相手には確かめたのか?」
「はい、もちろんです」
真っ直ぐこちらを見つめるセルグに、ボクは何となく居心地が悪くなる。
(いや、それよりも……)
「シェイラの記憶を奪った者が、どこかに居るということだな?」
「さようです」
これは、ギースへの仕事が増えそうだと思いながら、ボクは深くうなずく。
「ボクの方でも早急に調べよう。何か分かって、話すのに問題がなければ、お前にも情報がいくようにしておく」
「はい。ありがとうございます」
誰が、何の目的でシェイラから記憶を奪ったのかは分からない。だから……。
「まずは、ドライムからあたることにするか」
真っ先に恋敵へと目を移してしまったのは、仕方ないことだった。
さぁさぁ、調査の矛先がドライムへ向かいましたっ!
進展、なるか!?
それでは、また!




