第三十六話 絶対者の魔法具(アルム視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回と次回くらいで、シェイラちゃん救出の裏側を書いていきたいと思います。
それでは、どうぞ!
シェイラが連れ去られ、それにギースがついていったのを確認したボクは、すぐに精鋭部隊を選りすぐり、捜索に向かわせる。
(シェイラ、どうか、無事で……)
『絶対者』から教わったシェイラの魔法具についての情報を頭の中で思い描きながら、ボクは、それを使う瞬間が来ないことを祈る。
(発動条件は、ボクがシェイラの魔法具へ魔力を送り込み、シェイラが危機感を抱いた瞬間。魔力の方は、事前にいつでも送れるようにしてあったから、転移する前に送っている。問題は……シェイラが危機感を抱く状況だ)
『絶対者』は、この魔法具を使うことはないと思うと言いながら、念のためにとシェイラに渡していた。シェイラは、それはただ転移場所を登録して転移できるようにする魔法具、くらいにしか思っていないようだったが、機能はそれだけではない。ボクがそれに魔力を送り込めば、シェイラが危機感を抱いた瞬間、ボクがそこに転移させられる魔法具でもあるのだ。
ただ、欠点として、これはシェイラに意識がない場合、発動条件を満たしてくれない。シェイラが眠っている間に暴行を受ければ、シェイラは簡単に傷ついてしまう。
(早く、見つけなければっ)
できることなら、魔法具に頼ることなく見つけ出して、シェイラを確保したいところだ。誰が、何の目的でシェイラを拐ったのかは不明だが、寵妃に手を出して無事ですむなんてことはあり得ない。いや、シェイラが、ボクにとって客人のままであれば、その可能性がないわけではなかったものの、今となっては、そんな甘いことを許せはしない。
ギースからの報告は、きっと少し時間がかかる。ギースは、シェイラから離れることなく、情報をこちらへ送ろうとするはずなので、それまでは普通に捜索するよりほかない。むしろ、そうすることで、敵の意識を外に逸らす効果があるため、積極的に捜索すべきだろう。
(警備を潜り抜けて使用人に扮した女……内部調査も同時に行うことになるな)
そちらへも指示を出しながら、ボクは落ち着かない心を必死になだめて、平静を装って的確に指示を出していく。
「シェイラ……」
寵妃という、何者にも害されないはずの立場に置いたというのにこの失態。それは到底、許せるものではない。しかし、それだけ安全な立場に置いたにもかかわらず、こんな事件が起こったということは、シェイラ自身にも自衛手段を学んでもらう必要が出てきたということでもある。
(優しく、慈しむだけではダメなのか……)
シェイラには、厳しく残酷な世界など見せたくない。優しく、真綿で包むようにして、守っていたい。
それをするだけの力があると思っていたものの、今ではその自信も揺らいでいる。絶対的な立場である寵妃が狙われるなど、考えもしなかったのだ。
報告を待つだけの時間は、地獄のようだった。まだかまだかと思いながら、自責の念にも駆られる。そうして、眉間にしっかりとシワを刻み込んだところで……魔法具が発動した。
リリスちゃんのおかげで、シェイラちゃんは助かったみたいですねぇ。
さぁ、次回は、シェイラの前に転移したアルムの様子をばっ。
それでは、また!




