第三十一話 想い(アルム視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、アルム視点で懸命に悩んでもらいますよ~。
それでは、どうぞ!
シェイラが、ボクの挙動不審の原因を調べ始めたことは、ベラからすぐに聞かされた。そして、ボクはすぐさま、ボクの気持ちを知っているベラとギースに口止めを行う。シェイラの調査の弱点は、記録に残っていたり、会話がなされていたりした情報以外の入手ができないという点にある。つまりは、ボクとベラ、ギースの三人が何も言わなければ、何も書かなければ、シェイラにボクの気持ちがバレる心配はないというわけだ。
(しかし……よりにもよって、シェイラを好きになるなんて……)
あの『絶対者』の妹で、守るべきか弱い存在であるシェイラ。最初は、確実に庇護対象としてしか見ていなかったはずなのだが、いつの間にか、ボクはシェイラに心を奪われていたらしい。
(言葉遣い……は、変えない方が良いのだったな。後、依頼をするのも褒美を用意するのも違う、と……)
シェイラを好きになってしまったことへの戸惑いがある中、ボクは自然とシェイラへの求愛方法を考えてしまい、頭を抱える。
(待て、待つんだ。ボクがシェイラを本物の寵妃にするわけにはいかない。『絶対者』との約束は、シェイラの幸せが第一だ。シェイラはきっと、本物の寵妃になることも、正妃になることも、望んではいない)
想いを告げることはできない。シェイラのためを考えるなら、ボクみたいな厄介な身分の者ではなく、そこそこ高い身分で、自由があって、優しくて、誠実で、真面目で、頭が良くて、家族に問題もなくて、顔も整っていて、シェイラを大切に、大切にしてくれるような竜人でなければ許されない。
(その相手を、ボクが見定めなければ……)
痛む胸を押さえながら、ボクは、あの違法カジノに関する書類を横に置いて、シェイラのために作った釣書をもう一度確認する。
(……こうしてみると、最初は、ボクも甘かったみたいだ……)
釣書をしっかり確認すれば、微々たるものではあるものの、シェイラに相応しくないと思える要素がチラホラと存在した。
(こいつは、酒を飲むと踊り出す癖がある。そんなの、シェイラは迷惑に決まっているっ。こっちは、家族に引きこもりが一人……優しいシェイラが気に病むような奴の居る家庭なんてダメだっ)
最初は良いと思っていたはずの候補者達は、そんなボクの厳しい目を前に、どんどん数を減らしていく。そして……。
「……居ない、だと?」
しっかりと確認を終えたボクは、手元に一枚も紙が残らなかった事実に呆然とする。
(っ、い、いや。まだだっ。まだ、どこかにシェイラを任せられる奴が居るはずだ。何だったら、国外にまで手を伸ばすのも良いだろうっ)
人間の国は無理でも、魔族の国ならば、もしかしたら、シェイラを溺愛してくれる者が居るかもしれない。基本的に、魔族は優秀な者が多いため、もし、魔族の片翼になれれば、シェイラは幸せになれるに違いないっ。
(たとえ、その魔族に至らない点があろうとも、ボクはシェイラの保護者になっているのだから、いくらでも難癖をつけて、乗り越えさせてみせる)
胸は盛大に痛みを訴えるが、それは必死に無視する。一番は、シェイラの幸せなのだ。シェイラのためならば、何だってやってみせる。
そう考えていたボクは、気づかなかった。今、まさにシェイラへ魔の手が伸びようとしていることを。寵妃という立場上、害されるはずのないシェイラが、害されようとしていることを。
気づくのはいつも、その瞬間を迎えてからなのだから……。
最後、不穏な風味です(笑)
いや、だって、この章の最初に出てきたお嬢様を関わらせなきゃですもんね?
と、いうわけで、シリアスさんが今か今かと待ち構えておりますっ。
それでは、また!




