第二十五話 あっさり(アルム視点)
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今回は、アルム視点でのシェイラちゃん大暴れっ。
それでは、また!
シェイラが姿を消して、すぐにその行方を追わせたが、成果はなかった。恐らくは、『絶対者』辺りに転移用の魔法具辺りでももらっていたのだろう。
人間の国に出せば国宝級のそれは、ドラグニル竜国においてはそこまでではない。と、いうのも、竜人や魔族といった種族は、人間よりも高い魔力を持ち、そうした道具を作れる人材が居ないわけではないのだ。人間が作ったとなれば珍しいが、竜人や魔族が作ったものは、貴族くらいしか買えない値段だとしても、存在はする。
(まぁ、そんな代物を簡単に妹に渡している人物は、『絶対者』くらいのものだろうが……)
普通は、緊急時のための移動手段として、または、大勢が使用する交通の便をはかるためのものとしてしか使われない転移の魔法具。そして、それゆえに、その足跡を辿る手段など、ほぼ存在しない状態だった。
「申し訳ありません。寵妃様は未だ見つかっておりません」
「そうか」
シェイラが、何か危険にさらされていないかと、不安な気持ちは大きい。しかし、彼女の後ろには『絶対者』が居る。万が一の対策を、あの『絶対者』がしていないとは思えない。
「……ひとまずは、作戦の実行を優先する」
そう告げれば、捜索をしていた騎士達が、それで良いのかと戸惑う様子を見せるが、今、ボクにできることはそれしかないのだ。
「シェイラは、ボクの役に立ちたがっていた。だから、違法カジノへの侵入の際、手助けのために現れる可能性は高い」
「そ、そうですか」
竜人である彼らにとって、シェイラはか弱い人間の娘だ。ボクでなくとも、シェイラのその考えには、戸惑う部分が大きかったらしい。
「シェイラは、見つけ次第保護するように」
そう言いながら、ボク達は突き止めた違法カジノへと急行して、包囲を完成させ、侵入を開始させたのだが……。
《報告しますっ。罠が存在した形跡がありましたが、全て、何者かに解除されている様子ですっ!》
伝音魔法と呼ばれる、一方的に相手へと音を伝える魔法によって、ボクに届けられた最初の一報はそれだった。
《報告しますっ。カジノに存在する人数が想定を遥かに上回ります。このままでは逃げられるどころではなく、こちらが全滅する可能性もあります。至急応援を……え? 何? 中で何が……? っ、申し訳ありませんっ。中で何かが起こった模様。確認ができ次第、報告致しますっ》
《報告しますっ! 中では、なぜか罠と思しきものが存在し、会場が混乱しております! 外に脱出するものと思われますので、用意をお願いしますっ》
どうも、こちらの思惑とは別の意思が働いているらしい。そして、その心当たりがあるというのが、何とも言えないところだ。
「……シェイラ、何をしているのだ……」
シェイラは、罠を解除するのも仕掛けるのも得意だと言っていた。と、なると、今回の件は、シェイラの仕業である可能性が高い。
《報告しますっ! 隠し通路を確認しました! そして……その、扉のところに、『こちらの捕縛は任せて、それ以外に集中してください。来るならば、ラインを越えないように』とありましたので、数名に様子を見に行かせました。そちらからも、報告が入ることと存じます》
そんな報告が来た時、ボクは降参すれば良かったのだ。シェイラに、大声で謝罪でも何でもすれば良かった。そうすれば、あんなことにはならなかったはずなのだ……。
《ほ、報告、しますっ。隠し通路に進んだ結果、この道の先に向かった者は、悲惨な罠にかかっていることが確認されました。……亀甲縛りされている男女が多数と、ヌルヌルとした沼で身動きが取れず泣き叫ぶ者、微弱な電流が流れる場所に固定されて、痙攣を続ける者など……この通路には、えげつない罠が多数仕掛けられている模様です》
その伝音魔法の主は、何を思ったか、伝映魔法までも使用して、ボクにその光景を見せてくれる。
(……もしかして、シェイラ、相当怒ってる?)
あまりにもえげつないそれらの様子に、ボクはさすがに頬を引きつらせる。
今、また新たに映された映像には、落とし穴の中で、蛇の大群に群がられて悲鳴を上げている竜人の男の姿があった。
《報告します。包囲網を抜けようとやってきた者達の捕縛は完了しました。残るは、カジノ内部と隠し通路の先となっております》
未だに、えげつない罠の映像が映されたままの中、ボクはとても安心できる情報をもらい、ホッと息を吐く。
「包囲を狭めつつ、前進、だな」
その言葉を、伝令係に告げれば、即座に走り出して、彼ら彼女らの居る場所へと向かう。作戦中、いきなり声が聞こえて敵に居場所がバレるなんて事態を避けるために、魔法に頼らない伝令係は重宝する。
「行け」
「はっ」
そうして、ボク達は、出来過ぎた大捕物を終えるのだった。
シェイラちゃん、あなたいったい……。
あぁ、罠のオンパレード一覧。
どんな罠が良いか、考えるのも楽しかったですよ。
それでは、また!




