第二十二話 不穏な取引(アルム視点)
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さてさて、だんだん不穏の色が濃くなってきた今日この頃。
それでは、どうぞ!
シェイラは、蜘蛛を操っている間は無防備になる。だから、ボク達はそんなシェイラを守り、支えるために、じっとシェイラが集中を切らす瞬間を待つ。
「……ひとまず、分かったことを報告しますね?」
二時間ほど、じっと探り続けたシェイラは、ゆっくりと目を開けると、少し疲れた表情で笑いかけてくる。
「少し休むか?」
「いえ、このままで大丈夫です」
微動だにせず、じっと椅子に座り続けたシェイラを気遣うものの、シェイラは首を横に振る。そして……。
「領主が向かった場所は、隣町のようです。そこには、カジノがあり、彼はそこで散財しているとか」
「カジノ……」
カジノとは、数年前、レイリン王国のとある領地に作られた大規模な賭博場のことだ。確か、それは……。
「シャルティー公爵家……」
「えぇ、カジノ発祥の地は、確かに我が公爵家の領地です。お姉様が考案したんですよ?」
『絶対者』が考案したカジノは、とても流行った。それは、数年で他国である我がドラグニル竜国にも伝わるほどの勢いで、今では、いくらかの領地にカジノが存在している。しかし、このナット領にカジノがあるという話は聞いたことがない。
「違法カジノ……」
「その通りです。ギース」
カジノを運営するにあたっては、様々な審査を潜り抜けなければならない。しかも、年に数回は監査が入ることとなっている。これは、五年前、『絶対者』に出会ってから取り入れた仕組みで、そのおかげでカジノが犯罪の温床になることを防げるようになった。
ただ、どこにでも法を犯す者は存在するもので、それらの審査を潜り抜けていない違法カジノは、いくらか存在が確認されている。確認され次第、その場所には監視がつき、犯罪者を泳がせながら、大物を釣り上げようとすることも多い。潰したカジノは、二十以上はあるだろう。
「領主は、カジノの運営には関与していない様子ですが、どうも、素性の知れない男達と通じているらしいことは分かりました。ヒムシュとかいう単語が良く出てきたのですが……これが何か、分かりますか?」
「ヒムシュ、か……厄介だな」
「早急に、騎士を呼び寄せるべき」
ヒムシュといえば、禁薬の一種だ。それを使えば、たちまち酩酊状態となり、理性の枷が外れてしまう。欲望のままに行動し、様々な犯罪を助長する恐ろしい薬だ。しかし、中毒性があり、一度使用すれば簡単には抜け出せない。
その説明をすれば、シェイラは眉間にシワを寄せる。
「どうやら、そのヒムシュは、今日、取引されるようです。引き換えとなるのは、この領地そのもの。領主は、すでに妻と娘を売り払った後のようです」
「なに?」
「……陛下、ご命令を」
ヒムシュの取引は厳罰の対象だ。そして、王から任命された領地を売り払うという行為は、王への反逆ともなる。領主がどんな思惑でこのようなことに手を出したのかは不明だが、どうあっても、極刑は免れないであろう事態だ。
シェイラも、予想外に重い事態だと自覚していたのだろう、その顔は、とても険しいものだ。
「領主は必ず、その取引前に確保する。シェイラは、取引時間と場所の特定を、ギースは……調度品の方を調べさせた方が良いか?」
「えぇ、それでお願いします。手がかりくらいは掴みましたので、後を頼むことになりますね」
近衛騎士の一人には、竜珠殿へと向かってもらい、応援の騎士を頼む。
(宰相にも連絡を入れなければな)
まだ、情報が万全とは言いがたいものの、領地が売られるなどという事態は避けなければならない。そんなことになれば、罪がないかもしれない、売られた妻や娘すらも罰しなければならなくなる。
「早急に、行動を開始しろ」
「はっ」
「分かりました」
シェイラに負担をかけてしまうことを、心苦しく思いながら、ボクは、ボクにしかできないことをするために、動き出すのだった。
さぁ、もうすぐ大捕物っ。
シェイラちゃん、頑張れっ。
それでは、また!




