第二十一話 居ない者
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、きな臭くなってくるかも?
それでは、どうぞ!
様々な光景や音が頭の中に流れ込んでくる。それらは全て、この館の中での光景と音。
少しばかり多い情報に頭痛を感じながらも、私はそれらの一つ一つをしっかりと受け止めて……気づく。
(領主、不在?)
聞こえてくる声達は、領主が居ないのに私達が来てどうしたものかと惑う声ばかりだった。それならそれで、誰か代行ができそうな家族でも向かわせれば良さそうなものだが、それも、今は居ないらしい。執事長と呼ばれた男の竜人が頭を抱えている様子が見受けられる。
「……アルム。どうやら、私達は歓迎されていないようです。この度は、お暇することにしませんか?」
少し、話をする時間を取りたい。そんな意味を込めて視線を投げかければ、アルムは少し迷った素振りを見せて、うなずく。
「あぁ、確かに先触れもなかったしな。改めて出直すこととしよう」
先触れがなくとも、領主館においては、どんな者が来ても対応できるよう、誰かが残っているものらしい。例え、誰も居なかったとしても、誰かに代行を頼むことくらいはできる。それができなかったということは、よほどの緊急事態か、職務怠慢か……。
(後者、ですね)
使用人達の動向から、私は職務怠慢だと結論づける。引き続き、蜘蛛達には監視と盗聴をしてもらうことにして、私達は一度、ナット領の宿屋に入ることとする。貴族御用達の宿は、とても落ち着いた造りの建物で、旅館というらしい。温泉という体に良いお湯の中に浸かって、身を清めることもできるらしく、時間があれば、ベラと一緒に入りたいと思っていた。
しかし、今は、情報の確認作業だ。
宿屋の一室に案内された私達は、アルムが防音の結界を張ったのを確認して話し始める。
「まずは、私から話させていただきます」
そうして、私は使用人達の慌てぶりと、領主が不在であること、代わりに対応できる者も存在しないことなどを話していく。
「どうも、領主はどこかへ遊びに出掛けていらっしゃるようで、執事長と呼ばれていた方は頭を抱えていましたね」
まだ、どこへ出掛けているのかまでは分からないものの、それもしばらくすれば判明するだろう。
そこまで話終えると、私は次に、ギースへと視線を移す。
「俺からも、分かったことを話す。まずは、あの金細工からは、微かに闇の魔力が感じられた」
「あぁ、それは確かに」
「闇の魔力、ですか?」
残念ながら、私は魔法に精通しているとは言いがたい。いや、鍵を勝手に開けたり、罠を解除したり、護衛やら門番やら監視官やらの目を眩ませたりすることは得意ではあるのだが、魔法の分析などはあまり得意ではない。
「恐らくは、相手の精神を乱す類いの魔法」
「つまりは、領主はそれで乱心した、とでも?」
そう問いかければ、『そこまでは分からない』と返ってくる。どうやら、魔法そのものはあまり強いものではないらしい。ただ、長時間それらに触れていると、少しずつ、精神的に不安定になるだろう程度のものなのだと、ギースは説明する。
「あれらの品を、領主に渡した人物の特定もしなくてはならないか……」
「アルム。元々、この地の領主はどのような人物だったのですか?」
眉間にシワを寄せるアルムへと問いかけると、アルムは一つうなずく。
「彼は、小心者な弱小貴族、という印象が強いな。妻が一人と、娘が一人居たはずだが、そちらの噂はほとんど聞かない。娘の年齢は、十二、だったか……」
そんな言葉に、あの金ぴかの調度品達の姿がよみがえり、聞いている話の領主像との差が大きいなと感じる。
「……とりあえず、しばらくは情報収集に尽力します。ギースは、適宜指示を出しますので、それに従ってください」
「あぁ」
「分かった」
今は、とにもかくにも情報だ。私は、もう一度蜘蛛達に意識を集中させ、目を閉じるのだった。
さぁ、領主にいったい何が起こっているのやら?
それでは、また!




