先輩。
放課後になると同じサッカー部の人が誘ってくれたが、僕は用事があったので断った。少しからかわれたがなんの問題もなく僕は生徒相談室のドアをノックできた。
「待ってたわよ。」
少し高圧的な印象で話しかけて来たのは、いつもはふんわりしているあの間宮先輩だった。
自分の中の間宮先輩と目の前の人がなかなか一致しない。いつもは感じさせないつり目がその態度と話し方で強調されて見える。
「あっ、はじめまして。僕、相馬 湊と言います。」
「知ってるわよ。あんたのこと探したのは私なんだからね。」
「あのっ……、なんで僕なんですか?」
「なんでって……。私が聞きたいわよ。もうすぐ先生が来ると思うから聞けば?」
「あ……、ありがとうございます、間宮先輩。」
「ふーん、私のこと知ってるんだ。まあ当たり前だよね。」
先輩の話し方は、いつも見ている大人しくて優しそうな間宮先輩なんかではない。肩のあたりで巻かれた髪の毛に赤いリボンのカチューシャ、身につけてる物も、顔も全てが間宮先輩なのに中身だけがまるで別人のようだ。いや、もしかしたら本当に別人なのかもしれない。平和主義を掲げる僕だが、どうしてもそれが引っかかってしまい、遂に怒らせるだろうと簡単に予想できる質問をぶつけようとした。
「間宮先輩って……」
「おう、二人とも待たせたな。相馬の件だが。」
もしかして双子の姉か妹いますか?と聞こうとした瞬間、まるで狙ったかのように先生が入ってきた。
そして、僕の疑問は一瞬で解決することになる。
「先生〜〜、はやく姫に会わせてくださいよ〜」
間宮先輩は、いつもの雰囲気になっていたのだ。
こんな状況、バカでも瞬時に理解できる。
多分彼女は、通常の女子の三倍…いや五倍近く表裏が激しい猫被りなのだろう。
僕がクラスによくいる空気読めない男子だったらこのタイミングで猫を被っていることについて、からかったりしたのだろうけど生憎僕は空気を読めるのでこの状況でも何も言わなかった。今のは自慢も皮肉も含んでいる。
間宮先輩も僕がなんも言わないのを見て、安心したかのように先生との会話を続ける。
そしてチラッと僕に何も言うなよ”という威圧たっぷりの目線を送ってきた。
僕は間宮先輩へ意識が向いてしまっていたので、先生が何を話しているか全くもって聞いていなかったし聞く気もなかった。
しばらくして、先生が
「じゃあ眠り姫を呼んでくるぞ」
と言うので、そこで僕ははっとし、自分が先生に対して聞かなくてはいけない質問を思い出した。
「先生、何故僕が眠り姫の側にいることを許されたのでしょうか?普通なら政府が、彼女の安全のために止めるはずですよね?」
「あぁ、えーと、それはだなぁ。うーん困ったなあ。先生も眠り姫からの要望ということしか知らないぞ。まあ、いま呼んでくるから直接聞いてみるといい。」
まるでたらい回しだ。誰も眠り姫の考えてることがわからないというところか。眠り姫の要望とか言われるが特に僕は何もしていない。
あ、いや……一つだけ……。
もし花壇のところで出会った彼女が眠り姫であれば、もしかしたらそれも理由の一つかもしれない。本当に眠り姫だとしたらだが。
そんなことを考えてるうちに先生は既に彼女を迎えにいったのだろう。この部屋から消えていた。