僕の日常と生き方
次の日の朝は晴れて、とても気持ちが良かった。
いつもどおりバスに乗って、バス停から学校まで歩く。途中、何人かに声をかけられるのでその人たちと学校へ向かう。
「さぼっちまうかー」
「なにいってんだ、宿題は?」
「えっ俺やってねぇ」
すっとぼけたふりをして慌てると周りからばかだなあっという笑いが生まれる。
学校に着くと、同じサッカー部の元川裕太が教室の入り口でガムを噛みながら待っていた。
「おはよゴン太。」
「だーーーかーーら。俺には裕太っていう爽やかな名前があるんだよ!」
「筋骨隆々な脳筋が裕太って似合わねーよ」
「なんだと!今日こそは一発食らわせてやる!」
やってみろ、と舌を出して自分の席に荷物を置く。
本当にゴン太がこう呼ばれることをいやがっているならもちろん裕太とよぶが、彼は彼なりに喜んでいて、それを僕とのコミュニケーションだと思っている。だから僕もそれに応える。
それだけのことだが、僕は高校に入るまでそれを見抜く自分の力に自信がなかった。
もしかしたら嫌がっているのに気づかなかったらなどと考えて、そうしたら自分はいじめられてしまうかもしれない、それは嫌だという結論に至った。
そうすると自分は誰かのことをからかったりするのは向いてないと感じた。
薄々感づいてはいると思うが、僕は平和主義だ。
余計なことに首突っ込んだり、揉め事になったりするのは嫌なのだ。だから小中学校は誰かの陰に隠れて人の表情や仕草を見てその人が嫌がっているかなどと判断した。
最初は何度も判断を間違えて、その度に自分じゃなくてよかったなどと思ったが中学校二年生くらいになったら間違えることも減り、むしろ仲裁に入ったくらいだ。
高校で自分がクラスの中心になるようになったのは、同じ中学の人たちがいないから。
でないと、高校デビューなどと言われてしまい、それだけで好奇の視線を浴びせられる。それは平和じゃ無い。
元々、この立ち位置ですよと思わせるような仕草と、自分が怒りの対象にならないように立ち回り、今の自分がいる。
だから、自分は人気なんだという証拠をいつも求めていたのかもしれない。
「みなっちゃん!!!」
僕のことをそう呼んで一人の少女が話しかけてきた。
クラスでは、大人しくて誰かと一緒に笑っているだけだけど何かと男子に絡んでくる。
女子の間では、隠れビッチとか言われているんだろうなという感じの女子だ。これは推測だけど。
「もう今更なんだけどさ、みなっちゃんって女子みたいじゃん。もう少しましなあだ名なかった?」
「あははっ、もう無理じゃ無いかな?男女関係なくそう呼んじゃってるもん!」
「くそー、今だけならゴン太の気持ちがわかる!
あ、それでなんか用事?」
「あ、うん!さっき先生が探してたよ!二年生の先生だったけど、上級生に喧嘩でも売った?」
「え、俺何もしてねえよ?」
「みなっちゃんのことだから無意識になんかしちゃったんだよ。」
そんなことあるかな、と笑い飛ばしたが実際、本当に自分がなぜ呼ばれたのか予想もできない。
平和主義な僕が、喧嘩なんてありえないのだから。
「おいみなっちゃん!!また間宮先輩が話をしてるぞ!聞きに行くぞ!!!!」
「えっ!?またっ!?最近多くない?」
「なんでも、一年生に眠り姫の事を知ってもらいたいそうだ」
「へぇーそうなんだ。てかゴン太詳しくない?」
「俺は眠り姫よりも間宮先輩の方が気になってるからな!」
さっきの女子が僕とゴン太についてきているのは知っていたが、僕はそれを知らないふりをした。
あいにくだが、僕は女子に興味はないのだ。
いや、決して男の子が好きというわけではない。
恋愛感情で僕の判断が鈍って誰かを怒らせたりしたくないからだ。また、誰かを好きになりたいなんて思ったことがない。それだけのことなのだ。
「なあ、みなっちゃん。眠り姫ってどんな顔だと思う?美少女かな?」
「さあ?あくまで予想だけど、多分ブスではないんじゃないかな?」
「俺のイメージはな、髪の毛が長くて背が小さくて華奢で、綺麗な目をしてると思うんだ!」
「そうかな。俺は、顎の下で切りそろえたボブカットでアーモンドの形の目をしていてやっぱり華奢な人だと思う。」
そう言った後、自分は無意識に花壇で見かけた一人の少女の特徴を言ってることに気づいて少し恥ずかしくなった。
「おい!間宮先輩が近いぞ!!」
間宮先輩と呼ばれる女子生徒は、唯一眠り姫と会って話をする友達的存在な人だ。
どうやってその位置を獲得したのかは知らないが、入学してすぐに知り合ったらしい。
一個上の二学年の人たちのことは、関わりがない分、謎が多い。
間宮先輩は、空いた時間などに眠り姫の事を話し、みんなに知ってもらおうとしている。
また、周りの生徒も、日本政府が認める天才の眠り姫について興味津々であるためにいつも間宮先輩の周りには人がいる。
そんな間宮先輩は、動物が好きそうで虫一匹殺せなさそうな優しく大人しい雰囲気の人だ。
正直、顔だけで言えばクラスで5、6番目くらいだが雰囲気や性格を合わせたら1番か2番目くらいにモテそうであると思う。
そんな先輩が、眠り姫の話をしている時にちらりとこちらを見た。視線を流すように自然に、僕の姿を確認するかのように。
そして、先輩はその唇を動かして
「先生。彼いますよ。」
近くにいた二学年の先生にそう告げるとまたいつものように笑った。
あの視線に気づいたのは僕だけなのだろうか。
彼女が発したその言葉に先生は動き、みんなは何のことか分からないという表情を浮かべる。
それを感じ取ったのか先輩は、
「何でもないよ〜、ちょっと探してた人がいたの」
と言い、やっぱり僕の方をさらりと見た。
その行動の意味は僕には分からなかった。
「おい相馬!お前が二学年の生徒に喧嘩を売った話について生徒指導室で話を聞かせてもらうぞ!」
ついでに、この男性の先生が、僕を冤罪で指導室に連れてこうとする意味も。
「湊なにやったんだよ……」
珍しくゴン太が下の名前で呼んでくれてるのを背中で受けながら、僕は先生の後についていった。
分けてサブタイトルまで付けてしまいましたが、前回と普通に続いてると思って読んでください!
頭痛と胃痛で更新が遅れるかもしれません!