短編
出された三つのお題に沿って30分で書いた短編
お題:冬、テレビ、睡眠
夢を見ていた。そう、これはきっと夢だ。僕はついさっきまで寝転んでいたはずなのだからこれはきっと夢なのだろう。
どんな夢なのかは、朧げにしか判断できなくてよくわからなかった。けれど、なんだかとても大切なことであるかのように思える。
どうしてそう思うのかはわからない。だけど僕は、これを忘れてはいけないと思ったんだ。
夢……なのだけれど、なんだか不思議な感覚だった。いや、夢なのだから感覚というのはおかしな表現なのかもしれない。水の中を浮くように漂っているような、あるいは沈めるように縛られているような、そんな不思議な感じ。
寒くて、凍えそうで、真冬の海に閉じ込められているようで。何が何だか分からなくて、でも動くことはできなくて。
確かなことは、僕は夢を見ているとこの時自覚していることだろう。
ならば、これは明晰夢というやつなのだろうか。今まで話には聞いていたけど実際に見たことはなかったけれど、今の僕はどうやらそれを見ているようだ。
明晰夢。夢を夢だと夢の中にいながら判断できる夢。
半覚醒状態……眠りが浅くなっている時に見ることが出来ると聞いていたのだけれど、けれどとてもそうには思えなかった。
明晰夢とは本来、夢を夢として自覚しながら夢を見ているから、夢を自分の意思である程度操ることが出来るらしい。
でも今の僕は指一本動かすこともできないし、どれだけ念じても周囲は何も変わる様子はなかった。
そもそも、今の僕には体があるのかすら疑わしいのだ。波間に漂う風は自分に五体があるということを自覚できるだろうか? いいや、できないだろう。例えるなら、そういうこと。だから、指を動かすこともできないのだろうか。指が、無いのだから。
今の僕は凍えながら、夢という海に漂う波なのだ。
何もできない。動かせない。だから僕はこの夢に集中することにする。
あたりを見渡せば、どうやらここは真っ暗な空間のようだった――目があるか分からないから、見渡すという表現が正しいのかは分からないけれど――。真っ暗な、夢。
でも、真っ暗なだけではないことがわかる。暗闇の中に、何かがあるのだ。何がある、何があるのだろう。それが分からない。
僕はそれを見ることしかできない。闇の中にある何か。それは、夢の中でテレビを見ているかのような。リモコンもボタンも何もないテレビ。あったとしても、体がないからチャンネル一つ変えられないそんなテレビを。
けれど、ある意味それは正しいのかもしれない。夢は、レム睡眠時に脳が過去記憶を引っ張り出して映像のように再生するある種のストーリービデオのようなものだと聞いたことがあったから。だから、このテレビを見るような感覚は正しいのかもしれない。
チャンネルは変えられないけれど。ビデオも再生できないけれど。僕は今、見れないはずのテレビをなぜか見ることができていると自覚しているにすぎないのだ。
そのテレビは、僕に関係があるものなのだろう。僕の記憶が元になって再生されているのだから、それは当然の帰結といえる。
でも、それがどんなものなのか僕には認識することができないのだ。
モザイクとも違う、よくわからない靄のようなものがかかっている。
だけど、それがとても楽しいことだったというのはわかるんだ。
美しい記憶だったと。それだけは断言できるんだ。
大切な人と、一緒にいた記憶なのか。大切なもので遊んでいた記憶なのか。何も、分からないけれど。
ずっと見ていたいと、僕は思った。
だから僕は、それを見続ける。何も思い出せないまま、僕は目が醒めるまで、その夢をずっと、ずっと――……。
そして、僕は目が覚めた。
今は冬季休み。そうだ。僕は、炬燵で宿題をしていたらいつの間にか眠ってしまっていたのだ。
そうだ。なんだか、夢を見ていたような気がする。とても大切で、大切な、大切だった記憶の夢を。
どんな夢だったのかは、思い出せないけれど……。