表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ポケットにいつも百円玉を

作者: 東風雲雀

小さな子供が目の前を走り抜けていく。

どこか懐かしい気持ちになりながら、

目で追っている俺に横から声がする。

「ゆーた?」

少しボーっとしちゃったかな?

俺はなんでもないと彼女に微笑むと手を引いてゆっくり歩き出した。



 「ゆーた?」

お?

いつの間にかテーブルに座っている俺。

ふと視線を提げれば空っぽの食器。

「ちょっと~しっかりしてよ?もうすぐパパになるんだから」

半分笑い、半分あきれたように言う彼女。

「困ったパパでちゅね~」

彼女は大きくなったおなかをさすりながら話かけている。

「いや、今日買い物の帰りに小さな子供がいたじゃない?

もうすぐ俺の毎日もああいう子供がいる生活になるんだなって、

ちょっと昔を懐かしんでたんだ」


 うん、子供達が走って向かった先には幼児向けの動く乗り物。

小さいころはあれに乗るのが好きだったなあ。

「俺タバコやめるわ」

いつの間にかタバコをに火をつけようとしていた自分がいる。

「なに?突然???そりゃ辞めてくれるのは嬉しいし子供のためにも・・・」

そりゃそうか・・・いきなり辞めるなんていったら不思議がるよな。


 「子供がさ、コレに乗りたいって言ったときに乗せてあげたいからな」

俺はスマホで画像を出すと唯に見せた。

「あー懐かしいねコレ」

懐かしいといった唯の顔はとても優しくて、ああ・・・母になっていくんだな。

なんてちょっと嬉しくもさびしく思ってしまった。

「俺んち貧乏だったからさ、ほとんど乗せてもらえなくて、

ある程度大きくなったとき・・・はじめてもらった小遣い握り締めて、

すごくワクワクしながらデパートの屋上へ行ったんだ。

でも、ある程度大きくなった俺にはあのころ感じた_

ワクワクや楽しさなんて感じなくてさ、

すごく寂しいというか虚しくなっちゃってさ・・・

だから楽しいって思える年齢のうちに俺たちの子供には_

いっぱい乗せてあげたくってさ」

俺はまだ綺麗なままの灰皿に百円玉を投げ入れた。

「ん?」

いつも灰皿を綺麗にしてくれている唯が解らないという顔をしている。

「吸いたくなったら入れるんだよ」

俺は結構本気で言ったのに唯はすごく意地悪な顔をしてニヤッとしやがった。

「ふ~ん?あんたの給料そんなに良かったっけ?」

うごごご・・・

でもいいさ、この子が生まれてくるまでにたくさん百円玉を集めて、

いつでも乗りたいって言ったときに、

ポケットから一枚の百円玉を取り出して渡してあげるんだ。

あの魔法の時間を作り出すために。


だから早く元気に生まれてこいよ。






あっ、でも唯を独り占めするなよ?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この後ゆーたさんが子供の時には知り得なかった 『魔法の時間を楽しむ我が子を見る気持ち』 を知るんだろうな……と思ったらとても温かい気持ちになりました。 [気になる点] この小説の雰囲気が好…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ