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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
一年四組の日常
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カナキの体術 1

短めなうえに中途半端に切り方になっています。すみません。

「――体術を?」


 その言葉を聞いた時、カレンの中でまず生じたのは混乱だった。

 何故、彼は突然こんなことを言うのか。

 やがて、その意味を理解したとき、カレンの胸中は、混乱から圧倒的な怒りへと変わった。

 つまり、この男は、三級魔法師程度の資格程度しか持たないこの教師は、よりによってこの私に、体術を教えると言っているのだ。


「……一応訊きたいのですが、それは、先生が私たちに体術を教えてくださる、ということでしょうか?」

「まあ、僕はリヴァル教官のように体術専門の教師というわけではないから、フィーナ君についてはあまり教えることはないかもしれないけどね」


 遠回しにカレンを下に見ているその発言を聞いた時、久しぶりにカレンの中で、プツリと堪忍袋の緒が切れた。

 後ろでフィーナがこっそり息を吐くが、カレンにはもう届かない。

 カレンはとびきりの愛想笑いを浮かべると、何も気づいていない様子のカナキの申し出に応じ、自ら率先して公園へと歩き出した。






「それじゃあ、まずは初歩的な体捌きから三人ではじめ」

「――先生、折角の機会ですし、どうせなら実戦形式でお手合わせできませんか?」

「……カレン様」


 公園とは名ばかりの、広々とした空き地に到着した途端、カレンはカナキの言葉を遮ってそう提案した。

 後ろにいたフィーナは、それだけでカレンがカナキを徹底的に痛めつけるつもりだということを確信して重い溜息を吐く。


「あら、フィーナ。溜息なんて吐いてどうしたの?」

「カレン様の心中もお察ししますが、流石にそれは大人げがないのではないですか? カレン様は魔法師とは言っても、宮廷の方で護身術を……」

「フィーナ、世の中には口で言うより、体で教えた方が早い時もあるのよ」

「……分かりました」


 カレンの瞳の奥で煌々と燃える闘志を見て、フィーナはカレンの説得を諦める。元々頑固な所がある御方だ。言っても無駄だろうとフィーナは考えた。

 そのやり取りを聞いていたのかは分からないが、カナキはカレンの提案に渋面を作った。


「いきなり組手かい? うーん、確かに、ランニングしていたから身体自体は温まってはいるけど、流石に基礎を教える前の組手は、なかなか難しいと思うよ」

「…………(ピキピキッ)」

「(ああ、カレン様の笑顔が更に凄惨に……)」


 この世界を見渡しても、ここまで笑顔が美しく、同時に恐ろしい女性はそうはいまい。

 笑顔を深くしたカレンは、それでも優雅さを失わずに、丁寧に答える。


「いえ、ですのでまずは、カナキ先生に私の技量を見ていただき、それを判断したうえで、私に最適なアドバイスをして頂きたいのです。どうでしょうか?」

「ああ、なるほどね。分かった。じゃあそうしようか」


 頷くカナキに、笑顔で礼を言うカレン。それだけの光景なのに、フィーナは冷や汗が止まらなかった。

 カナキ先生、大きな怪我だけはしないと良いのですが。

 既に大なり小なりカナキは怪我をすることになるだろうと確信しているフィーナは、せめてもと心の中で案ずる。

一方カレンは、フィーナの予想通り、この組手でカナキをボコボコにする気満々だった。


 (担任教師として少しでも王女である私に良い格好をしたかったのでしょうが、その無知、身を以て正してさしあげましょう。)


「じゃあ始めようか。とりあえず体術の練習ってことで、魔力は熾さずにやろうか」

「わかりました」

「準備はいいかい?」

「はい」

「それじゃ、はじ」


 め、と声が発せられると同時に、地を蹴ったカレンは、一息でカナキの懐へと飛び込む。

 目を見開くカナキに、カレンは彼の鼻っ面めがけて思い切り拳を振り抜き、


「……え?」


 そのギリギリのところで、防がれていた。


「うわー、危なかったー」

「ッ!」


 カレンは仕留められなかったと分かると、拳を引いて蹴りを放つが、今度のそれは、容易に躱されてしまう。

 ――そんなっ!?


「カレン様!」


 驚きを隠せないカレンは、動揺がそのまま身体に影響して棒立ちになる。フィーナが声を上げたがもう遅い。

 ちょん、と気づけばカナキの拳がカレンの鼻先に当てられていた。


読んでいただきありがとうございます

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