神様交代
大騒ぎの節分が終わった次の日・・・俺と時音は約束通り1日だけ神社を交代した。
俺が山明神社、時音は四宮神社に今日はいることになっている。
と言う事で、今日の俺の巫女は水希と水菜だ。
ついでに四宮神社でへばってた鬼娘も連れてきた。
何か、四宮神社よりもこっちの神社の方が良いかと思ったからな。
もうすでに鬼のような奴らが2人もいるし。
「いやぁ、何や久しいのぉ、この神社に戻るのは何年ぶりやろか」
「そうだよね! 本当に久々に師匠が神社にいるのは新鮮だね!」
まぁ、何年間も山明神社から離れていたんだし、そうだろうな。
「本当に、いつも通りだな、これで・・・まぁ、神様がいるのは違うがな」
「あ? 何だ? 気に入らないか?」
「そうじゃない、ちゃんと変化があったって事だ、まぁ、今日は違うがな」
「本来俺はこの神社の神じゃ無いからな」
なんせ、俺は四宮神社の神だからな、本来山明神社にいるのはおかしい。
「うーん、師匠がいて! イーリアがいて! 四宮神社の神様がいる!
うん! あたい感激! 山明神社がもの凄く変わったよ!」
「そうやなぁ、水希ちゃんも昔よりも大きくなっとるし
まぁ、ええわ・・・そんならイーリア・・・久々にやるか?」
「ほう、良いぞ・・・前までの俺とは違うってのを、教えてやる」
こいつら、山明神社に着いた途端に臨戦態かよ・・・
本当に、戦いが好きなんだな・・・はぁ、もう今更止めるのも面倒くさい。
「あ、圭介、止めないの?」
「もう良い、諦めた、そもそもこっちは俺の神社じゃ無いし」
「あはは、そうだね、じゃあ、あたいも久し振りのイーリア対師匠の戦いを見るよ」
そして、俺は山明神社の縁側に座り、2人のいがみ合いを見る事にした。
何だか、さっきから1歩も動こうとしない、それも、お互いに・・・
まぁ、そうだろうな、達人同士の戦いは一瞬が勝負を分けるからな・・・
「行くぞ!」
先に動いたのはイーリアだった、あの俊敏さは人間では出来ないだろう。
さっきまでいた地面が若干抉れるくらいの勢いで接近してるしな。
「イーリアぁ! そのくせ! 変わへんなぁ!」
その急接近に対し、水菜は大声で叫び、迎撃を行なった。
まるで、どう来るかを分かっているかのような、正確な反撃だ。
「お前もな! 水菜!」
「おっと」
イーリアは水菜の拳に自分の拳を当てるように振り上げた。
そして、その行動に気が付き、水菜は素早く腕を引いた。
「え? な、何あの2人、怖いんだけど・・・」
さっきまでグッスリ寝ていた鬼娘が起き上がった。
多分、水菜の絶叫で目が覚めたんだろう。
「へ、引いたか・・・流石に良いカンしてるぜ!」
「いやぁ、あれは驚いたわ、やっぱ、同じ軌道で攻撃するんは止めた方がええなぁ」
このまま傍観するのも良い気がするが、そろそろこっちの神様の仕事をせんとな。
確か、時音に頼まれたのは水希の修行だったっけ。
「まぁ、傍観するのは止めて、お前も修行をするぞ」 「まだまだ行くでぇ!」
「はい!」 「いくらでもやってやる!」
「今回は普段四宮神社でしている修行、基本の中の基本、瞑想だな」 「「でりゃぁ!」」
俺が会話をしていると、あいつらの方から馬鹿でかい音が聞えた。
ちょっとビックリして、その音がした方を見てみると、イーリアと水菜が拳をぶつけ合ってる。
・・・こんな状況で瞑想なんて出来ないだろうな・・・
「っと、やっぱり大した力や!」
「お前もな! 明らかに前よりも力が増してやがる!」
「せやで! あんたに負けん様に鍛えたんや!」
「そうかよ! じゃあ、もう一回だ!」
「行くでぇ!」
「お前ら・・・やっぱりうっさい」
今、まさに激突しようとしていた2人が、俺の小さな声で同時にぴたりと止まった。
どうにも俺は完全に怒ると声が小さくなるようだな・・・
「あ、明らかに怒っとるで・・・どないするよ・・・」
「そ、そういえば、前に仏の顔も三度までって聞いた気がするぞ・・・」
「昨日、うちはあっちの巫女とたたこうて、あの娘と戦こうて、水希ちゃんと戦こうたわ・・・」
「も、もしかして、その度に言うこと聞かなかったから怒ってるんじゃ無いか!?」
「ま、不味いわ、うちら2人で協力しても、勝てる見込みがまるであらへん・・・こ、ここは大人しく・・・」
「何こそこそ話してる?」
「な、何でもあらへんよ?」
何だ、水菜とイーリアの奴、顔が真っ青だな。
「まぁ、止めたんなら良い、そうだな、どうせだ、お前らも修行した方が良いぞ?」
「ど、どうゆうことや?」
「水菜、お前は少し暴れすぎだ、やっぱり耳元でガンガン音がするのはどうにもな
だから、折角だからお前にも戦い以外を覚えて貰おう」
「な、何や・・・うちに何をやらすつもりや・・・?」
「そうだな、滝に打たれるのはどうだ? 修行っぽいだろ?」
「あ、あかんて、う、うちは寒いのは苦手なんや・・・」
「なに、大丈夫だ・・・今日は暖かいし」
「暖かくはないやろ!? 特に滝なんて、死んでまうわ!」
水菜はかなり焦っている様だ、どうやら本当に寒いのは苦手らしい。
でも、そうだな、なら、これを使って見るか。
「そうか、じゃあ、瞑想だな」
「瞑想やな、それなら問題あらへん! 寒う無いし」
「じゃあ、こっち来い」
「・・・あの師匠が大人しく言うことを聞いてる、すごい・・・」
「昨日、あれだけ力の差を見せつけらっちまってるからな、流石の水菜も従うだろう」
「あの人間? あ、神か、別にそんなに強く無さそうだけど?」
「お前はあいつの怖さを知らないんだ・・・もしもマジにやったらお前なんて瞬殺だぞ?」
「何それ怖い」
悪口? それとも褒められてるのか? 何か微妙な会話だが・・・まぁ、良いだろう。
「ほら、水希も来い」
「分かった!」
「じゃあ、これから瞑想だな」
「ちょっと待ってくれへん?」
「何だ?」
「いや、些細な疑問なんやけど・・・何でうちの座る場所は砂場なん?」
「この方が、何か修行っぽいだろ?」
小学生とかの経験で良く覚えてる、夏の暑い日に運動会で砂場に座らされたり。
その度に足に石がめり込んで、本当に痛かった記憶がある、何度か皮も剥けたし。
今回は水菜にその経験をして貰いながら修行をさせる方が良いだろう。
なんせ、こんなんでも一応は先代、水希と同レベルは駄目だろうし。
「く、え、ええで、やってやろうやないか、水希ちゃんの前で逃げるんはしゃくやし」
「怯えて修行をする事にした奴が何言ってんだか」
「そこ! うっさいで!」
「じゃあ、座ってくれ、あ、当然正座な」
「も、勿論や・・・」
そう言って、水菜はゆっくりと砂場に正座した。
「な、何や地味に痛いなぁ・・・」
「それで30分だ、集中しろよ?」
「ええで、ほな、水希ちゃん、一緒に頑張ろか?」
「うん・・・師匠、無理しないでね?」
「しとらんから安心せいや」
そして、水希と水菜の修行を始める事にした。
まぁ、水希の修行は頼まれたからやるけど、水菜は頼まれてないんだけどな。
でも、四宮神社に来る度に葵と鉢合わせして、戦われたら困るし
こいつにも精神統一の修行はしておいた方が良いだろう。
それに、今日は少しきつめのコースだ、実験も兼ねてるし、少し辛い思いをするだろうな、水菜は。
でも、まぁ、戦いでぼろ負けするよりはマシだろうよ。
「圭介の奴、悪い顔になってるな・・・」
「少し、怖いかも」
「何をしてくるんかわからへんが、水希ちゃんの前で、うちは折れたりせんで!」
「折れるような修行はしないっての」
心が折れるくらいの修行って、どんだけ鬼畜何だか。
まぁ、厳しいだけだし、大丈夫だろう。




