悪霊退治の下調べ
俺と茜が四宮の神、巫女になってから2度目の依頼。
俺達はその2度目の依頼をくれた依頼主の家に向かっている。
今は里の中心あたりで、色んな店や色んな人々が賑やかに歩いている。
「圭介様!悪霊退治ってどんな感じですかね?」
隣をのんびり歩いている茜が楽しそうに俺に話しかけてきた。
「今は町中だ、俺に話しかけるなよ」
「あ!そうだった!」
俺は神だ、普通の人間には俺は見えない。
その為、茜が俺に話しかけるとただでさえ注目されているのに、更に目立っちまう。
その後は殆ど会話も無く、依頼主の家の付近までやってきた。
そこは殆ど人も歩かず、かなり寂れている。
「随分不便そうな場所に家がありますね」
「そうだな、まぁ、四宮神社も同じようなもんだが」
四宮神社は里からかなりの距離がある。
参拝客が来ない理由に一役を買っているだろうが、まぁ、道は時間が掛かるし後回しか。
「とりあえず、呼び出してみます、すみませーん!」
茜が大声で家主を呼ぶと、家の奥からはいと言う声が聞こえた。
しばらくして扉が開き、中からくたびれた表情の男の人が出てきた。
「その服・・・もしかして四宮の巫女さんかい?」
「はい! 7代目、四宮の巫女の四宮 茜と申します!」
茜はぎこちない挨拶を行った。
きっとまだ2回目だから緊張しているんだろう。
その挨拶を聞いた男はにこにこしながら茜を部屋に入れた。
「どうぞ、ここに座ってください」
「はい」
男の部屋はかなり荒れていた、ゴミはあまり散乱していなかったが、壁にいくつもの傷がある。
それによく見ると色んな場所にお札が貼ってあった。
しかし、お札に書いてある文字には呪という言葉が1カ所あり、どう考えても呪符だ。
「圭介様、どういうことでしょう・・・」
茜が小声で俺に話しかけてきた。
茜もこの状況がおかしいというのを理解しているようだ。
当然だろう、色んな場所に謎の呪符、異常としか言えない。
「あぁ、明らかに異常だな」
「何があったんでしょうか」
謎の呪符、異様に荒れた部屋、くたびれた依頼主。
しかし、依頼にあった様な音は聞こえない、俺がいるからか?それとも昼だからか?
俺が考え事をしていると、お茶を取りに言った男が戻ってきた。
「どうぞ、お茶です」
「あぁ、ありがとうございます」
茜と男の人はお茶を少しだけ飲み、本題に入った。
「今回、四宮の巫女さんがここに来たと言うことは、依頼を受けてくれたんですね?」
「はい、今回はその報告と、依頼について詳しく聞こうと思いまして、こちらに来ました」
それを聞いた依頼主の男はホッとした表情をした。
恐らく、依頼を否定される可能性を捨て切れていなかったんだろう。
少し、重苦しい空気の中、先に口を開いたのは茜の方だった。
「では、私が質問しますので、その質問に答えてください」
「分かりました」
これは俺が指示をした事だ。
こういう場合、依頼主に説明させると支離滅裂な話しになる危険性があるからな。
「では、異変が起こったのはいつ頃ですか?」
「そうですね、親が生きていた頃からありました」
親が生きていた頃からか。
じゃあ、なんで今頃依頼をしたんだ?
この疑問は茜も抱いたようで、瞬時に反応した。
「本当ですか?では何故今頃依頼を?」
「今まではそこまで気にならなかったんですけど、親が死に、私があのお札を貼ったら
音が大きくなり始め、眠れなくなるくらい大きくなり始めたので依頼を」
完全にあの呪符が原因だ。
茜もその事は分かっているようだ。
「だとしたらあのお札が原因なのでは?」
「それはうすうす気付いていたんですが、その、剥がせなくなりまして」
「剥がせなく?」
俺と茜はほぼ同時に呪符の方を向いた。
確かによく見ると呪符の周りをよく見ると傷だらけだ。
「そうですか・・・では、次の質問です」
「はい」
「その音が聞こえるのはどの時間帯ですか?」
「20時です」
20時か、この世界の人間が眠り始める時間だな。
「そうですか・・・では、その時間に再びお伺いしますね」
「分かりました」
俺達は席を立ち、依頼主の家から出た。
外はさっきまでとは違い、薄暗くなっていた。
「では、お待ちしていますね」
「はい」
茜は依頼主に挨拶を行い、その場を離れた。
俺は茜が少し焦っている様な雰囲気を感じた。
あくまで予想だが、少し怖かったんだろうな。
「うぅ、少し怖かったです」
「巫女が怯えるのかよ」
茜は少し怯えながらそう呟いた。
考えてみたら、こいつは6歳程度の女の子だったな。
しかし、妖怪は怖くないのに幽霊は怖いのか。
「ていうか妖怪は怖くないんだよな?」
「はい、妖怪は怖くありません」
茜は少し笑いながらそう言った。
よく分からないが、まぁ、妖怪ってあまり怖くないからな。
俺はそんな事を思いながら人通りが少なくなった里を歩いた。
しばらく歩き、四宮神社に到着した。
「よし、帰ってきた」
「やぁ、遅かったねぇ~」
四宮神社に着くと沢山の兎と花木が出迎えてくれた。
花木はいつも通り若干笑っている。
ていうか、なんで戻ってくたら妖怪がお出迎えなんだよ。
茜は周りの兎を見て目を光らせている。
「なんでこんな大所帯でいるんだよ」
「私の傘下の兎にもここを紹介しようかなぁって思ってさぁ~」
「ここはお前の家じゃ無いんだぞ?」
「良いじゃん、第2の家みたいなもんだしさぁ~」
「ふざけろ」
花木は思いっきり笑っていた。
にしても、兎達も俺と茜の周りを回っている。
「これは?」
「それは兎たちの儀式みたいな物でさぁ~、気に入った相手にするんだよ~」
「兎に気に入られたんだ、えへへ、可愛いなぁ」なでなで
茜は小さい兎を楽しそうに撫でている。
「酷い!私が兎だったときは鍋にしようとしてたのにぃ~!」
「あはは、可愛い!」なでなで
茜は花木の声が聞こえないくらい兎を撫でていた。
それだけ可愛いんだろうな。
「無視なんて酷いよ~!」
「それだけ集中してるんだよ」
「・・・」ぴょん、ボン!
花木は高く飛び上がり、兎に変化し、俺の方に近付いてきた。
「なんだ?」
「私も撫でてよ~」
「・・・俺が?」
「うん」
確かに茜は他の兎に集中してるしな。
・・・たまには相手をしてやるか。
俺は花木を撫でた。
「むにゅぅ・・・」
花木は兎状態でもの凄く幸せそうな表情で俺の膝に乗っている。
兎も撫でたらこんな表情になるんだな、可愛らしいもんだ。
「ふぅ、なんかのんびりだな」
ついさっきまで幽霊が出るなんて場所にいたとは思えないな。
やっぱ動物は癒やされるな。
茜も幸せそうな表情で兎を撫でているしな。
「あ、なんだよ」
他の兎も俺の膝の上にわらわら乗ってきた。
流石に少し重いな。
「これはあれだね~、この子達も撫でて欲しいんだろうね~」
「そうなのか?」
俺は他の兎も撫でてみた。
どの兎も花木と同じような表情をして、幸せそうだな。
「・・・」
「ん?」
俺が兎を撫でていると茜が俺の近くに来て、ジッとこっちを見ている。
「なんだ?」
「その、圭介様・・・わ、私も・・・」
「ん?あぁ、茜も花木を撫でたいのか?」
「いや・・・その・・・」
茜は照れくさそうにモジモジしている。
「どうした?」
「あはは、圭介は鈍いねぇ~、茜ちゃんはまだ6歳だよ~?誰かに甘えたい年頃だよ~」
「あぁ、確かにそうだな」
「その!わ、私も撫でてください!」
茜は顔を真っ赤にして頭をこっちに向けた。
そういえば前に何度か撫でてた時も楽しそうにしてたな。
俺はやっぱりまだ子どもだなと思いながら茜の頭を撫でた。
「えへ、えへ、えへへ」
「幸せそうだな」
「頭を撫でるのは種族も越える位のコミュニケーションだからね~」
そういえば基本的に動物とのコミュニケーションは頭を撫でるからな。
しかし、良い天気だ、俺はそんな事を思いながら兎たちと茜を撫でた。
しばらく経ち、依頼の時間帯になった。
さぁ、お仕事開始と行きますか。




