ダラダラと
結局、葵は四宮神社に住むつもりは無いらしい。
茜は必死に説得したが、葵も一切引く気配は無かった。
それだけ、今の自分が茜と一緒に居るのは嫌なのかも知れない。
しかし、今日はもうしばらくの間、この神社に残るそうだ。
「お師匠様・・・もしも、ここに住まないとしたら、どこに住むんですか?」
「そうね、この神社の西に大きな山があるから、そこに住もうかと思ってるわ」
「家とかはどうするんですか?」
「そこよね、問題は家なんて簡単に作れないし・・・」
そんな会話をしていると、神社の階段を登る足音が聞え、花木と久里がやって来た。
「今日は早めに仕事が終わってよかったよ」
「そうだね~、まぁ、私のお店は在庫が切れたからなんだけどね~」
「なんで在庫が切れたんだい?」
「昨日買い足すのを忘れてたんだよ~」
「相変わらず、ドジだね、あんたって」
「それほどでも無いよ~」
なんというか、タイミングが良いな、花木は良いけど、久里が来たのはありがたい。
「久里、よく来たな」
「あぁ、って言うか、何だかまた新しい人がいるじゃないか、巫女が増えたのかい?」
「そうだ、先代が帰ってきてな」
「せ、先代? 失踪したって聞いたけど?」
「そうなんですよ! ずっと帰ってこないって思ってたけど、帰ってきてくれたんです!」
「また妖怪ね・・・そう、この神社は随分と妖怪が集まるのね」
「参拝客も来てるし、大丈夫だろ?」
「そうね・・・」
葵は少しだけ複雑そうな表情を見せたが、少しして、表情が戻った。
「それで、あなた達は? あぁ、こう言うときはこっちから言うべきね、私は四宮 葵
四宮神社の先代巫女で、今は半分妖怪よ、よろしくね」
「半分だけ妖怪になることなんてあるんだね~、知らなかったよ~」
「あたしも初めて聞いたね、そんな風になることがあるんだね」
「まぁ、なるわよ、私が死ぬ前にも、そんな話が合ったしね」
「そんな事があったんだ、お姉ちゃんが死ぬ前って」
「そうよ、色々とあったんだから」
そうだな、お姉ちゃんって言う言葉が悪かったのかも知れないな。
葵の目つきが鋭い物に変わっている。
「そこの幽霊・・・何でしれっと私よりも茜に親しまれてるの!?」
「師匠と弟子の間柄じゃ無いからでしょ? 師匠に対して親しい口調は難しいだろうし」
「わ、私はずっと茜にお姉ちゃんって呼んで欲しかったのよ!? でもお姉様とすら呼んでくれない!
それで結構長い間もどかしい思いをしたのに! あなたときたら!
よりにもよって私の目の前で茜にお姉ちゃんなんて呼ばれて!」
「あ、あの、お師匠様? 喧嘩はよくないですよ?」
「茜は黙ってて!」
何だか雰囲気が悪くなってきたな・・・
「覚悟しなさい!」
「落ち着け、要するに葵は茜に睦月が呼ばれているように呼んで欲しいんだろ?」
「そうよ!」
「じゃあ、茜、言ってやれ、恥ずかしいだろうが、喧嘩が始まるよりは良いだろう」
「あ・・・はい、わ、分かりました・・・あ、葵お姉ちゃん、喧嘩は駄目だよ?」
「がはぁ!」
「お師匠様!」
茜に言われ、葵にかなりの衝撃が走り、葵はその場に倒れた。
それも、すごく幸せそうな表情で・・・もう、これで極楽浄土に行けるんじゃ無いかな・・・
「あぁ、幸せ・・・これで思い残しは1つだけね・・・」
「お師匠様・・・」
「はぁ、まぁ、良いか、ま、まぁ、うん話の続きと行きたいが、葵があのザマだし無理だよな」
「そうだね・・・」
「じゃあ、先に俺の話を聞いてくれ」
「なんだい?」
「実は仕事を頼みたいんだ、西の方の山に人1人住める位の家を建てて欲しい」
「西の山に? 何でだい?」
「葵の家だ、あいつは四宮神社に住むつもりは無いらしい」
「ふーん、そうかい、意外だね、まぁ、良いよ、でも、出来るまで時間が掛かるけど?」
「どれ位掛かるんだ?」
「全員を総動員させれば・・・そうだね、ざっと2週間かな」
かなり速いな、でも、全員を総動員させて2週間か。
ついでに色んな場所に協力を煽れば、もう少し速くなるかもな。
でも、まぁ、速くする理由もないし、2週間程度ならあいつもここにいるだろう。
「よし、分かった、それで頼む、あと、金はどれ位掛かる?」
「あぁ、それは良いよ、あたしらはお金に興味は無いからね」
「なんで店を開いてるんだ?」
「やることが無いからね、だからだよ」
「それでも、俺達以外からは金は取るんだろ?」
「あたしらも生きるためには金がいるんだ、でも、今は余裕があるし、大丈夫だよ」
花木と言い、久里と言い、金に興味が無い奴が多いな。
何で村に行ってまで商売してるんだか、まぁ、そう聞いても大体は暇だからとしか帰ってこないがな。
妖怪って、やっぱり結構暇なんだろうな・・・
「まぁ、今日はダラダラとさせて貰うけどね」
「分かってる、仕事終わりにすぐに次はしんどいだろうからな」
「まぁ、そうだね、流石にそれはしんどい・・・それと、質問良いかい?」
「なんだ?」
「あっちで水希と一緒に座ってる方の巫女は?」
「お? うちか? うちは山明 水菜っちゅうんや、水希ちゃんの師匠やで」
「あぁ、そう、山明神社と四宮神社の先代達が同時に帰ってきたのか、運が良いね」
まぁ、あの2人は戦いながら帰ってきたからな・・・そういえば
あの2人の戦いに巻き込まれて飛んできた鬼はどうなったんだ?
まぁ、正直鬼がどうなろうが知ったこっちゃ無いが。
「あぁ、こんな所に埋まってる」
「お? あぁ、鬼の姉ちゃんか、こないな場所に埋まっとったんやな」
「むぐぅ!」
俺は取りあえず、その鬼を引っこ抜いてみた。
すると、最初に出会ったときとは違い、普通の女の子のような容姿をしている。
さっき2人に吹き飛ばされたときは、赤い鬼だったのにな。
「た・・・助かったぁ・・・まさかあんな目に遭うなんて・・・」
「ふーん、鬼ってのは自由に容姿を変えられるんだな」
「ちゃうで、こっちが本当の姿や、あの鬼の姿は攻撃状態やったかな」
「あ! あ、あの時の! な、何さ! 戦うって言うなら相手になるよ!」
そう言うと、女の子は自分の腕だけを赤鬼の腕に変化させた。
こんな能力があるんだな。
「は、ええで、戦おう言うんなら相手になるで!」
「やってやるよ! さっきの仕返しをね!」
まぁ、この2人の戦いを見るのも良いかもな。
と言うか、花木達も見るつもりみたいだし。
少しだけ、戦わせてみるかな。




