四宮の巫女と山明の巫女
先代達の帰還か、俺は面識がないからそこまで驚きはないが
茜や水希は相当驚いているんだろうな。
「茜、そんなそっぽ向いて泣かないでも良いのに」
「泣いてないですよ!」
「そう? それにしても、茜、しれっと私の事をお姉様って呼んでくれるのね、嬉しいわ」
「あ! ち、違います! 違いますよ!? 私はこれからもお師匠様って言いますよ!?」
「何よ、お姉様で良いじゃないの」
「何だか嫌です!」
あいつ、もしかして、面と向かって言うのを恥ずかしがってるのか?
うん、間違いないな、今まで普通にお姉様って言ってたし、それが戻ってきてからお師匠様に戻すって事は
そうなんだろう、顔も真っ赤にしてるし。
それで、こっちはどんな会話をしてるんだか。
「何や、水希ちゃん、せめてもうちょっと喜んでもええんとちゃうか?」
「喜んでるよ? 何でそう思うの?」
「ほら、あっちの方は泣いてたり、顔を真っ赤にしとったりしとんのに、水希ちゃんは変わっとらんし」
「・・・・・・? あれ? あたい、実はそこまで喜んでない?」
「喜んでくれいな! 水希ちゃんの愛しの師匠が帰ってきたんやで!?」
「愛しのって程じゃないよ?」
「ま、前から思っとったけど、水希ちゃん、うちにへの態度きつない?」
「そんな事ないよ、うん」
この差はなんだろうな、茜はすごく喜んでいるのに、水希はそんなに喜んでないっていう。
もしかして、茜と違って水希って先代との思い出ない?
「水菜、よく戻ったな!」
「あぁ、イーリアもおったんやな、てか、水希ちゃんよりも喜んどるようなや」
「お前がいない文月山は腑抜けばっかで退屈だったんだ」
「まぁ、せやろうな、あの山でイーリアとまともにやり合えそうなんは擂位やし」
「そうだな」
ふーん、あの天狗の長ってイーリアと互角にやり合えるくらい強かったのか。
でも、暇してたって事は、戦いはしてなかったって事だな。
「そうだ、師匠! 久々だし、あたいと勝負しようよ!」
「お? ええで、どんだけ強なったか見せて貰おうやないか」
「さっきも言ったが、ここは神社だ、戦う場所じゃない」
「ええやんか、うちとイーリアも普通に神社で戦っとったで?」
「山明神社は良いんじゃないか?」
「私の神社でも駄目よ、あんな化け物同士が戦ったら神社の寿命が縮むわ」
「水希って化け物だっけ?」
「水希はまだ弱いわね」
「あ! 時音様! それは酷いよ・・・です」
やっぱり水希は敬語を話し慣れていないんだな。
しかし、少しだけ水希と水菜の勝負を見てみたい気がする。
「ええやろ? 神さん、そない暴れへんから」
「あなたも一応山明神社の巫女なんでしょう? もう少し神を崇めたら?」
「神さんなんてそないにおるわけないやろ? うちは目に見えるもんしか信じん」
・・・これが巫女の台詞かよ・・・まぁ、俺達は一応目には見えるし、信じてくれるだろうし。
「まぁ、せやな、ここの神さんは目に見えるから信じるけど、あっちの神社の神さんは目に見えへんし?」
「・・・あなたと今会話をしているのはなんだと思ってるの?」
「妖怪やろ? なんか雰囲気がそれっぽいわ」
「ま、まぁ、確かに妖怪の力で復活したし、そんな風に感じるのも無理はないかもね・・・」
時音の奴、明らかに怒りを覚えているような表情をしているな。
「・・・その、一応言っておくけど、その方も神様よ? 確かに妖怪の気配が強いけど
ちゃんと神気があるし、明らかに神様」
「ほ! ほんまか!?」
「そうよ、やっぱり四宮の巫女の方が優秀なのね・・・」
「ちゃ、ちゃうねん! ただ、その、うちは力を見てみんと信じれんたちでな!?」
「じゃあ、良いわ、少しだけ見せてあげる・・・私の力・・・」
「・・・何だか雰囲気がやばいね!」
「サラちゃん! 隠れとこうよ!」
「なんの騒ぎだよ・・・」
今までのんびりしていた3人が起きてきた、てか、今まで寝てたのかよ、こいつら。
「さぁ! 山明神社の神の力! 少しは知りなさい!」
「え、ええで! うちも神さんの力を少し見てみたかったんや!」
「後悔しないでね・・・あまり本調子じゃない今の状態でも、人間1人くらい簡単にねじ伏せれるって事!
あなたに教えてあげるわ!」
「来いや! うちの本気を見せたるで!」
「おーい・・・ここ、俺の神社なんだけど・・・あぁ、聞えてないな、あれは」
間違いなく、この2人、ここで戦うつもりだ・・・やばい、神社どうしよう・・・
これで神社が潰れたら一大事なんだけど・・・そうなったらどうすれやいいんだよ・・・
「行くで!」
「単調な攻撃ね、その程度で神に挑もうなんて、千年は速いわ!」
そう言うと、時音は姿を消した。
「なんやて!?」
「山明 水菜、これであなたは死んだ」
「な! い、いつの間に!」
時音は一瞬の間に水菜の背後に回った、何だか格好付けてるが、あれは普段からやってるテレポートだろ?
それを応用しただけの攻撃・・・これ、不意打ちくらいにしか使えないよな。
「まぁ、普通ならこのまま攻撃するのだけど、今回は捕まえるだけにしておいてやるわ」
「や、止めるんや! 腕を引っ張らんといてくれ!」
「さぁ、軽く罰を与えるわ! 食らいなさい!」
「あは! ちょ、堪忍や! ほんま堪忍して! わかった、信じる! 神さんの事信じるて!」
時音は片手で水菜の両腕を拘束して、くすぐった。
うーん、神の罰にしてはもの凄くレベルが低いな、前に俺もやった記憶はあるが。
やっぱり相手にダメージを与えずに、攻撃となるとくすぐるが効果的なんだろうか。
それにしても、やっぱ力あるんだな、神って、片手であいつを捕まえるんだしな。
「おぉ! 師匠が負けた! 初めて見た!」
「み、水希ちゃん! そこで目をキラキラさせとる暇があったら助けて欲しいんやけど!?」
「頑張れ師匠!」
「助けてくれーな!」
・・・・・・ふ、楽しそうだな、これなら山明神社も大丈夫そうだ。
「わ、私と互角にやり合った相手をあんな簡単に拘束するなんて・・・やっぱり神様ってのはすごいのね」
「憧れの象徴だからな、そりゃあ強いさ」
「まぁ、そうでしょうね、あなたも私達2人を止める時、すごく手加減してたしね」
「なんでそう思うんだ?」
「茜に降りない方が強いでしょ?」
「そうだろうな、でも、それが出来ないんだ」
「どういうこと?」
「圭介様は力が強すぎて、私に降りずに力を使うと、天変地異が起きたりするらしいです」
「あ・・・あぁ、そ、そう、ち、力がありすぎるのも大変なのね・・・」
「そうだな」
その制約がなければ、もうちょっと活発に動けるんだけどな・・・
ま、無理な物は無理と諦める方が良いか。
茜がいれば問題ないからな、それにしても、茜にあげたお守りが無くなってるな。
今気が付いた、あいつはずっと首にお守りを掛けていたような気がするのに。
「なぁ、茜、お前にあげたお守り、何処行ったんだ?」
「え? 大願成就のお守りですよね? 確かずっと首に掛けてたはず・・・あれ?」
「どうした?」
「な、無い! 大願成就のお守りが無くなってます!・・・あ!」
茜が何かに気が付き、何かを取りだした。
「こ、壊れてます・・・大願成就のお守り・・・」
「地面に落ちてたのか・・・茜が泣いてた場所だな」
「もしかして、お願い、叶ったから?」
「あ、そうかもな、なるほどな、お前の願いは先代の帰還だったか」
「そうなの? なんか嬉しいわ!」
「ち、違います! 多分何かの拍子で壊れたんですよ!」
「恥ずかしがっちゃって」
「違います!」
特に何も起ってないのに、壊れたりはしないだろうな。
それにしても、俺のお守りはその役目を終えたら壊れるのか、わかりやすいな。
しかし、本当に茜の奴、願いが叶ってよかった。




