先代達の帰還
師匠? お姉様? 何だか何度か聞き覚えのある単語だな。
もしかして、こ、この2人が・・・葵と水菜か?
「お姉様!」
「おぉ、茜! と言う事はここは四宮神社! よかったわ、茜が無事で!
それにしても結構大きくなったわね!」
「師匠!」
「水希、変わってないやないか、ん? 変わってるんやろか?」
「変わってると思うよ?」
「そうか、まぁ、ええわ、今重要なんは、そこの! はよ続きしようや!」
「まだやるの? まぁ、茜の前で無様に逃げてるザマは見せたくないし」
そう言いながら、葵は腰に付けていた刀を抜いた。
「怪我をしてから泣いても遅いわよ?」
「あはは! やっと本気になってくれたんやな! そう来なくっちゃ!」
そして、2人は四宮神社境内で争い始めた。
まぁ、神社には被害を及ばないように戦ってくれているが・・・ここ、一応神聖な神社なんだけどな。
神聖と言っても、妖怪とか幽霊とかいるけど・・・はぁ。
「は! やっぱりうちの予想通りや! 姉さん強いな!」
「あんたも相当よね!」
「おもろい!」
2人の戦いはドンドンエスカレートしていった、物音でイーリアも起きてきたし。
「あ、あの巫女!」
「おぉ、イーリアか、久々やな!」
「会話しながら戦うってどうなの?」
「うちは慣れとるから大丈夫やって!」
「あぁ、そう!」
俺達は完全に蚊帳の外だな、まぁ、神社に被害が無さそうだから少しは見ておくか・・・
「すごいよ! 師匠と互角に戦うなんて!」
「お姉様が若干押しているけど、あの人も強いです・・・」
「何? あれが山明神社の先代な訳? 戦闘狂過ぎるわね」
「四宮神社の先代も話だとそんなに動かないって聞いたのに、スゲー派手に動いてるな」
「お姉様は本当に何もしてませんでしたよ? 修行なんてしないでごろごろしてるのも多かったですし」
「それなのにあんなに強いの? 師匠はずっとイーリアと組み手してたのに」
「あぁ、四宮の先代がスゲーよ、あいつは戦いの天才だ、武器があるとは言え
その水菜と互角にやり合うなんて普通じゃない」
戦いの天才って言うか、ただの戦闘狂にしか見えないんだよな・・・
なんせ、水菜は戦いながらもの凄く楽しそうな笑顔を見せてるし。
葵の方は面倒そうな表情をしているが、集中をしている様に見える。
もしかして、修行をしていなかった先代があそこまで強い理由は、無意識に極限まで集中できるからか?
いや、あくまで推測の域を出ないか、表情だけだしな。
「く! やっぱうちの堪はあってるね! うちと互角以上に戦えるなんて!」
「あんたこそ、相当よ、武器も使わないで私と互角なんてね!」
「しゃーない! うちも武器を使わせて貰うで!」
そう言うと、水菜は懐に手を突っ込み、小さなナイフを取りだした。
そして、素早く葵の刀に攻撃を入れた。
「っと、危ないわね」
「堪がええな、刀引っ込めんかったら、その刀を折れたってのにな!」
「この刀は歴代の四宮の巫女が使ってきた刀よ? そう簡単には折れないでしょうけど、念の為ね」
「その武器も代々なんやな、うちの小太刀もそうやで?」
しれっと各々の神社が代々受け継いできた武器を盗難して何処かに行ってたのかこの巫女達は。
間違いなく分類としては不良巫女だな、間違いなく。
「しれっと神社の大切なものを持って言ってたんだな、あの巫女達」
「そうね、そういえば、あの小太刀って、確か昔に私が暇つぶしに作った小太刀ね」
「暇つぶしね・・・あぁ、俺も作ったっけ、暇つぶしに」
「ふーん、やっぱり暇なのね、神様は」
「暇な方が良いんじゃないか? 神が動くくらいの事が起らない方が平和だ」
「今のこの状況が平和? 笑わせないでよね」
まぁ、そうだよな、目の前で巫女2人が激しく斬り合ってるし。
いつ頃に仲裁に入ろうかな、折角だしもう少し2人の戦いを見てみたいような気がするし。
と言うか、なんかこいつらの戦いは安心出来るな、お互いが達人級に強いから。
「ほ、ほんまこんなにおもろい戦いは久々や!」
「うっさい! 私は全然面白くないわ!」
「ええやないか、そない嫌がらんでも、ほら、減るもんやあらへんし?」
「減るわ! 私の体力とかが減るわ!」
あぁ、うん、そろそろ止めた方が良いな。
そうしないとどっちかが死ぬかも知れないし。
「茜、そろそろ止めるか」
「え? と、止めれるんですか? お姉様と水菜さんを!?」
「いいから、ほら、俺を降ろせって」
「は、はい」
そして、俺は茜に降りて、お祓い棒と刀を抜いた。
「そりゃぁ!」
「この!」
「はい、そこまで、いい加減にしないと神社が傷つくから」
「「な!」」
俺は葵の刀を、俺が作った刀で止め、水菜の小太刀をお祓い棒で叩き落とした。
「あ、茜! うそ! そんな!」
「う、うちが小太刀を落とされたやと! そんな馬鹿な!」
「まぁ、お前らの戦いを見るのも面白いが、ここは一応神聖な神社の境内だ、あまり暴れるな」
「あ・・・あり得ない、茜にこんな力があるわけがない! それに、雰囲気も全然違う!」
2人は酷く動揺している、まぁ、うん、茜に降りているこの状況だ。
2人から見たら小さくて力が無さそうな華奢な少女が自分たちの全力を軽く捌いたって感じだしな。
そりゃあ、動揺もするだろう、特に今までの茜を知っている葵はな。
「私の全力の一撃を片腕・・・それに、口調・・・あなたは一体!」
「そうだな、見た目は四宮 茜、そんで実際今その体を動かしているのは
四宮 圭介、この神社の神様やってる」
「四宮・・・圭介? まさか、さっき茜の近くに居た・・・」
「よく覚えてるな」
そして、俺は茜の体から出た。
「あ、あれ?」
「そう、あなたがこの神社の神様・・・恐ろしい力を持っているわね」
「ま、強力すぎて茜に降りないと使えないがな」
「圭介様を降ろした私は最強です!」
普段特に威張ることがない茜が、葵に背を向け、珍しく腰に手を当ててそう言った。
まぁ、何故そうしたのか、その理由を俺はすぐに理解することが出来た、ま、先代も分かってるだろう。
茜の奴、あんな格好しながら、泣いてやがる。




