大晦日の前日
クリスマスが終わって、もう5日か。
今日は大晦日だな、神社の神様として、忙しい日が来る2日前だ。
それにしてもだ、今日はまだ30日なのに、参拝客が多いな。
「ひぃ~、もう次の参拝客がぁ!」
「大晦日でも無いのにな」
「そうですよぉ! 普通は明日忙しくなるじゃないですか!?」
「待ちきれなかったんじゃ無いか? あれは絶対に明日も来るぞ?」
「ひぃ~、忙しいですぅ~!」
普通、神社に参るのは大晦日だろうに、待ちきれなかったからって気が早いな。
それで、殆どの人が大晦日にも来るから、と言い、帰って行った。
「はぁ、はぁ、そ、そろそろ落ち着いたはずですよな?」
「そうだな、さっきと比べれば減ったか」
「でも、まだ来るんですね、ふぅ、頑張ります!」
そして、茜は必死にお祓い棒を振っている。
数が多いとこういうときに大変そうだな。
ふむ、さて、山明神社も大変なんだろな。
・・・しかし、水希はちゃんとやれてるんだろうか? 何だか心配だな。
そして、参拝客の足取りも少なくなり、ようやく茜に休憩時間がやってきた。
「はぁ、はぁ、つ、疲れましたぁ・・・」
「お疲れさん、頑張ったな」
「はいぃ・・・頑張りましたぁ・・・」
「じゃあ、ゆっくり休んでろ、夜にまた忙しくなるから」
「はい、そうしますね」
茜はそう言い、自分の部屋に帰っていった。
どうやら寝るようだな、まぁ、それが良いだろう。
でも、その間に参拝客が来たらどうするか、でも、茜は疲れてるし、そん時はそん時だ。
「茜は結構しんどそうね」
「あぁ、そうだな、ってか、なんでここにいる?」
睦月が茜から離れてここまで来ている、こいつはそんなに離れることが出来なかったはずだが。
「そうね、何だか最近ちょっと遠くまで動けるようになってね」
「前も何だか少し遠くに移動していたな、いつからだ?」
「サラと四季が生まれた頃ね、その頃から少し遠くに動けるようになったわ」
「ほう、そうか」
「いま、あたしの話をしたか!?」
睦月の声が聞えたのか、サラが大広間にやってきた。
そして、一緒に四季も来た。
いつも一緒に行動しているな、あの2人は。
でも、まぁ、好都合だ、折角だし茜の代わりをやって貰おう。
「あぁ、実はな、お前に茜の代わりに居て欲しいところがあるんだ」
「何処!?」
俺は四季に言い、サラに茜の巫女服を着せて貰った。
俺がやるのは色々と問題があるからな。
「うぅ、難しいですぅ」
「じゃん!」
そして、出てきたサラが来ている巫女服はかなりぐっちゃになっていた。
うん、四季なら着付けが出来ると思ったが、やっぱり無理だよな。
仕方ない、俺がやるか。
「よし、じゃあ、俺が着付けてやる」
「すみません」
「いや、大丈夫だ」
「あはは、くすぐったい!」
「暴れるな」
俺はかなり暴れるサラに何とか巫女服を着せることに成功した。
うん、意外と様になっているような気がする。
身長が茜と似ているからかもな、と言うか、似てないと着せれない。
久里は着られるみたいだが、あれは化けているから何だろうか?
まぁ、それは良いか。
「よし、じゃあ、茜が座ってる場所に座っててくれ」
「分った!」
「あと、これお祓い棒だ、持っててくれ」
「うん!」
俺はサラに参拝客が来たらどうするかを軽く告げ、普段通り、神社の大広間で和菓子を食べる事にした。
でも、普段みたいに安心出来ないな、茜があそこに座ってるときは落ち着けるのに。
やっぱり、何だかんだで、俺は茜を信頼しているんだろう。
「サラ、上手くやれるかしら?」
「もしもの時に四季にも軽く教えているし、多分大丈夫だろう」
「そうね、それにしても、朝で、なおかつ大晦日前なのにすごい数よね」
「それだけ信仰心が復活したって思えば良いもんだろう」
そして、少し経ち、やっぱり参拝客がやってきた。
サラはしっかり出来るだろうか、不安だな。
「ん? あぁ、こんなこいましたっけ?」
「おぉ、ていてい!」
「あはは、可愛いですね、あ、そうだ、神様はいらっしゃいますか?」
「おぉ、大広間にいるって言ってた!」
「ありがとうございます」
参拝客と話をしているな、てか、俺の所に来るのか、誰だ?
「いやぁ、久し振りですね、蓮ですよ」
「ん、あぁ、随分と久々だな、何ヶ月ぶりだ?」
「3ヶ月位だったかな、覚えてませんね」
「そうか、それで、良い恋人は見つかったか?」
「いやぁ、それが見つからないんですよ」
「そうか、見つかれば良いな、恋人」
「そう思うんなら縁結びのお守りを下さいよぉ、今までここに来てもお守りもありませんでしたし」
そういえば、今までお守りや熊手は作ってなかったな。
「あぁ、大丈夫だ、来年からは熊手とか売るから」
「本当ですかぁ? じゃあ、お正月に買いに来ますね」
「あぁ、そうしろ」
「それでは、お父さんも来てるし、私は戻りますね!」
そう言い、蓮は階段を降りていった。
うん、何だかあいつを久し振りに見たな。
祭りの時には来てるのに、それ以外だと全然だしな。
でも、サラの最初の相手があいつで良かった。
それから、もうしばらくすると、今度は花木達がやってきた。
「あ、花木じゃん!」
「ん~? あぁ、サラちゃん~、今日はあなたが巫女さんなんだね~」
「そうだよ! 今日はあたしが巫女! 茜は休んでる!」
「今日は色んな人が神社に行ってたからね~、大変だったんだろうね~」
「茜ちゃん、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だって、あの子ああ見えて頑丈だからさ!」
「そうよ、それに、羽衣より優秀よ」
「さらっと私を貶さないでよぉ」
やっぱりこいつらは騒がしい、それに、今日は花木とこの3人だけじゃ無くて、他の兎もいるな。
「今日は随分と早いな、どうしたんだ?」
「今日はここでお餅を突こうかな~って思ってさぁ~」
「ん、あぁ、そういえば、餅つきをしてなかったな」
「そうそう~、だから今日はここでお餅つきをしようよ~、境内は広いからね~」
「まぁ、それは良いが、言っておくが餅米なんて準備してないぞ?」
「そこは大丈夫だよ~、私達が持ってきてるからさぁ~、準備もちゃんとしているよ~」
「準備って、何処にも無いじゃないか、杵も臼も無いし」
「それは、大丈夫だよ~、ちょっと待っててね~」
そして、花木は下の方を見た、折角だ、俺も見てみよう。
「ん?」
そこには久里達、化け狸が杵や臼を運んでいた。
「花木! あんたが言い出したんだ! 少しぐらい持って欲しいんだけど!?」
「分ってるよぉ~、じゃあ、羽衣、兎梨、卯実、この子達を神社に連れて行ってあげてね~」
「分りました!」
そして、羽衣達は、連れてきた兎を神社の中に逃がした。
「待っててね~」
「早く来てくれよ、しんどいんだからさ」
花木は階段を降り、久里と協力して杵と臼を持って上がってきた。
そんで、餅米を炊くための材料も、準備が良いな、まぁ、餅つきはこいつら妖怪兎が最も輝く所だしな。
「それで、餅つきをするのか?」
「そうだよ~、お餅が無いとお正月が寂しいからね~」
「それもそうだな」
そして、俺達が餅つきの準備を進めていると、少し大きな音が聞えた。
「っと、ほら、着いたわよ」
「ありがとう!」
「良いわよ、これ位」
その音のする方を見てみると、時音が文月山の妖怪達を引き連れてやってきていた。
「時音? 随分と数が多いな」
「ん、しつこかったのよ、だから各々の勢力の代表に来て貰ったわ」
「親分様ぁ! お久しぶりでございますにゃぁ!」
「あ、チャイムか、お前も来たんだな」
「うぅ、あれから何ヶ月、ずっと親分様が来ないので不安になっていたのですにゃ
まさか忘れられたのかと思って、僕は少し怖かったですにゃ」
チャイムはそう言い、俺に頬を擦り付けてきた。
最初にあった頃は攻撃してきたのに、今は懐いているな、飼い猫みたいだ。
「忘れないって」
「うぅ・・・」
「本当に心の底からそう思ってるのか、流石は神だ、変なのに好かれるな」
「心桜、お前も来てるのか」
「あぁ、1度、こっちの神社に行ってみたいと思ってたんだ」
「そうか」
それにしても、これだけ揃うとすごいな。
「人間嫌いのお前も来るのか」
「に、人間は嫌いだけど、お前達は別だ、うん」
「そうか、後、お前の名前って聞いてないよな?」
「あぁ、そうだった、私は耶麻と言うんだ」
「そうか、耶麻か、ふーん」
「神様、神様、私も久し振りだよね?」
河童の里で俺達を案内してくれた女の子か。
「あぁ、久し振りだな」
「うわぁん、親分様ぁ!」
「はいはい、分ったから泣くな」
「あはは、やっぱりすごく人気なんだね、流石は神様!」
「そうだ、お前の名前も聞いてないよな、なんて言うんだ?」
「私は香奈って言うんだ!」
「そうか、香奈か、覚えやすいな」
香奈、耶麻、これで今まで名前が分らなかった奴は全員分ったかな。
しかし、チャイムはずっと泣いてるし、水希はすぐに茜の所に行くし。
くるみはサラと騒いでるし、これは大変なことになりそうだな。
それにしても、これじゃあ完全に妖怪神社だ、まぁ、普通に人も来るし、大丈夫かな。
次回は賑やかな四宮神社の、騒がしい餅つき大会のお話です。




