巫女の修行
妖怪兎が挨拶に来た次の日、今日も俺は茜の修行の手伝いだ
こういうのは普通先代が行うべき行動だと思うんだが
四宮の巫女が行うべき行動にも次代の巫女の修行って書いてあるしよ。
まぁ、意外と楽しいから良いんだけどな。
「圭介様! 今日も瞑想ですか?」
「あぁ」
「分かりました!」
茜は瞑想を始めた。
因みに今は早朝の4時、今までの俺の生活からは想像も出来ないが
結構早寝、早起きは楽しいもんだ、寝るときも8時には寝てる。
「・・・」
「あと少しで30分だ」
茜はかなりの間集中している、昨日までは殆ど出来てなかったのにな。
「よし、30分だ」
「やったぁー!」
「すごい成長だな、昨日までは15分しか出来なかったのに」
「実は暇があったら瞑想してたんですよ」
「そうか、頑張ったな」
俺は頑張ったご褒美と言う事で、茜の頭をゆっくりと撫でた。
「えへへ」
かなり幸せそうな表情で無邪気に笑う茜を見ているとこっちも
幸せな気分になる。
まぁ、この修行は基本中の基本なんだけどな、一番簡単な内容だし。
「よし、じゃあ、次だ」
「え? まだあるんですか!?」
「あぁ、次は薪割りだ」
「薪割りですか・・・やったことないなぁ」
この世界には電気がない、その為風呂は薪を使って沸かすしかない。
「その割には結構沢山薪があったが?」
「あれはお姉様が、すごいんですよ!1回で全部の薪を割るんですから!」
「え? 同時にか?」
「はい、全部同時にスパンと!」
先代の巫女が本当に人間なのか怪しくなってきたな、普通に人間の能力超えてるし。
「本当に斧を使ってたのか?」
「斧?違いますよ、四宮神社の刀を使ってました」
「四宮神社の刀って、神聖な物なんじゃないのか?」
「あれは四宮の巫女が携える刀ですし、問題ないと思いますよ?」
きっと四宮の巫女は肉体派が多いんだな
その内茜も肉体派になるんだろうか…そ、想像できないな…
まぁ、かなり先の話になりそうだが
どっちにせよ四宮の巫女は人間離れしてるってのが分かった。
「じゃあ、斧はあるか?」
「斧はありますよ、確か物置にあったはずです」
「よし、じゃあ、取りに行くか」
俺と茜は四宮神社の物置に入った、そこには普通の斧が1本、折れている斧が5本あった。
「なんか折れてるのが沢山あるぞ?」
「お姉様が折ったそうですよ、簡単に折れるから困ったって言ってましたし」
本当に先代は人間なんだろうか、普通そんな簡単に斧は折れないと思うが。
「じゃあ、この斧は何で無事なんだ?」
「この斧は私用にって取っていてくれたそうです
手入れもしっかりしてますよ、まぁ、今まで忘れていたんですけどね…」
「ふーん、そうか」
とりあえず俺達はその斧を持って、外に出た、割れてない薪もそこそこあった。
「よし、じゃあ、まぁ、やってみてくれ」
「出来るかなぁ、えい!」
茜が振り下ろした斧は薪を割ることは出来ず、斧は薪に引っ付いた。
「うぅ、と、取れない…!」
「俺が取ってやる」
俺は薪と斧を簡単にはがせた
まぁ、茜は子どもだし女の子だしな、力がないのは当然か。
「ほら」
「すみません、良し!今度こそ!てい!」
まただ、また割れなかった、茜はその後何度か繰り返したが結局割れなかった。
「はぁ、はぁ、こ、今度こそ!てりゃー!!」
茜が全力で叩き付けた斧は思いっきり遠くに飛ぶタイミングで茜の手をすり抜け
四宮神社の奥の森の中に飛んでいった。
「うわ!!」
「誰の声だ?」
俺は声がする方に近づいた。そこには昨日の妖怪兎がそこにいた。
そして、その妖怪兎の目の前の木に茜の手から逃げた斧が刺さっていた。
「あ、危ないじゃないか! 何? 私の事嫌いなの!?」
妖怪兎はぷんすか怒り始めた。まぁ、当然だよな、あと少しズレていたら死んでるからな。
「いや、これは事故だから」
「事故?」
妖怪兎に茜の修行の事を伝えた、なんで妖怪に伝えなきゃいけないのか分からないが
こいつは危うく死ぬところだったし、仕方ないか。
「へぇー、薪割り、私もやってみたい!」
「別に良いが、てかなんでお前はこんな早朝からここにいるんだよ!」
「私兎たちの頭領になっちゃってさ、しんどいんだって
だからここが一番落ち着くの」
参拝客はあまり来ないのに、こういう妖怪は来るってのはどうなんだろうな。
まぁ、悪さをしないんなら問題は無いんだけどな。
「ふっふっふ、薪割り、行くよ!」
「大変だよ?出来るの?」
「大丈夫!私は妖怪だから!」
妖怪兎は薪を見事に割って見せた、そして、バキ!と言う音と共に斧も折って見せた。
「あ・・・」
派手に折れた斧は高く跳ね上がり、妖怪兎の近くに落ちてきた。
「危な!」
「おい、どうすんだよ、もう斧無いぞ?」
「どうしましょう」
「え、せめて心配してよ!」
妖怪兎は顔を真っ赤にして大声で怒鳴った、そして、俺と茜は同時に同じ言葉を放った。
「「だって、妖怪だし」」
「妖怪でも刺さったら痛いんだよ!」
妖怪なら痛いで済むのか、流石は妖怪だな、人間だったら間違いなく死ぬと思うが。
「なんだか日に日に2人の態度が酷くなってる気がするんだけど」
「お前が来るたびに馬鹿なことをやらかすからだろ?」
「酷い!もう帰る!」
「あ」
妖怪兎は縁側で顔面から思いっきりずっこけた。これは痛いだろうな。
「おい、妖怪兎、大丈夫か?」
「い、痛い、人間の体は便利だけど不便だね…あと、妖怪兎はやめてよ」
「妖怪兎さんを妖怪兎の他にどう言えば良いの?」
「そういえば他の兎には頭領様としか呼ばれてないなぁ、うーん」
「はぁ、もう花木で良いんじゃないか?」
この名前はなんか、柿が出てきたから適当に言った。
「花木! なんか良いね! よし! 今日から私は花木だ!」
「圭介様、もしかして柿が元ですか?」
「あぁ」
俺と茜は小声で話をした、耳が良い兎でも聞き取れてないようだ
もしかしてそれだけ嬉しいのか? 適当だったんだがな。
「それじゃあ! 私はさっさと戻って兎たちに行ってくる!」
花木は全力で走り出した、しかし、その時に参拝客とぶつかった。
「きゃ!」
「ご、ごめんなさい、大丈夫?」
その参拝客は昨日必死に彼氏が欲しいと言っていた人だった。
「・・・あ、かっこいい」
「へ?」
その女の人は花木を見るなり嬉しそうな表情をした。
「その斬新なヘアスタイル!そしてその目の色!
服装が女の人みたいだけどもうこの際女の人でも良い!
付き合ってください!」
「え? え? えぇーー!!??」
女の人はなんの躊躇いも無く花木に告白した。花木は女だし、それに妖怪なのにな。
「えっと、あの女の人願いが叶ったんでしょうか」
「彼氏じゃないが、まぁ、良いんじゃないか?」
俺達は、まぁ、良いかと言うことにして戻ることにした。
しかしそれに気付いたのか花木は焦りだした。
「待って! ちょ! 置いてかないで!」
「何処に行くんです! 返事! 返事をお願いします!」
「わ、私は女だよ!? 無理無理! 付き合うなんて無理だって!」
「大丈夫です! 問題ありません!」
「神様~!助けて~!」
「呼んでますよ?」
「聞こえない、何も聞こえない」
なんか、関わったら面倒な事になりそうだし。
「その、圭介様・・・助け船を出した方が良いんじゃないですか?」
「・・・確かにそうだな」
「さぁ!来てください!」
「あっと、どうしてそんなに彼氏が欲しいんだ?」
つい声をかけてしまったが、考えてみたら俺は普通の人間には見えないんだったな。
「両親が見合い見合いうるさいからです!」
どうやら俺の事が見えてるようだ、なんか力があるんだろうな。
「だそうだぜ、1日付き合えば?」
「そんな無責任な!」
「見合いの時に男になりすましたらいけるって」
「じゃあ、あなたがすれば良いじゃないか!」
「俺は普通の人間には見えないんだよ」
「あ!忘れてた!」
俺はなんとか必死に花木を説得し、見合いの時に男装して両親に会う事にしたようだ。
てか、こいつに男装なんて出来るのか?まぁ、大丈夫か。




