さて、登山を始めよう
突如四宮の結界内に現われた大きな山、そこには人はおらず、妖怪だけがすんでいた。
そんな山が存在しているとはな、俺と茜は依頼を受け、その場に行くことにした。
俺は茜が心配だからついて行ってるだけだが。
「妖怪しか居ない山ってどんな感じなんでしょうね」
「さぁな、結構な危険地帯じゃないか? 山と言ったら天狗とか聞くし」
「そういえばいましたね、そんな妖怪が」
そういえば山で起こる神隠しってって大体天狗のせいとかにされる気がするな。
だとしたら茜が狙われる可能性が無くはないかな。
「天狗ね、私が生きてた頃は良く子どもを攫ってたわ」
「子ども限定なのか?」
「そうよ、子ども限定」
「あれ? だとしたら私って危なくないですか?」
「そうね」
「そうだな」
俺と睦月は同時に声を発した、考えることは同じようだな。
だが、タイミングまで一緒になるとは、驚いたぜ。
「・・・私、山に行くの止めようかなぁ・・・」
流石に少しだけ怖くなったのか、茜が暗い表情でそう言った。
「まぁ、大丈夫よ、圭介もいるし、私もいるから」
「そ、そうですよね! 弱気になったら駄目ですよね!」
この一言だけで、茜のさっきまでの怖がっていた表情は消えた。
それだけ睦月の言葉で安心したんだろう。
それからしばらく歩き、俺達は山の近くまでやってきた。
村からも結構離れていて、片道で4時間くらいは掛かったと思う。
これは、少し多めに食料を持ってきていて正解だったな。
「さて、そろそろか」
「じゃ、行きましょうか」
「大丈夫、1人じゃ無いし・・・」
茜は自己暗示をするように真剣な表情で何度か自分に言い聞かせていた。
まだ不安は完全に拭えていないって言う証拠だろう。
「で、最初の目的地とかはどうするの?」
「あぁ、山の入り口当たりに神社があったからな、まずはそこだ」
「この山にも神社があったんですか!?」
「あぁ、すごく寂れてたな、それに誰もいなかったし、拠点としては丁度良いだろ?」
「うぅ・・・でも、よその神様の神社に行くなんて・・・なんだか」
茜の言いたいことはまあ分かる、確かに他の神様が他の神社に入るのは失礼かもしれないしな。
だが、ここを拠点にしなかったら、このデカい山を全て回るのは不可能だろう。
とりあえず、今は茜を説得しようか。
「茜、ここを拠点にしないとお前は何も無い場所とかで寝ないと駄目だぞ?」
「え? い、1日で終わったりはしないんですか?」
「無理でしょうね、こんな大きな山だもの」
「じゃ、じゃあ、近くの宿に泊まるとか?」
「毎度降りるのも大変だし、そもそもここら辺に宿は無い、結構村からも離れてるしな」
「うぅ・・・」
俺達に説得を受け、茜はしばらくの間うつむいて迷っている。
そして、少し経ち、ようやく顔を上げた。
「わ、分かりました・・・」
「よし、じゃ、目的地はそこだな」
「そうですね」
俺達は結構な道も無い、山の中に入っていった。
神社もあるし、もっと整っていてもおかしくないが、どうやら一切人の手が入ってないようだ。
「うぅ、歩きにくいです」
「まぁ、山だからな、仕方ないだろう」
「まぁ、私は全く問題は無いんだけどね」
「お姉ちゃんは幽霊だから」
「こういうとき、空を飛べるのは便利だよな」
「あなたも神様だし、飛べるんじゃ無いの?」
言われてみればそうだよな、俺は神様だし、空くらい飛べるかも?
でも、飛び方も分からないし・・・・・・よし、こういうときはとりあえず念じてみるか。
「お? 体が軽いぞ?」
「あぁ! 圭介様も飛んでます!」
俺は空を飛んでいるようだ、それに、結構動くのも簡単だな。
行きたい方を念じてみると動ける、これは便利だな。
「うぅ・・・羨ましいなぁ・・・」
「そうか?」
俺はゆっくりと地面に着地した、どうも空を飛んでいるとしっくりこない。
やっぱり地面を歩いて移動する方が俺には合ってるな。
「なんで降りたんですか?」
「落ち着かなかったからな、やっぱり移動は歩く方が良いもんだな」
「変わった神様ね、まぁ、今に始まったことじゃないけど」
多分、ここに来る前の癖だろうな、神様じゃ無くて人間として生きてた頃のな。
まぁ、神様になってからの3年間もずっと歩いてたけど。
「じゃあ、一緒に歩いて行きましょう!」
「そうだな」
「・・・私も歩ければ良かったわ」
そんな会話をしながら俺達は先に進んでいった。
意外と近いと思っていたが、結構遠いな。
その間に妖怪に襲われなかったのは良かったが。
「そろそろだ」
「はぁ、はぁ、し、しんどいですぅ、何で圭介様は平気そうなんですか?」
「これくらいはよく歩いてたし」
「そうなんですか?」
「あぁ」
まぁ、神様になる前の話だがな、神様になってからはあまり歩いてないし、体は動かしてたが。
「よし、ここだ」
「意外とボロボロね、3年前の四宮神社より酷いわ」
その神社はかなりボロボロだった、神社にはかなりぼろが出てるし、鳥居にはかなりヒビがあった。
色もかなり薄れて、殆ど白だ、よく今まで倒壊しなかったな。
「あ、あのぉ、わ、私達はこの神社に泊まるんですか?」
「そうだな」
「何か幽霊とか出てきそうなんですけど!?」
「そうね、確実に出るわよ?」
「や、やっぱり出るんじゃ無いですか!?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
その言葉を聞いて、俺と睦月は黙り込んでしまった。
こいつは今更何を言ってるんだと。
「お前、何言ってんだ?」
「だって! 幽霊ですよ! 怖いじゃ無いですか!」
「あら、怖いのね、結構酷いのね」
「何で?」
「あ、あの、茜、私の種族知ってる?」
「お姉ちゃんの種族? あ、そうだ! お姉ちゃんは幽霊だった!」
あぁ、今まで記憶からすっ飛んでいたのか。
本当、こいつは大丈夫か? 少しだけ心配になってきた。
「だから、大丈夫でしょ?」
「う、うん」
茜はあまり表情は変わっていなかったが、多分反論できなかったからだろうな。
そして、俺達は神社の境内に入った、すると神社の中から声が聞えてきた。
「あ! 侵入者! 侵入者は排除する! 覚悟ぉー!」
「何だ!?」
神社の奥から白い髪の毛で紅い目をし、白と緑の巫女装束を着た女の子が出てきた。
それにしても、髪の毛はボサボサで体中傷だらけ、髪の毛はただ長く伸びている。
服もボロボロで、かなり痛んでいるのが分かる。
「何か、明らかにかわいそうな子が出てきたな」
「てーい! 覚悟ぉ・・・・・・あ」
女の子は大きなお腹の音と共に倒れた。
「だ、大丈夫ですか!? うぅ、何だか臭いますね・・・」
「これは、洗濯もして無さそうだな、かなり泥だらけだし・・・」
この子はお風呂にも入っていないようだ・・・よくこんなんで生きてたな。
仕方ない、飯くらいは食わせてやるかな。




