大きな山
妖刀の妖怪の炭地獄がようやく終わった。
かなり沢山あった炭は全てこいつの胃袋に入った。
まぁ、その後すぐにこいつは意識を失ったがな。
「美味しかったですか?」
「いや、もう意識はないぞ?」
「そうなんですか? そんなに美味しかったんだぁ」
不味くて意識を失ったって言う考えは茜にはないようだ。
ある意味幸せな性格してるな、こいつは。
「よし、次も私がお料理を!」
「いや、次は俺が作る」
「何でですか?」
「お前は修行があるだろ?」
「そうですね」
「だから俺が作る、俺はあまり仕事はないしな」
と言ったが、仕事はかなりあるんだけどな。
まぁ、こうでも言わないと茜が傷つくだろうし。
それに、こいつも本当に死んじまいそうだしな。
「分かりました、では、お料理はお任せしますね」
「あぁ、任せろ」
どうやら納得してくれたようだ。
「それじゃあ、今日は何をしますか?」
「そうだな、じゃあ」
「巫女様はいらっしゃいますか?」
俺が依頼の内容を伝えようとすると、丁度誰かがやってきた。
息も結構荒れてるし、急ぎの用事だろう。
「どうしました?」
「依頼があります! 突如大きな山が現われたのです!」
「え? 大きな山ですか?」
「はい!」
大きな山か、ここからだと見えないが、何処のことだ?
俺は気になり、少しだけ外を見渡してみた。
すると、確かに巨大な山が見えた。
「あ、本当だ! あんな大きな山は初めて見ました!」
「でしょう!? どうにかあの山を調べてくれませんか?」
「分かりました、お任せください!」
ふむ、いきなり大きな山が現われるか、結界が広がってるからってのは分かる。
だが、いきなり出てきたりするだろうか?
結界の事をまだよく知らない俺には分かりそうにないな、ここは茜に任せてみるか。
・・・そういえば、俺はこの世界を見ることが出来たっけ、久々にやってみよう。
「え? どうしました?」
「少し集中する」
「そういえばそんな力がありましたね」
「あぁ」
俺は意識を集中させ、山の方に視点を飛ばした。
その場所は普通の山と大差なく、軽く見た程度だとただの大きな山だ。
しかし、注意深く見てみると色々な妖怪がいた。
山の裏には大きな建物がいくつかあり、その中に動物の妖怪。
その他に頭に角が生えた人間、黒い牙のある化け物、空を飛ぶ鳥のような人間。
明らかに妖怪だらけの山だな、こんな場所に茜がいけるわけがない。
「これは、不味いかな」
「どうしたんですか?」
「茜、ちょっとこっち来い」
「へ? はい、あの依頼は受けますので」
「はい、では、私は戻って村の人達に話してきます」
「お願いします」
茜は挨拶を軽く終えると、こっちにやってきた。
「どうしたんですか?」
「あの山は妖怪だらけだ、お前だけじゃ危ない」
「妖怪だらけなんですか!?」
「あぁ、色々といたな、凶暴そうな奴もかなり居たし」
「・・・・・・私、大丈夫でしょうか」
茜は少し震えだした、流石に怯えているんだろう。
まぁ、無理もない、何てったって妖怪だらけの危険な山だ。
「そうだな、死ぬんじゃないか?」
「で、ですよね、うぅ、でもやると言った以上やらないと・・・」
「そうだな、あ、俺も付いていくぞ」
「本当ですか!?」
「あぁ、それじゃ、花木が来るまで待つか」
「何でですか?」
「妖刀の妖怪、キャン、キキ、サラ、四季の面倒を見て貰わないといけないしな」
そして、俺達はしばらくの間神社で待つことにした。
俺はその間、全員の晩飯を作っていた。
結構手抜きだが、まぁ、茜の料理よりはマシだろう。
「私も手伝いましょうか?」
「いや、良い、それよりもキャンとキキの飯を用意してやってくれ」
「はーい」
それにしても、5人分の飯を作るのはやっぱりしんどいもんだな。
まぁ、花木達の分を合わせると8人分になるがな。
「はい、キャン、キキ、ご飯だよ」
「キャン!」
「おぉ、食いしん坊だね」
「キュゥン」
キャンが飯を食っている間に、何故かキキは俺の方にやってきて、俺の足に引っ付いた。
「何だ? キキ、お前も速く食いに行けよ」
「きゅぅ・・・」
「何だよ、この料理が食いたいのか? これは動物用じゃないぞ」
しかし、それでも離れようとしない、どうしたんだ?
「圭介様、多分キキは圭介様に食べさせて欲しいんだと思いますよ?」
「何で?」
「懐いてるからだと思います」
ふむ、そういえば俺はキキやキャンの相手をしてないな、たまには良いか。
「分かった、ほら」
「きゃう」
俺が飯をやると、キキは元気よく食べてくれた。
しかし、キャンは茜に懐いてて、キキは俺に懐いてるのか、何でだろうか。
こいつらの相手は基本的に茜がやってるから、キキも茜に懐きそうなもんだがな。
まぁ、良いか、嫌われるよりは断然良いしな。
「さて、こっちも出来たっと」
「美味しそうな匂いがしますね」
「よし、これをあいつに食わせて、俺も食うか」
「私も行きます」
「茜はサラ達を呼んできてくれ、その後は花木が来るまで少し待ってろ」
「分かりました」
どうせあいつの事だこんな物食わない! とか怒鳴りそうだよな。
まぁ、丁度良い脅し文句もあるし問題は無いだろうが。
「ほら、飯だぞ」
「ぐぅ、こんな物食わない!」
あぁ、予想通りの返答だな、わかりやすい奴だ。
「そうか? じゃあ、飯の世話は全部茜に任せよう」
「あ、あの巫女か!?」
「そうだぞ? 俺の料理は食わないんだし、仕方ないよな」
「う、うぐぅ・・・、わ、分かった、食べる! 食べるからそれは止めてくれ!」
「何でだ? 無理しないで良いんだぞ? 茜の料理は俺の料理よりも美味しいだろ?」
「い、意地悪言わないでくれ! 頼む!」
これは、相当応えてるな、まぁ、結果オーライって奴だ。
これでこいつは普通に飯を食うだろうな。
「じゃあ、口を開けろ、食わせてやる」
「ぐぅ・・・分かった」
「よし、素直だな、最初からこうだったら良かったのに」
「むぐ」
俺は妖刀の妖怪は素直に飯を食ってくれた。
「お、美味しぃ・・・」
そして、その飯を食ったこいつは、何故か少しだけ泣き出した。
それだけ嫌な思い出だったんだろう。
「ほら、次だ、素直に食えよ」
「分かった・・・」
そして、妖刀の妖怪は俺の飯を全部平らげた。
勘違いかもしれないが、こいつの警戒心が少しだけ解けた気がする。
まぁ、勘違いだろうが。
「それじゃ」
「・・・・・・」
そして、俺はいつも飯を食ってる場所に入った。
そこには花木とその傘下の3羽が座っていた。
「あぁ、来てたのか」
「来てたよ~」
「圭介さん! 速く食べましょう!」
傘下の3羽はとてもテンションをあげ、そう言った。
さて、それじゃ、俺も飯を食うかな。




