妖刀の心
茜は昨日、妖刀の妖怪の退治に奮闘した。
その結果、無事に退治することは出来たんだが、何故か殺したくないという。
仕方ないし、俺はその妖刀の力だけを封印し、神社に置くことにした。
ただ、そのせいで朝っぱらからうるさいことになった。
「殺せ! 何でこんな惨めな姿で生きないといけないんだ!」
目を覚ました妖刀の妖怪は朝からずっとこの調子だ。
殺せなんて、侍じゃあるまいし・・・あぁ、そういえばこいつは刀の妖怪だっけ。
だとすると、こいつは本質的には侍なのか?
「ですから、私達はあなたを殺す気はありませんから、落ち着いてくださいよ」
「黙れ! 私はこんな惨めな姿で生きたいとじゃ思わない! こんなの、妖怪の恥だ!」
はぁ、ヤレヤレ、妖怪の恥って、多分それだけ古風な妖怪なんだろう。
「ふーん、随分と人間っぽい妖怪だな」
「なんだと! 私が人間っぽいなんてふざけた事を言うな!」
「お前は自分で死を求めている、それが人間みたいだって事だ」
「なに!?」
「あはは、確かにそうだね~」
花木がようやく話に入ってきてくれた、相手が妖怪だと妖怪が説得した方が良いだろうしな。
「妖怪は生きることを望む物だよ~、特に人間を目の敵にしている妖怪はね~」
「どういうことだ!?」
「人間に敵対する妖怪は存在するだけで人間の圧力になるんだよ~
だから、人間を制限する役目の妖怪は生きることを第1の目的にするんだよ~」
「ふん! そんなの知らない!」
どうやら花木の説得でも駄目のようだ。
全く、強情な奴だ。
「あはは! 新しい人だ!」
「うわ! 止めろ! 離せ!」
俺達が会話をしていると、サラが乱入してきた。
こいつは空気なんて読めないし、仕方ないが。
「だ、駄目だよ! 知らない人にくっついたら!」
「良いじゃん! あなたも圭介が好きなんでしょ!?」
「圭介? まさか! この神か!」
「そうだぞ」
「ふざけるな! 誰が神なんて好きになる物か! 私は妖怪なんだぞ!」
「え? 妖怪って皆圭介が好きなんじゃないの?」
「そんなわけあるか!」
サラがそう思うのも無理はない、なんたってこいつの身近の妖怪は俺に何かと構ってくる。
まぁ、どういうわけか知らないが、気に入られてるのは分るしな。
「ふーん、よく分らないなぁ」
「良いからさっさと離れろ!」
「はーい」
サラは素直に妖刀の妖怪から離れた。
こいつがこんなに素直に言うことを聞くのは珍しいな。
「とにかくだ! さっさと私を殺せ!」
「・・・よし、分った」
「本当か!?」
「あぁ、殺さないでおくよ」
「何でだ!」
「ほら、罰とか与えないといけないし、死を望んでいる奴を殺したら罰を与えられないじゃん」
「こ! この!」
とりあえず、俺はこいつを柱に括り付け、身動きを取れないようにした。
こいつは必死に抵抗してはいたが、力は殆ど無く、なんの苦も無かった。
やっぱり、力の源はあの妖刀なんだろう。
「強情な妖怪だね~」
「お前みたいなケースが稀なんじゃないか?」
「かもね~、妖怪は基本的に人間の恐怖とか怯えとかの負の感情から生まれるからね~」
俺はそこまで妖怪に詳しいわけじゃないが、確かに伝承とかでは人間に敵対する妖怪が多い。
鬼とか化け猫とか入道とかその他多数だな。
そう考えてみると、やっぱり花木や久里のような例の方が稀だ。
だが、座敷童とか、たまに敵対しない河童等の人間に敵対しない妖怪もいる。
そこは人間が妖怪をどう見たかによるんだろうな。
「ふむ、じゃあ、やっぱりお前のような例は稀なのか」
「そうだね~、でも。私は昔から人間好きだったって訳じゃないよ~」
「そうなのか?」
「うん、圭介と茜ちゃんに会ってから初めて人間が少しだけ好きになったからね~」
「少しだけ? 村で団子屋さんとかを営んでるのにか?」
「今は大好きなんだよ~、昔は少し距離を置いてたってだけだしね~」
こいつは兎に対するイメージが具現化したんじゃないのか?
月の模様が兎が餅をついているように見えるから・・・
どうやら、0から出来た妖怪以外は少しだけ具現化する前の物の意思も影響する様だ。
そうじゃないと、ほぼプラスのイメージで出来ている花木が人間を好きじゃないわけ無いしな。
全く妖怪って奴はよく分らない・・・だが、この話で可能性は見えてきた。
「じゃあ! もしかて根気よく接したらあの子も人間の事が好きになるかもしれませんよね!」
「そうだね~、可能性はあると思うよ~」
あぁ、どうやら茜も俺と同じような考えだったみたいだな。
「じゃあ! 今度から根気よく接していきます! ね! 圭介様!」
「ん、そうだな、じゃあ、頑張ってあの妖怪の心の壁に穴でも開けるか」
「はい!」
さてと、新しい目標が出来たな、あの妖怪の心の壁に穴を開けるのは簡単じゃ無さそうだが
でも、やってみるしかないか。
しかし、その事と同時に、外の妖怪が入ってきているってのにも対処しないとな。
まぁ、それは久里にも協力して貰うとしよう。
「そうだ、花木も手伝ってくれ」
「もちろん良いよ~、あの妖刀の子に根気よくぶつかれば良いんだよね~」
「あぁ、俺は別件もあって、ずっと付きっきりって訳にはいかないからな」
「大変だね~」
「まぁな」
よし、花木の協力も取り付けた、これでまだ安心だな。
さて、明日から本格的に動くとしようか。




