最初の修行
書庫の書物に書いてあった俺の力。俺が本当にこの四宮神社の神だとしたら扱えるであろう
4つの力、身体強化、悪しき者を祓う力、天候を操る力、この世界の全てを見通す力。
どれも危険そうだが試してみたい気持ちもある。
「うーん、どうするか・・・試すか?」
「何を試すんですか?」
茜が俺の独り言に反応したようだ。結構距離があったのに耳が良い奴だな。
「あぁ、力をだ、俺が四宮の神なら使える筈だし」
「あぁ、そうですね、でも危険なんでしょう?」
「みたいだな、だからあまり影響がないであろう万里の力を使ってみようかなと思ってるんだ」
「確かにそれなら大丈夫そうですよね」
茜はにっこりと笑ってそう言った。きっと茜も俺の力に興味があるんだろう。
俺は万里の力を発動させた・・・ていうかどうやったら発動するんだ?念じてみるか
俺がを念じると真っ暗だった筈のまぶたの裏に映像が流れた。
「・・・ど、どうですか?」
この映像は俺の意思で視点も動き、一定の場所に近寄ったり、離れたりが出来る。
更に音も聞こえる。鳥の鳴き声、人間の会話、植物の音、川のせせらぎも聞こえる。
そして、この景色は昔テレビで見た日本の原風景のような景色だ。
何故かこの景色を見て、涙が出てくるような感覚に陥った、本当に良い景色だ。
「圭介様!?返事してくださいよ!」
「うぐ、み、耳元で大声を出すなよ」
俺は茜の大声で集中力が切れ、元の視点に戻った。
どうやらこの力はそれなりに集中しないと見られないようだ。
「すみません、あ、そ、それで?どうでした!?」
「あぁ、見えたよ、この世界の景色かどうかは分からないがな」
「そうなんですか?でも見えたって事はやっぱり圭介様は神様なんですね!?」
「まぁ、そうなるかもな」
正直あの力が扱えたからって四宮の神だとハッキリと分かるわけではないが
まぁ、少なくともこの能力が扱えたという事は俺はもう人じゃないと言うことだ。
人間でこんな力が扱えたら一大事だしな。
「まぁ、とにかくだ、茜、そろそろ修行をするか?」
「あ、はい!分かりました!頑張ります!」
俺は茜の修行を手伝うことにしている。茜がどれだけ頑張っても1人で出来る事なんて
たかがしれているからな、今は俺が手伝わないと駄目だろう。
「よし、それじゃあ、まずは瞑想だ」
「はい!」
瞑想は目を瞑り、意識を集中させる行為だ。修行云々に瞑想が入ってたからな
まずは簡単なところからだ、そうだな、まずは30分を目指すか。
「まずは30分間瞑想をしろよ」
「さ、30分ですか・・・分かりました」
茜はそう言うと正座で目を瞑った。普通は瞑想と言えば座禅なんだが、まぁ、最初だしな。
「・・・・・うぅ」
「おい、まだ5分だぞ?」
「そ、その、長いことジッとしてるのは苦手で・・・」
「いいから、集中しろ、基本も出来ないんじゃあ他も出来ないぞ?」
「わ、分かってますよぉ・・・」
茜はそう言うと再び目を瞑った。そして10分、茜は再び集中が途切れた。
「おいおい、もう駄目か?」
「瞑想って難しいんですね・・・お姉様が嫌がってたのも納得できます」
「先代は瞑想しなかったのか?」
「はい、修行の書に入ってたのでやってるのか聞いたらあんな面倒なのやらないってと
言ってたんですよ」
「そうか、でも俺が神としてここに居る以上、お前には頑張ってもらうぞ?」
「お、お姉様よりも厳しいです」
甘やかすのは良くないからな、これも修行だ。
これで多分集中力と忍耐力が付くんだろう
何も得られないのに修行のそれに入ってるわけないしな。
「・・・・・・・」
瞑想は長いこと続き、ようやく30分がたった。
「よし、30分だ、もう良いぞ?」
「や、やったぁ!やりきりましたぁ-!」
「よく頑張ったな」
かなり頑張った茜の頭をご褒美として撫でた。
茜はこの撫でられるというのが好きみたいで
かなり幸せそうに目を瞑り、笑いながら受けてくれている。
「えへへ、頑張りました」
まぁ、この瞑想は修行の初級で、その初級を俺が更に簡単にした内容なんだが
こいつがやりきった事実に変わりはない、今日はここら辺にしておくか。
「そういえば茜、お前何か出来ることはあるのか?」
「え?何かって言うと?」
「ほら、あの書物によれば妖怪も居るんだろ?」
「はい、居ますよ、沢山」
「で、お前は巫女だ、依頼とかあるんじゃないか?」
「あると思いますよ?だってお姉様も依頼をやってましたし」
意外だな、面倒くさがり屋だって聞いた先代の巫女が依頼をやってたなんて
でも、もし依頼をやってたんならもうちょっと信仰が集まってるんじゃないか?
「でも信仰は集まってないんだな」
「はい、お姉様は年に1度程度しか依頼をしてませんでしたし
私が見たのも3回だけです」
やっぱり先代はそんな感じなのか・・・道理で信仰が集まってないわけだ。
「良くそんなんで生計が立てられたな」
「はい、それは私も不思議だと思います」
本当に俺は大変な神社の神様になっちまったな。まぁ、最高を維持するよりも
最低を最高にする方が楽な気がするし、まぁ、大丈夫だろう。
「それで、お前は何が出来そうなんだ?」
「えっと、お祓い棒は扱えます、お札も多少はお姉様に見せてもらいましたし」
「それ位か?」
「はい、それ位です」
・・・これ、大丈夫かな・・・いや、こいつはまだ6歳だ! これから成長するはず。
ま、まぁ、それは俺の教育次第のようだが・・・
俺がそんな事を考えていると、1人の参拝客がやってきた。
「す、すみませぬ、こちらの巫女様はおられますか?」
「あ、はい、私がこの四宮神社の巫女、茜と申します」
「まだ子供・・・」
「子供でも巫女です」
「さ、さようですか・・・では、依頼があるのですが」
参拝客は依頼を持ってきたようだが。茜は大丈夫か?
まぁ、依頼の内容次第かな。
「実は最近作物が何者かに荒らされておるのです」
「本当ですか?」
「はい、動物か何かに噛まれておるようなのですが、その動物が捕まらないのです」
「その動物を捕獲して欲しいと言うことですか?」
「はい、もしかしたら妖怪の可能性もありますし」
妖怪の可能性か、ていうかどんな妖怪だよ、作物を荒らす妖怪って。
「はい、お任せください! この四宮茜がその依頼を解決いたします!」
「おぉ! ありがとうございます、ですが、気を付けてくだされ」
「大丈夫です、私は四宮の巫女、大船に乗ったつもりでお任せください!」
茜はなんの迷いもなく依頼を受けた。
まぁ、最初の依頼がこの程度なら良い修行になるか。
俺は茜に任せることにした、なんの障害もなく退治できたら良いな。




