根強い信仰
音時花との里巡りは比較的すぐに終了した。
色々な住民に信仰の話を持ちかけていたが
全て断られて諦めたというのが理由かも知れない。
全部の住民が、俺の信者だからと断ってたからなぁ。
「あかんわ、あの里はあかん…うちが入る隙も無いで」
「そりゃまぁ、圭介のお膝元だしね」
「と言うか、信者を奪おうとしてたんです? 随分とまぁ」
「いやほら、うちは商業の神やし、そこら辺は目聡いんや」
「目聡いと言う割に、信者を1人たりとも確保してませんがね」
「ほら、目聡いっちゅうんは交渉する価値があるかの方の目聡いや
結果まではな、流石に信者のどうこうは詳しくないって言うのもあるんやけど」
商売に関する事には詳しいが、それ以外はあまり詳しくないと。
まぁ、ここに居る奴らは大体そんな感じだし。
「そう言えば、この羊羹団子食べとらんかったな」
「その団子は何処で?」
「花木っちゅう、兎が指揮しとる団子屋でやな」
「な! それは絶品だから食べて!」
「お、おぅ、なんや時江、随分とグイグイ来るなぁ」
そう言い、音時花は団子が入った箱を開ける。
箱の中には5つの羊羹団子が入っている。
羊羹を団子にするという花木のとんでもない発想から生まれた団子。
これがまた美味い。本当、あいつはやれば出来るのになぁ。
「丁度5本やし、皆食べるか?」
「食べる!」
「そう言うの、意外とがめつそうに思えたけど意外ね。
他人に買った物を与えようとか思うんだ」
「あほ、商売っちゅうんは1人でするもんや無いで?
金よりもまずは人間関係が大事なんや。
せやから、商売をする人間は金よりもまずは
強固な関係を築くのが基本やで。
部下から絶大な人気を持つ商売人は成功するんや」
「なる程…となると、花木さんは流石ですね」
「やっぱり商売の才能もあったか。
そりゃまぁ、無いとあんなに客は来ないけど」
「ほぅ、花木はんは人心掌握も得意なんか」
「そうだな、部下からは絶大な信頼を持っている。
で、あいつらは花木が誤った方向に向おうとすれば確実に止めるだろうし」
「部下に愛されとるかどうかは失敗したときに決るからなぁ。
失敗したときに部下が必死に助けてくれようと動くか
全く動かへんか、逆に足を引っ張るように動くかや」
「花木の場合は間違いなく前者だろうな」
絶対にあいつが道を誤ったり、失敗したら部下達は必死にカバしてくれるだろう。
誤った道を進もうとしたら止めるだろうし、失敗したら必死に色々と手を考える。
優秀な部下達にあそこまで愛されるのは何故なのかは不明だがね。
普段はあんなにグータラしてるくせによく分からん。
「なる程、やっぱりあの子は優秀な商人になるで。
せやけど、欲が無いんが致命的やな。
確実にあの子は今の状況に満足しとる。
これやと、あれ以上の利益を出そうとせぇへんで。
折角の才能が勿体ないなぁ」
「あいつは金が欲しくて才能を磨いたわけじゃ無いだろ。
金が欲しいなら、四宮神社に結構寄付しないし
そもそも里の発展にあそこまで貢献してない」
「もしかして、里があんなに大きいんは」
「あぁ、花木が稼いだ金の殆どを投資してるからだな。
因みに四宮神社も賽銭を殆ど発展の方に回してる。
一応、最低限のお金ともしもの場合の備蓄はあるけどな」
「はぁ…なる程なぁ、通りで愛されとるわけや」
「後、久里も里の発展に力を入れててな。
あぁ、久里は花木の話に出て来た奴だ。
大工してる。そいつも格安で家を建ててる。
だから、里の住民達も家を建てやすいんだ」
「ほへぇ、商売人の鏡やな」
「そうなのか?」
「せやで、稼いだ利益は成長に投資するのは基本や。
そこから更に稼げるようになるし、他の人達の生活も安定する。
自分で金を止めておくんは三流以下がする事やで」
俺は商売のイロハなどは知らないが、実際貯めるよりは使う方が良いだろう。
貯めてもそれ以上の大きな利益が生じるわけでは無い。
だが、貯めずに使えばドンドン利益も増えて行くはず。
発展の方にお金を使えば、それだけ信頼も向けられるし
何よりその地域から注目されて、より利益を上げられるようになる。
地域も活性化、好循環が生まれて自分もより稼ぎやすくなると。
「金は天下の回り物や、回さな天下は回らへん。
天下を回せば金も回るし、うちの財布も潤うで。
そんで、更に回して更に潤う。好循環を作り出すんが商人や」
「天下を回すほどの利益が出れば凄いな」
「些細な金でも天下は回る。あくまで回る速度が少し遅くなるだけや。
せやから、金は回さないかん。そうせな、天下は停滞するで」
「大きい話ですね」
「そもそも、神の会話だし、規模が巨大なのは当然でしょ」
「それもそうですね」
そう言えば神だったな。そりゃ大規模な話しになるわけだ。
天下を回そうと思えば1人で回せちまうほどの存在だし。
そりゃあ、あれだけの事を豪語するのも当然か。
「ま、せやから金は使ってなんぼや。
ちゃんと稼いだ金を使っとる花木はんも久里はんも素晴らしい商人や。
是非うちの信者になって欲しいもんや」
「それは無理よ、間違いない」
「まぁ、分かっとるで、せやけど2番目くらいに信仰してくれへんかなぁ」
「今更ですけど、2番目ってどうなんでしょう。
仮に2番目が存在するなら、誰を信仰してるか気になりますね」
「そうだな、どうなんだろう」
「じゃあ、聞けば良いんだよ、茜ちゃん」
「はーい」
時江の声に反応した茜が静かな足音を立ててやって来た。
急ぎ足だったようだが、足音が殆どしないのは流石だな。
「はい、何でしょう?」
「えっと、実は私達で話をしててね。
茜ちゃんが1番信仰してる神は」
「言うまでも無く圭介様です」
「まぁ、巫女だしね…じゃあ、2番目は?」
「に、2番目ですか? うーん、圭介様以外の神様を信仰と考えたことがありませんでした」
「私達神々と交流していて、まさか信仰の対象ですら無かったとは…」
「圭介様一筋ですし」
「そこだけ聞くと、何だか恋愛模様って感じだけどまぁ良いわ。
じゃあ、もし2番を考えるとすれば誰?
軍神、叡智、料理、商売では」
「そうですね…その4つなら料理ですかね」
「っし」
時江が小さくガッツポーズをした。
「わ、私じゃ無いの!? 私が一番長いのに!」
「えっと、確かに戦いも大事なんですけど。
それよりも私、皆の笑顔が見たいんです。
私の料理で四宮神社に居る皆が喜んでくれるのが嬉しくて。
だから、その4つだと料理を選びました。戦いは3番です」
「その3番は何? その4つの中で3番って事?
それとも圭介の全能も含んだ5つの中での3番って事?」
「はい、圭介様も含んだ5柱の中で3番目です」
「ほ…少し安心したわ」
「え、叡智は…」
「4番目ですかね」
「さ、最下位は免れましたか」
「あはは! まぁ、茜はんは商売って雰囲気や無いもんなぁ」
「最下位なのに元気ですね…」
「そらそうや、こんなんで右往左往するわけ無いやろ」
何か…音時花ってかなりメンタル強いんだろうな。
商売は失敗も多いし、そこら辺は相当鍛えられてるんだろう。
「じゃあ、次は刀子とかは…」
「じゃあ、いっその事、全員呼びます?」
「あ、それ良いわね」
「面白そうやな、第2位決定戦か」
「1位じゃ無い所がまた斬新だな」
「ほら、1位は確定してるし。だって四宮神社内でよ?
そんなの、圭介が1位というか、ぶっちぎりなのは当然でしょ」
「人気投票とかで1位1000票に対し、2位が100票って感じでしょうね」
「ぶっちぎりすぎるわ…でも、あながちそうだろうから何も言えない」
「そこまで根強く信仰されとるんか、流石は圭介はんやな」
「長いからな、ここに居る連中との交流は。
これで低かったら、俺は性格を変えないと駄目だろ」
「それもそうやな」
「じゃあ、茜ちゃん。皆を呼んできて」
「分かりました」
結局やるんだな…まぁ、全員の考えを聞けるのも面白いかな。




