繁盛している店を探して
さて、里まで下りてきたな。
今日もいつも通り賑わってて安心したよ。
「ほぇ~、流石に賑わっとるなぁ」
「まぁな。と言っても、俺は何もしてないから得意げにするのは変だが」
「何言っとるんや、圭介はんの影響で賑わっとるんやで? 誇れるに決っとる」
結局俺と言うよりは茜の影響力の方がデカいだろうけどな。
昔の貧弱で泣き虫の茜が今は立派な巫女。
その頃から四宮神社を見てる人達は嬉しいだろうなぁ。
茜は俺の娘だが、この里の人達からして見ても可愛い娘みたいな物だ。
茜の後に生まれた子達からして見れば格好いいお姉ちゃんだったりしてな。
「さて、ほな早速繁盛しとる店を探すで」
「あぁ」
俺は音時花と一緒に里の全体を見て回る事にした。
この里をのんびり散歩というのは珍しい気がする。
結構前から居るけど、存在力が大きいから普段通りは見にくいんだよなぁ。
でも、この状態なら問題無く見れる。
「お、なんやこの行列」
「確かに結構な列だな」
あまり人が居ないというのにこの行列。
とは言え、この通りには見覚えがあって
俺の予想だとこの列の先には知り合いがいると予想してる。
知り合いと言うか、もはや友人というか親友みたいな奴。
と言うか、殆ど家族みたいな物かも知れない。
こっちに来てからと言うもの、いつもずっと居る奴だし。
「これだけの店、きっと相当な凄腕やで。
どんな商売をしとるんか観察せな」
「並ぶんだな」
「当然やで」
「直接会いたければ会えると思うけど…」
「何やて? 列に並ばず?」
「あぁ、ま、商品は買えないだろうけど」
流石に列を無視して商品を買うというのは出来ないからな。
それは不平不満が生まれかねないし。
「ほぅ、でもうちは並びたい気分やで」
「そうか。じゃ、並んだ方が良いな」
「せやせや!」
音時花が言うんだ、大人しく従うとしよう。
「しかし、中々列が進むのが早いで、回転効率も悪うないみたいやな」
「あぁ、この列だ。普通なら1時間以上並びそうだが、この勢いなら20分くらいかな」
予想以上に列が進む速度が速い。しかし、お客が来るのも早い。
丁度この時間帯がかき入れ時だったのかも知れない。
時間は1時。恐らく3時に甘味を食べるからこの時間に並んでるんだろう。
しかしこの列には子供が多い。ま、甘い物は子供が好きだからな。
「で、子供も多いと考えると、甘味処やろうか。
回転効率から考えてその場で食べられる方式では無く
お持ち帰りのみっちゅうんがが無難やな」
「ん? いや、そうでは無かったと思う」
前に行ったときは奥の部屋に案内されてたしな。
「お、そろそろうちらの番やな。しかし、団子屋とは凄いなぁ。
こう言う甘味は飽きられる事が多いから商売は苦労するんやけど
まさかこれほどとは…最近出来た店ならあり得るけどな」
「10年以上前からあるな」
「10年!? そりゃまた凄いなぁ…それだけ長くてこの列か。
よう飽きられへんな…意外やで」
「品物は結構沢山あるしな」
「いらっしゃいませ!」
「どうも」
俺達を迎えてくれたのは羽衣だった。
恐らく花木は奥の方でのんびりしてるか指示を出してるのだろう。
そう言えば、会計は基本羽衣だったな。
「お、言った通り食事処もあるんやな」
「今日はお持ち帰りが多いみたいだな」
「はい! それにしても圭介さん。そのお方は誰ですか?」
「え!? 正体ばれてた!?」
「あはは、一般の人は騙せても、私の目は誤魔化せませんよ。
頭領様でも一目で見抜くと思いますよ!」
「まぁ、あいつはいつも一緒に居るし、この容姿も知ってるからなぁ」
「申し遅れたで、うちは最近こっちに来た商業の神様や。
商売をしとるんなら、うちを信仰してくれてもええで」
「いえ、私達は全員圭介様を信仰しているので、そう言うのは」
「ありゃ、予想はしとったけどやっぱ無理かぁ」
「長いからな、そう簡単に俺の信者を奪えると思うなよ?
特に妖怪関連の信仰はえげつないぞ」
「妖怪が信者というのは中々斬新やな。
ま、理由は大体検討が付くけどな」
「さて、話はここまでにして。後ろがつかえてるんだし早く頼めよ」
「お、せやな、待たせるのはあかんか。
それじゃあ…この羊羹団子っちゅうんをお願いするで。
何か斬新や」
「はい、分かりました。はい、羊羹団子、100文です」
「安いなぁ、ほれ」
「ありがとうございます!」
羊羹団子は5本で100文だ。確かにかなり安い。
1本で100文だったら高い気がするが5本だからな。
「しかし、これじゃあ儲からへんで? もう少し高うても買う人はおるやろ?」
「頭領様が、私達は商売というよりは交流したいだけだから
値段は均一で100文にしようよ。と、おっしゃっていたので」
「その頭領っちゅうんは商売に興味が無いんか。
ならまたどうして団子屋を始めようと思ったんやろうな」
「人間の皆さんの笑顔を見たいからだそうです」
「っは、いつも奥の方でグータラしてるのによく言うな」
「聞えてるよ~」
「うぉ! 花木! ぬるっと出てくるな!」
カウンターからひょこっと顔を出すとか意味わかんねぇ!
「まぁまぁ。私は結構隠れるの得意だしね~」
「なら、あんたが頭領やな」
「そうだよ~、商業の神様~。初めまして~、花木と言います~
妖怪兎たちの頭領とこの団子屋さんの店長をしてます~
最近はお店の規模を拡大しないかと親友に言われてまして~」
「お、そうなの?」
「うん~、久里が里も増えてきたし、そろそろ勢力拡大を目指そうってね~
共同で目指すことにしたんだよ~」
「その久里って言う子も商売をしとるんか?」
「大工さんをしてます~」
「四宮神社を大きくしたときとか祭の時とかに世話になってる奴だ」
「ほぅ、そらええな。そっちも勧誘や!」
「無理だと思うな~、久里も四宮神社の信者だよ~」
「や、やっぱり四宮神社の影響下では信者は増やしにくいんかなぁ…」
「そりゃね~、圭介と仲良くしてたらね~」
「うちも交流型の信仰というもんを取り入れてみるわ」
「そう言う方針を俺はしてないんだけどな」
「勝手に周りが来る感じだからね~」
「あぁ、特にお前は筆頭だな」
「えへへ~、居心地が良いのが悪いんだよ~」
何を言っても四宮神社に来そうだな、こいつは。
「ええなぁ、交流っちゅうんは。うちも頑張るで。
じゃあ、兎はん、今日はこれで帰るけど
また何かあったら話そうで。圭介はんと一緒におればまた会えそうやしな」
「分かったよ~、商売の神様~」
しかし、商業の神である音時花が花木の私生活を見たらどう思うだろうか。
あいつはいつもぐうたらしてるし…ちょっと不安だな。




