海へ
海、釣りをした時くらいしか来たことは無い場所だった。
夏場と言う事もあり、海辺には泳ごうとしている里の人達が居た。
流石に俺が海に来たと言うのが公になると面倒だし
ここはあまり人がいない海岸に移動するとしよう。
「ふぅ、ここなら問題無いな」
「何か問題があったんですか?」
「あぁ、人が多くてな、人がいない砂浜を探すのがしんどかったんだ」
「あなたの場合は全部を見通して移動が出来るから
こう言うときは便利よね」
俺が四宮神社側のメンバーと一緒にその砂浜に移動した後
すぐに俺の後を追い、時音が山明神社のメンバーを連れてきた。
「おぉ! 海!」
「まさか俺までここに来ることになろうとは」
「まぁ、良い機会やし楽しんだ方がええで」
海に来たメンバーは俺達神2人と茜、藜、葵、水希、水菜、刀子
キャン、キキ、サラ、四季、花木、イーリアの12人。
結構な大所帯だな、12人はグループでもかなり多い類いに入る。
これでも全体の半分もいないんだし、交流がある人数が多いのがよく分かる。
「正直、何故私を誘わないのです? デートですか?」
「あなたがこう言う戯れが好みとは思わなかったからね」
そして、新しいメンバーが向こうから自らやってくる。
時雨と恋歌、これはまた増えたな。
「となると、やっぱりあなたも来るわよね」
「ま、まぁ、辺境の地に複数の神が集まってる気配を感じれば
勿論来るよ、流石に仲間外れって言うのは辛いからね」
当然の様に時江と里香も合流した、まぁ、流石に力ある神々が
3柱もこんなへんぴな場所に移動してたら、何かあると感じるよな。
「でも、これはまた海って事は、釣りでもするのかな?」
「いや待ちなさいよ! 何でこの流れで釣りだという発想が出た!?
こんな人数で釣りとかあり得ないでしょ!?」
「え? それ以外に海に来る理由なんてあるのかな?」
「料理の神、あんたなんか……俗離れしてるわね」
「そ、そうかな?」
この複数人で砂浜に来ているこの状況で最初に出てくる発想が
まさかの釣りという、衝撃的な発言。
料理の神、もしや料理くらいにしか興味が無いのか?
流石一貫してるな…一貫しすぎて何か酷いけど。
「えっと、今回私達が海に来た理由は海水浴よ」
「海水浴? 海に浸かるの?」
「えぇ、その通りよ」
「…そんなの、疲れるだけじゃ」
「あのね、遊びって言うのは総じて疲れる物なの。
疲れて、思い出を作る物なの、しんどくない遊びはないの」
「それは分かるんだけど…え? 必要なのかな? この遊び」
「それを言ったら、料理だって食べられる物を食べれば良いだけじゃ無い。
料理なんて面倒な事しないで、適当に味の無い物食えば良いじゃ無い」
「た、確かに…」
「どんな物にも戯れは大事なの、私達は戯れをするだけ」
「は、はぁ…」
遊びってのは確かにただ生きて行く分には必要は無いだろう。
しかし、それはただ生きて行く分で必要無いだけであって
長い目で見れば大事な事で、生きる事に喜びを覚えるための物。
楽しいと思う事を何もしなけりゃ、その内脳みそが腐るだろうな。
「まぁ、そう言うわけでこれから海水浴よ、色々と遊ぶ道具はっと」
「それならこれはどうですか?」
「何これ」
「ビーチボールです、砂浜で遊ぶ競技ですね」
「知らないわよ」
「あたしも知らないかな」
「知らないのは当然でしょうね、何せ」
「まぁ、分かるけど…結構色々な遊びがあるのね」
「勿論ですよ、毎日が平和でのどかなこっちとは違うのですから」
実際、こっちの生活はのどかで楽しいからな。
しかし、いきなりビーチバレーというのはどうなのだろう。
やっぱり、最初は海が無難では無いかと思うのだが。
「海に入りたいのですじゃ!」
「暑いのはいやです」
「でしょうね、しかしどうやってはいるのです? その服で」
「……」
「水着は…あ、あれ? 水着が無い…」
「持ってきてたはずじゃ?」
「た、確か賢子さんの所で貰ったと思うんですけど…」
「貰ったって事は会いに行ったの? 誘わなかったのね」
「賢子さん、蛙ですし」
「あぁ、海は無理だろ」
蛙は淡水に住むからな、海水は無理だろう。
「干からびて死にますね、蛙ならば」
「水に入って逆に干からびるの?」
「えぇ、干からびます、身体の水分が抜けて大変な事になりますね」
そう言えば、そんな話を聞いたことがある、やっぱり淡水の生き物は淡水が1番だな。
「となると、誘わないのが正解だったようね」
「どうでしょう、蛙ならば死にますが、蛙の妖怪ならば…
身体のつくりもほぼ人間と同じでしょうし、無事であると言う可能性はあります。
しかしながら、危険性が高いでしょうし、やはり誘わないという選択が1番ですね」
何かあったら困るしな、そうならないためにも誘わないのは無難だろう。
「とまぁ、この話はここまでとして、水着がない状態で海には入れません」
「うぅ…せ、折角来たのに」
「しかし、私達は一応は神、物質を召喚することは出来ます」
「じゃあ、圭介様達に作って貰えば!」
「はい、可能ですね、正確には私達では無く圭介さん限定ですが」
「へ? 俺?」
「えぇ、私達は私達が司る関係の物しか召喚出来ません。
私の場合は書物、時音さんの場合は武具、時江さんの場合は…具材とかですかね。
あるいは狩りの為に使う道具? 正直、料理とは関係ない気がしますが。
で、全能である神のあなたなら、服くらいは出せるのでは?」
「いやまぁ、出せるだろうけど、流石にこんな事で力を行使するのはなぁ」
「普段から転移を使ってるのに何を今更」
「ごもっともだ」
しかし、女物の水着を召喚するって…どうなんだろう。
と言うか、俺にそんな物を召喚出来るのだろうか。
「各々のイメージに合わせて召喚してください」
「当たり前の様に容赦ないことを提案しないでくれ」
「良いから、皆さんが楽しむためです」
クソ、からかいやがって…もう良い、ひとまず召喚してやる。
とりあえず全員のイメージを…あぁ、難しいな、こりゃ時間が掛る。
ひとまず、全員似たり寄ったりの水着を召喚しよう。
それが1番楽だ…細かく分類分けしてたらしんどいしな。




