料理の批評
「料理出来ました!」
嬉しそうな声が、いくつも同時に神社をこだました。
どうやら、料理の完成は同じタイミングだったようだ。
自分達が作ったであろう料理をお盆に乗せ、台所から出て来た。
全員の料理は意外と特徴的だった。
少し予想外だ、同じ様な品を作っていたのかと思ってたが。
ん? よくよくみると湯気の出が少し違うな。
あぁ、そう言う事か、全員が完成するまで待っていたのか。
なる程なる程、だから同時に出て来たわけだ。
「はい、どうぞ」
いくつもの料理が机に運ばれてきた。
1品1品の皿の大きさは全体的に小さく
お盆に全員の料理をのせられるようにしていると言う事か。
「ほぅ、これはまた」
「いただきます」
「え? 早くない?」
いくつもの品が小さく収まっていて、ある意味感動したよ。
料理ってこんなにも細かく作れるんだな。
茜の料理は…これだな、豚汁、汁の濃さが茜が作ってくれる味噌汁と同じだ。
で、花木の料理もすぐに分かった。
花木の料理は3色団子の様な色違いの押し寿司だった。
これは手まり寿司だろう、意外な所をせめてきたな。
具材の色合いも3色団子に似せているというのも凄い。
「花木と茜の料理はすぐ分かったが、後はあまり分からないな」
「えぇ、水希、水菜、あなた達はどれを作ったの?」
「一緒にこの天ぷらを作ったよ!」
「中々上手く出来たと思うで、味見してないけど」
「しなさいよ…ったく、本当にあなた達はいつも味見をしない」
「そうだよ、味見は大事だよ? 前に何度も痛感したよ、私」
茜も最初は味見などをしないで料理を作っていたからな。
後、黒焦げにもよくしてた、刀子が四苦八苦しながら食べてたのを思い出す。
いや、俺と茜も結構苦労しながら食べてたんだけどな。
その内、味見を覚えてからは意外と成長が早かった。
食べられる物を作れる様になるだけで、何度も料理に挑戦し
その結果、何とか美味しい物が出来るレベルになった。つい最近だけどな。
「あの頃はお前失敗ばかりだったしな、黒焦げにしたり」
「はい…動物さん達に悪い事をしてました」
「全部食べてたの?」
「は、はい、食べてました」
「誰と?」
「圭介様と…」
「じゃあ、食べられる物は出来てたわけだね」
「い、いえ…黒焦げでした…食べる度に不味いと実感できる程味付けも下手で…」
「……た、食べさせられてたんだ」
「自分が作った物なんだ、自分も食べろと言われてました。
最初、それでちょっと料理を作る気力が無くなってましたが
圭介様の美味しい料理を食べさせて貰う度に
私もこんな料理を作りたいって思って、頑張って練習して
失敗して、それを食べて、また練習してを繰り返してました」
「反復練習は大事ですね、むぐ…ふむ、味付けが濃いです
この料理は恋歌ですね、しっかりしなさい」
「す、すみません」
「食べて分かるのね、そこら辺気にしてないと思ってたけど」
「いえいえ、私も恋歌の料理は食べてますしね、味付けの癖は分かります。
恋歌は少し薄味の料理を作る、今回の料理では美味しくしようと
きっと濃い味を作っているとは予想してましたが、濃すぎです」
「はぃ…」
「意外と聡いのね、じゃ、私もいただきます
むぐ…んー、あなた達の料理は初めて食べるけど」
「どんな感じ?」
「…野性的な味がするわ、これ最低限の味付けしかしてないでしょ」
「おぉ! 流石時音さんや! その通り、最低限の味付けしかしてまへん」
「ったく、ま、美味しいけどね」
ひとまず俺も茜が作ったであろう豚汁を飲んでみるか。
「よし、じゃあ俺も、いただきます」
茜たちの経験を想像し、その上で挨拶をした。
食事に大して感謝をしなかったことは無いが
茜たちの苦労を思うと、食事に対してより深い感謝が出来る。
「じゃ、最初は」
ん…茜の料理は基本薄めの味付けになってる。
今回は少し濃いめの味付けにしたと言う感じかな。
味噌の量を少し増やしてるな。
で、アクも完全に取り除いているのだろう、苦みなどは一切ない。
具材の1つ1つも食べやすい様に小さめに切ってある。
かといって小さすぎず、存在は確かに感じられる。
小さすぎず大きすぎない程よい大きさの具材達。
細かい所に気を配っている、茜らしい料理になっているな。
「ど、どうですか…?」
「ん、少し濃いめの味付けにした感じかな、具材も程よい大きさで食いやすい
苦みやえぐみなどが無いから、アクを細かく丁寧に取ったのも分かるよ」
「わ、分かるんですね!?」
「あぁ、でもどうしてそんなに驚く?」
「毎日食事を楽しんだり、感謝してたりすれば
料理の過程で頑張ったことや、味の変化に気付くと思うよって伝えたから」
「ほぅ、それで俺が味の変化に気付いて毎日食事を楽しんでるのが分かったか?」
「はい!」
「俺は毎日お前の料理、楽しみにしてるよ、ドンドン美味しくなっていくんだから
楽しみにしない方が難しいって」
「あ、ありがとうございます! 私、もっと美味しいお料理を作ります!
圭介様達の為にも、食べさせて貰ってる動植物たちの為にも!」
「あぁ、美味しく料理をするのは大事だからな」
「はい!」
「よかったね~、茜~」
「じゃ、次は花木の料理を」
「おぉ~、よくそれが私の料理だと分かったね~」
「何となく見た目も似てるし、具材もお前が好きそうな具材だしな」
「見た目も似てるって言うのはお団子にって事だよね~?」
「そうだよ、それ以外に何がある? お前の顔にでも似てると?」
「あはは~、それもそうだね~」
花木の料理は結構美味い、手まり寿司となると、意外と小細工が効かない料理だろう。
酢飯と具材だけで勝負をしている節があるからな。
しかし、酢飯も美味いし具材も丁度酢飯に合うように味を繊細にしていた。
手まり寿司は小さいが、小さくても確かな存在感も感じる。
「どう~?」
「簡単に見えるが、簡単ゆえに細かい部分が大事になる料理だよな。
で、お前の場合は酢飯の酢の量も丁度良いし、酢飯に合うように具材を繊細にしてる。
小さいが、確かな存在感を感じるよ、繊細な味わいで美味しい。
小細工が効かない団子を毎日作ってるだけはあるよ」
「繊細な味わいって言うのは褒め言葉だね~」
「ご、ご主人! キキ達の料理も食べてくだされ!」
「お前らは何を作ったんだ?」
「わっち達はこの肉じゃがを作りました!」
へぇ、この肉じゃがを2人で作ったのか。
「肉が硬いです」
「な!」
「それと、味が薄いですね、もう少し濃いめが良いと思いますよ」
「うぅ、で、出来ればご主人からだめ出しをされたかったのじゃ…」
「くぅ、既に食べられてたなんて…しかも辛辣な評価」
と、とりあえず俺も食べてみよう…あ、確かに味は少し薄いな。
もう少し醤油があっても良い、砂糖はもう少し少なめが良いかな
で、みりんは丁度良いくらいだと感じる。
更に全体にもあまり火が通っていないように感じる。
それと、あまりアクが取れてないんだな。
でも、1口1口は程よい大きさになっていて食べやすい。
少し硬いように感じても、やはり少しだけだし
少し歯応えがある方が良いという人には良いだろう。
味付けだって所詮好み、この味付けが好きな人は必ず居るだろう。
意外と俺はこの味付けが好きでもあるしな。
「ど、どうです…?」
「美味しいぞ、味付けは俺が好みの味だ、具材も1口1口が丁度よくて食べやすい」
「や、やった!」
「ただ、アクがあまり取れてないな? もう少し取った方が良いぞ?」
「は、はい、時江さんにもだめ出しをされました…もう少し早くに気付けば…」
「圭介、あなたかなり食通ね、私にはあまり分からないわ。
具材も私好みの硬さだし、私は美味しいと思うんだけどね。
アクが取れているかいないかとかさっぱり分からないわ」
「それは普段からあまりアクを取ってないからだと思いますよ?
圭介さんの料理を作っているのは茜さんで、アクは事細かに取るでしょうが
時音さんの場合は自分で作るんですよね? 意外と取ってないのでは?」
「それは…まぁ、アクとかあまり分からないし、でもあなたは?」
「恋歌もあまりアクを取りませんからね、これが基本だと思ってます。
しかし、この豚汁を味わって考えが変りました、今度からアクを取らせましょう」
「私も今度からはアクを取るわ」
俺達は各々色々な評価を持ちながら各料理を食べた。
やっぱり料理の神に直々に教わっただけあって、今までよりも美味しい。
しかし、決して格段と美味しくなったわけでは無いから
元々全員、かなり料理が上手かったと言うことなのだろう。
水希と水菜は格段に成長したと言えるけどな。




